撮影日記 2008年6月分 バックナンバーへ今週のスケジュールへTopPageへ
 
 

2008.6.26〜29(木〜日) 1000リットルの水


 金魚の購入や、生まれた稚魚の成長に合わせて容器を増やしていった結果、いつの間にか、飼育容器の容量の合計が1000リットル(1t)超えてしまった。
 そして、まだ薄暗いうちから餌を与えたり、その1000リットルの水の一部を水替えをするのだが、水替えが終わった頃には、次の餌やりの時間が迫っているので、ひたすらに飼育作業を続けることになる。
 飼育というよりは、もう養殖に近い感じの忙しさだ。
 ただ、随分要領が良くなってきたし、金魚のことも分かってきたし、効率よく世話ができるように設備を連日大改造してきた効果もあって、これからは多少ゆとりが生まれるだろう。

 まず、生まれて間もない稚魚は、小さな容器で飼った方がいいことが分かった。大きな容器で飼うと、同じ量の餌を与えたときに餌の密度が低くなってしまうから、どうしてもたくさんの餌をやらなければならないし、稚魚用の餌は高価なので、コストがかさんでしまう。
 そして、金魚が大きくなるについて、大きな容器へと移していく。
 最初からそれがわかっていれば、あらかじめトータルとして必要な容れ物の数を把握した上で、それらを上手に配置すればいいのだが、最初はまったく無知なものだから、稚魚が大きくなり、これまでの容器では飼えなくなってきた時に、いちいち新たな容器を追加購入し、それを設置する場所をなんとか作り出し、そこに酸素を供給するためのエアーのチューブをひくなど手こずった。

 僕はだいたい頭が悪いので、器用にたくさんのことを学ぶことができにくい。
 写真の世界で生きていくことだって、頭さえ良ければ、いろいろな人のいろいろな飯の食い方を器用に吸収すればいいのだろうが、それが出来にくいから、僕は海野先生からだけ、その代り徹底してその一人のやり方を勉強すると、ずいぶん以前から決めていた。
 生き物を飼うことだって同じ。いろいろな生き物の飼い方を器用に習得できない代わりに、何か1つのものを深く、徹底して飼い、それを他のものへと応用する。
 写真撮影だって同じ。
 今回僕は金魚の飼育に異常なほど力を入れているが、そこにはそんな理由がある。当面時間の無駄がたくさん出るが、それは時間の投資なのである。

 たとえば、金魚を飼ってみると、ヤゴを簡単に飼育する方法があることに気付く。
 金魚の餌の中の一部をヤゴに与えてみると、それが生まれて間もない小さなヤゴの飼育に非常に適することがわかってきた。
 ヤゴをただ飼うだけなら、屋外に置いた容器の中にヤゴを入れておけばいい。屋外では、たくさんの微生物が発生するから。
 だが、水槽の中で、極小のヤゴが大きくなるまでの過程を連続して撮影しょうと思えば、小さなヤゴに適した、しかも手間がかからないいい餌が必要になる。
 また、数千匹生まれる金魚の中から不要なものを、今度は成長して大きくなったヤゴの餌にするなどの方法もある。
 さらに、先日子供のザリガニを飼育するための自作の容器を紹介したことがあるが、それだって、将来そこでヤゴやその他の生き物を飼育し、羽化の瞬間などスタジオで、しかも効率よく撮影するために作ったものだ。
 ザリガニ飼育用の容器は、面倒な水替えを不要にするように作ったが、しばらく使ってみた結果、僕の思惑通り、本当に水替えが不要になった。
 水溜りのような場所に住んでいるヤゴだって、過去に飼育した範囲では、水がきれいな方が成長が良かったりして、結果が良かった。
 ただし、この場合の水がきれいとは、澄んでいるなどという意味ではなく、アンモニア、亜硝酸塩、硝酸塩の濃度が低い方がいいという意味。
 簡単に言ってしまえば、ヤゴの排泄物などを分解する微生物がたくさん住み着いていて、そこにちゃんと生態系ができている方がいいということ。

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多忙のため、7月10日前後まで、メールの返信が極端に滞る可能性があります。

 

2008.6.25(水) 写真の醍醐味

 僕はゴキブリが嫌いだが、もしもゴキブリの本を作ることになったなら、ゴキブリの出没を大喜びするだろう。たとえ嫌いな相手であっても、仕事として写真を撮らされるることによって興味を感じるようになる。それは、プロの写真の世界の最も面白い面の1つだと思う。
「この写真は、いったいどんな動機で撮影したのですか?」
 とたずねられ、
「これは、仕事なので、義務のようなものです。」
 と答えると、
「つまんないですね。」 
 という返事が返ってくることが多々あるが、とんでもない。
 撮らされることには、撮らされることの面白さがある。人からテーマを与えられることによって、自分でも気付かなかった自分に気づくことができる。
 自分のことは、自分でもわからないのであり、
「俺はこれが好きだ。」
 というのは、所詮自分の思い込みだと僕は感じる。僕は、自分の脳の中だけで生きたくはない。自分の想像ができる範囲に閉じこもって暮したくはない。
 だから、僕にとって仕事で写真を撮らなければならないのは、とても大切なことであり、それは、自分の思い込みという殻を破ってくる。

 さて、金魚の稚魚にカメラを向けてみると、たかが稚魚が食べる、稚魚が糞をするなど、単純なシーンの中にも、思いがけない発見がたくさんある。おそらく、金魚マニアの人たちでも見たことないものを、ど素人の僕が見る。
 写真って凄いなと思う。写真撮影には、被写体を観察させる効果がある。
 
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2008.6.23〜24(月〜火) 食べる・糞をする

 6月に限って言うと、今年は、おそらくここ数年で最も写真を撮っていない年だろうと思う。ほとんどの時間を、金魚の世話に取られてしまう。
 金魚は、世話をするだけでなく撮影が目的だから、写真が撮れなければ話にならないが、にもかかわらず、忙しくて写真を撮るところまで至らない。
 非常に苦しい。
 6月上旬に採卵した卵から生まれた稚魚は、ずいぶん大きくなったのだが、結局一度も写真を撮ることができなかった。だから、6月中旬に採卵した卵に関しては、確実に写真を撮らなければならない。

 さて、気力を振り絞って、生まれて間もない金魚の稚魚にカメラを向けてみたら、突然に撮影が面白くなった。
 稚魚のお腹に中に餌が見えるのだが、肛門のあたりまで、餌の粒がきれいに一列に並んでいる様子が見える。魚の大きさは5ミリくらいで、餌はパウダー状の、肉眼ではほとんど顆粒が見えないようなものだが、そんな小さな餌でも、稚魚にとってはそれなりに大きい存在であるように見える。

 こちらは、ブランシュリンプという甲殻類の幼生を与えた後。
 小さくても、ちゃんと糞をする。
 食べると糞をするは児童書の中では基本中の基本だから、いい感じに、わかりやすく写真が撮れると気分がいい。
 これで、ようやくのっていけるような気がする。写真を撮りたい、という意欲が湧いてきた。 
 
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2008.6.19〜22(金〜日) 25メートルプール

 先日人工授精させた金魚の卵の孵化が終わり、数万匹の稚魚が泳ぎはじめた。
 今シーズン、最初に採った一腹目の卵は、稚魚の段階で病気が出て全滅。いろいろと飼い方に反省すべきことがあった。
 その次に採った卵は、現在稚魚が1センチくらいの大きさになり、これまでのところは快調に育っている。
 そして今回の人工授精の卵は、今シーズン3度目の繁殖になる。

 数万匹と言っても、魚を飼ったことがない人にはピンとこないかもしれないが、上の画像のような密度で、畳一畳分くらいの広さにびっしり魚が泳いでいると思ってもらえればいい。
 通常、金魚を飼育する際には、選別と言って形が良くない魚を取り除き、一定の形のもののみを残していくが、僕は今回、同じ親からいろいろな形の子供が生まれるという視点で写真を撮ろうとしている。
 つまり選別をすることができないので、金魚の成長に合わせて飼育スペースをどんどん広げていかなければならない。
 産まれたばかりの5ミリ程度の稚魚で畳一畳の広さが必要なのだから、この先どこまで場所が必要なのかを考えると、ちょっと不安にもなる。金魚について知らなかったこともあるが、無茶な計画を立ててしまったようだ。
 たぶん、最終的には25メートルプールくらいの場所が必要だろうから、どこでどんな妥協をするか、いずれ考えなければならないだろう。
 もっとも、似た形や模様のものを何匹も残す必要はないのだから、多少選別はできるのだが、色と形の判断ができるのはかなり先の話なので、それまでは死に物狂いの飼育が続きそうだ。
 
「この両親からこの子供が生まれました。」
 、と写真を見せるためには、当然両親の写真も必要になる。
 ところが、その肝心なメス親が産卵後に調子を崩しているので、これまた死に物狂いでケアーしなければならない。
 金魚のブリーダーのブログをいろいろと見てみると、産卵後の金魚は高い確率で調子を崩し、死んでしまうことも、十分にあり得るようだ。
 それなら産卵前に写真を撮っておけばいいということになるが、産卵前は卵を持っているのでメスのお腹が極端に膨らんでいて、日頃の形ではないので、産卵後に撮影したかった。

 さて、来年からは野外での撮影の時間をぐんと増やす予定でいることは先日も書いた。
 だが、来年以降も金魚の繁殖は続ける予定なので、金魚の稚魚の世話が忙しく事務所をあけられない2週間くらいの期間は、並行してカタツムリやオタマジャクシなど、おもにスタジオや庭での撮影に徹底して打ち込もうと思う。
 
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2008.6.17〜18(水〜木) 金魚飼育のなんたるか

 飼育室の中に置かれた発泡スチロールの容器。中には病気療養中の金魚が一匹ずつ入っている。下世話な話だが、合計で2万5千円なので、死なすわけにはいかない。
 いずれも、産卵後数日で、元気がなくなったので隔離したものだ。

 金魚の飼育のなんたるかが、少しわかってきた。
 まずは、金魚の形は遺伝の影響を受けるが、後天的な要素も決して少なくはないこと。つまり、形がいい金魚を育てるためには、飼い方もとても大切。
 では飼い方とは何か?と言えば、水と餌。
 水は当然として、餌をたくさん与えると形がいい金魚になりやすいが、同時に消化不良などの病気にもなりやすい。
 がしかし、本格的にマニア的に金魚を飼う場合、一匹の親から生まれた数千匹の子供の中から数匹を残し、残りは「はねる」と言って、殺してしまったり、除外してしまうのだから、形が良くない金魚を育てることにはほとんど意味もない。
 だから、餌を、病気にならない範囲でなるべく多く与えたい。
 ところが、餌の適量はその日の水温や金魚のコンディションによって日々異なり、その見極めは実に難しい。

 そして、金魚が体調を崩した場合は、一刻も早くそれに気付き、手を打たなければ、取り返しがつかないことになる。僕はここのところ、毎日、何度も何度も飼育室に足を運ぶが、金魚の体調は毎日少しずつ違うことがわかってきた。
 元気がいい日、そうでない日。とにかく、こんなに微妙なものなのか!と驚かされる毎日だ。

 さて、金魚に時間を取られ、野外で写真を撮る時間がすっかりなくなり、金魚の撮影を始めたことを後悔したりもした。
 だが、以前にもちょっと書いたが、来年からは撮影のスタイルをこれまでとはガラリと変える予定で、その場合、野外で写真を撮る時間を今よりもずっと増やそうと考えている。
 今年はそれに備えてパソコンなどの道具をすべて買い換え、事務所も飼育室も、とにかく効率にこだわってすべて作り直した。今年を、来年から野外での撮影に集中するための準備の年だと位置づけた。
 それを考えると、今年は金魚に振り回されてもいいじゃないか、と思えてきた。そう思うと、また金魚を撮影すること、いや金魚の撮影ができることが楽しくなってきた。

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2008.6.16(月〜火) 金魚の産卵・第二弾

 金魚の産卵の撮影は、結局、最悪の事態に終わった。一番卵を産みそうなメスを日曜日の夕方から撮影用の水槽の中に入れておいたのだが、その晩、実に中途半端な数の卵を産んでしまったのである。
 僕は、たくさんの卵がお尻からまさにこぼれおちてくる様子を撮影したかったのだが、わずかな量では、卵が写真に写ることはなかった。
 それならむしろ、卵を全く産まない方が良かった。なぜなら、全く卵を産まなかったメスは、翌日に卵を産み落む可能性が残っているから。二日続けての徹夜はつらいが、それでも二日で撮影が終わった方がいい。
 中途半端な量の卵を産むことは、全くの想定外だった。
 今シーズンの産卵シーンの撮影はこれで終わったかな・・・。失敗のままで終わることは悔しい。

 いったいなぜ、中途半端な量の卵を産んだのだろう?
 メスを手に持ってお尻のところを押してみると、あっと驚くほどたくさんの卵ができてきたら、メスは十分に準備が整っていたはず。
 そして、オスも大変によくメスを追っていた。
 撮影用の照明の影響だろうか?写真を撮ることは、やっぱり難しい。ただ生き物を見ることよりも、格段に難しい。

 そして、あと1つの可能性は、僕がオス1、メス1の組み合わせで産卵をさせようとしていること。金魚は、一般的には一匹のメスに2匹以上のオスを組み合わせるようだ。
 その理由は、受精率を高めるためと聞いたのだが、それ以外にも産卵を促す働きがあるのかもしれない。
 もしも、野生の魚で、群れで産卵をする種類にカメラを向けるのなら、ありのままに、群れで産卵する様子を撮影したい。
 だが金魚の場合、オスメスの数は人間が決めること。だから絶対的なものではないし、本の中で産卵シーンを見せる場合は、なるべく画面をシンプルにし、最小の要素だけを画面に盛り込みたいので、僕はオス1、メス1の組み合わせにこだわっている。

 メスのお尻を押したら出てきた卵だが、人工授精にチャレンジしてみることにした。
 まず、右手でオスを、左手でメスをもち、オスメスのお尻がくっつくようにする。そして、腹部を同時に軽くと押す、卵と精子が出てくる。
 すると卵はたくさん出てくるのが目に見えるが、精子は出たのか、出なかったのか、今回は判断できなかった。
 そして、その卵を水につけ、今日まで放っておいたら、なんと、ちゃんと卵が成長していることが分かった。
 しかも、受精率が非常に高い。人工授精は、それなりに練習が必要とされているようだが、ぱっとみたところ99%以上の受精率で、自然産卵ではまずあり得ない確率の高さだった。
 これは、何かに使えるだろう。
 たとえば、
「このオスとこのメスから、こんなにいろいろな形や色の子供が生まれるのですよ。」
 という内容のページを作りたい場合は、メス1にオス複数の産卵では困る。
 だが、メス1オス1の組み合わせでは受精率が低くなるから、そこで人工授精を使う。
 もしも今回、メスがたくさんの卵を産んだなら、僕はメスのお腹を押してみることはまずなかっただろう。だから、撮影そのものは失敗したが、その結果得るものもあった。

 

2008.6.15(日) ワラジムシ

 2週間前に大苦戦した金魚の産卵シーンの撮影に、今日から数日間、再度挑戦する。この撮影はおそらく、卵を産みたくて産みたくてたまらないメスさえ持っていれば、実に簡単に終わるのではないか?と思う。
 ところが、金魚の撮影は初めてだし、金魚を入手するタイミングがいろいろな事情があって遅くなり、ついに産卵のシーズンも終わりに近いていたこの時期に、それを撮影しなければならなくなった。
 どんなことでも、はじめての時は難しい。いや正確に言えば、簡単なことをわざわざ難しくしてしまう。

 さて、2週間前は、金魚の産卵なんて簡単と思い込んでいたので、午前中に水辺へと撮影に出かけたりもした。
 その結果、水辺での撮影に夢中になり、くたくたになった状態で深夜に金魚の産卵を待たなければならず、やはり昼間は休んでおくべきだったと後悔した。
 以前は、毎日一時間でいいから野外で写真を撮ろうとしたこともあるが、僕の場合、撮影を始めるとあっという間に3〜4時間たってしまい、1時間だけの散歩がてらの撮影が、性格的にどうしてもできにくい。
 だから今回は外出を控え、夜に備えて体力を温存し、事務所を整理したり、生き物の飼育をして過ごした。
 時間があったので、ワラジムシを集め、養殖してみることにした。
 僕は、カタツムリに与えた野菜や飼育していた生き物の死骸を、土を半分ほど入れた大きな植木鉢の中に捨てている。
 植木鉢には煉瓦で蓋をしてあるのだが、さまざまな生き物がそこには住み着いていて、そこそこ大きな魚だって、1〜2日で骨になってしまう。その中で一番数が多いワラジムシを清潔な環境で増やしてみようと思う。

 養殖したワラジムシは、サンショウウオの子供など、小さな肉食の生き物の餌にする。
 一般的には、ヨーロッパイエコオロギの生まれて間もない、アリくらいの大きさの子供をペットショップで購入し与えればいいのだろうが、ヨーロッパイエコオロギの一齢幼虫はジャンプ力が強く、逃がさないようにすることなど、不可能なこと。
 すると、いつかは日本に帰化してしまうだろう。
 それを避けるためには、唯一できることと言えば、買わないようにすること。
 もっとも、日本全国で生産されるペットの餌用のコオロギの量を考えると、そんなあがきは焼け石に水以下の愚かな考えだろうとは思う。
 それはともあれ、「帰化生物は怪しからん!」と殺してまわる人はたくさんいるが、「野生生物のむやみな輸入はすべて禁止すべきである」、と訴える人がほどんどいないのはなぜだろう。
 僕は、帰化生物を殺して回ることを否定する気持はないけど、一方で山ほど輸入し、一方で殺すことには抵抗を感じる。

 100年後、日本の自然愛好家は、ブラックバスに対してどのように振る舞っているのだろうか?
 はたして今と同じように駆除しているのか、あるいは、100年たつと、もう日本の生き物の一部として扱われているのか?
 僕は、量的に駆除が可能な帰化生物は、徹底して駆除すべきだと思うが、駆除することが正しいかどうかは、100年後、200年後にみんながその生き物をどう扱っているかで決まるような気がする。

 

2008.6.14(土) デジタルカメラの話

 野鳥撮影用にニコンのD300が欲しいなぁと思っていたら、昨日、知人がそれを持って遊びに来てくださったので、僕のD3と比較をしてみることにした。
 D300には600ミリレンズ、D3には600ミリレンズと1.4倍のテレコンバーターを取り付け、同じ位置からぬいぐるみにレンズを向けてみた。

 すると、僕の好みはD3の方だった。1.4倍のテレコンバーターを使用してもなお、D3の方が一段シャープだったから。
 色やコントラストについては、D3とD300は、カメラの設定を同じにしてもD300の方がコントラストが低く、色は赤味が強く、両者の画像は同じメーカーのカメラであるにも関わらず、結構違うことが分かった。
 そこでパソコン上でD300のコントラストをD3並に上げ、色も近づけみたが、パソコンで処理をすればするほど、D3の方が画質が良かった。具体的には、D300はコントラストを高めると暗部がつぶれがちになる。
 ただ、ボケはD300の方が良かった。おそらく、D3の方は、画角をほぼ同じにするために使用したテレコンバーターの影響だろうと思う。
 
 その際の比較画像を載せようか?と思ったが、やめることにした。
 インターネット上には、デジタルカメラを試し撮りしたさまざまなサンプル写真があるが、僕は、他人が撮影した写真を見て、画質なんて語れるわけがないと思うから。その日の天気、光の状態、周囲の環境・・・、それらを自分の目で見てわかっていなければ、画質の評価などできないのである。
 誰かが撮影したサンプル画像を見て、デジタルカメラについて語ったネット上の記事は山ほどあるが、そんなことができる人は、おそらく自然光について知らない人ではないだろうか?
 同じ場所で似たような天候の日でも、日が違えば違う写真になるし、また同じ日でも、30分違うと写真はかなり違ってくる。
。 

 

2008.6.12(木) あこがれ

 昔、あこがれだった写真家から、
「余計な御世話かもしれないけど、君の写真、もっとこうしたらいいじゃないの?」
 とアドバイスがあった。
 もちろん、今も憧れの人であることには何ら変わりはないし、僕は、その名前を見ただけで胸が躍るのだから、余計なお世話などというのはあり得ないこと。
 それはともあれ、プロになりたい!ともがいていた頃に憧れをもってみつめた数々の写真は、時間が経っても色あせることはないような気がする。

 僕が生れた初めて手にした写真集は、桜井淳史さんの「ヤマメ・イワナ・アユ」だが、随分昔の本だし、内容はさすがに古いと言わざるを得ないがそれでも、僕の目には神々しく映るのだから、それを超える本を作れと言われても、絶対に不可能な話だ。
 「ヤマメ・イワナ・アユ」の序章は亡くなられた開高健さんの文章で、それがまたなんとも言えずイイのだから、益々僕には勝てるわけがない。
 学生時代に初めて昆虫写真の海野先生の事務所やスタジオに行った時のこともそう。とにかく、すべて神々しいのである。 
 
 

2008.6.10(火) 視野

 自分では、随分金魚の撮影に苦心しているような気がするが、撮影の記録を振り返ってみると、金魚の産卵シーンの撮影にチャレンジしたのは、わずか一週間ほど前のことだ。
 視野が狭くなってますねぇ。
 撮影は結局最後までうまくいかなかったから、いろいろなことを試したし、走り回ったし、その結果この一週間はとても長く、感覚的には一月くらい経過したような気がする。
 
 さて、来週の大潮の日には、再度金魚の産卵シーンの撮影に挑戦する。
 そのためには、親を最良のコンディションに保ちたいのだが、にもかかわらず、メス2匹の調子があまりよくない。
 原因は、多分餌の与え過ぎからくる消化不良。僕は、メスの体内の卵の発育を良くしたかったのだが、その結果、餌を多く与え過ぎてしまったのだと思う。
 過ぎたるは及ばざるが如し。
 もしも金魚の発育や体形にこだわるのなら、金魚への餌の与え方は、なかなか難しいものだと思う。

 調子が悪いメスは隔離し、0.5%の食塩水の中で飼育し、その間、餌は与えないようにする。
 しかし、内心は一刻でも早く飼育水槽に戻し、餌を今度は適量食べさせ、産卵に備えたいのだから、非常に悩ましい。
 今日はいったい何度、飼育室をのぞきに行っただろう。とにかく、そのメスの調子が気になって気になって仕方がない。

 先週は、産卵シーンの撮影に関してはすべて失敗したが、繁殖用の金魚はちゃんと卵を産んでくれた。
 それらの卵はふ化をし、2日ほど前から泳ぎ始めているので、今は、一日に数回餌やりを欠かすことができない。
 ここのところの僕の仕事の内容は、写真家と言うよりも、明らかに養殖業だ。
 
 僕は、写真を仕事にしたい、と思う気持ちが強い。もっと簡単に言えば、大金持ちになりたいとは全く思わないのだが、写真で、それでそこそこ稼ぎたい。
 そんな僕にとって、写真以外のことをする時間は、それなりに不安な時間だ。
「こんなことしていていいのか?」
 とつい考えてしまうのである。
 が、過去の経験を振り返ってみると、何かに夢中になり、何かに没頭した経験が、最終的に写真の仕事に役立たなかったとはない。むしろ、それが今の僕を支えている部分が大きい。

 

2008.6.8〜9(日〜月) 水深10センチの世界

 僕は時々、事務所から自宅に帰宅する際に道に迷うくらいだから、自分が信用できないし、
「また道に迷うのではないか?」
 と考えてしまうので、人との待ち合わせがあまり好きではない。
 つい先月も、オリンパスのプロサービスを担当しておられる田中博さんと北九州の門司で食事をする機会があったのだが、僕はなんと山口県まで行き過ごしてしまった。
 それはともあれ、浅い水中の撮影にオリンパスのデジタル一眼レフを使ってみたい、と思う気持ちが強いのだが、適当なレンズが見当たらず、結局オリンパスを持つには至っていない。

 適当なレンズとは、35ミリ判換算で25ミリ前後の接写が利く、とにかくコンパクトな広角レンズ。
 「魚眼レンズではダメですか?」
 と田中さんには尋ねられたが、魚眼レンズの場合、カメラを収める水中ケースのレンズ部分(ドームポート)の直径が非常に大きくなり、その結果、浅い水中にカメラを沈めることができなくなる。
 オリンパスのデジタル一眼レフカメラの場合、画像を記録するセンサーが他社よりも小さいのだが、だからと言ってオリンパスは小さなカメラを目指しているわけではなく、ある意味高画質なカメラを目指しているようで、田中さんによると、僕が希望するような製品が発売される見込みはほとんどないのだそうだ。

 さて、今日の画像は、リコーのコンパクトカメラで撮影したもの。
 ここ一月くらい、今日の画像を撮影した場所へ何度も通い、同じシーンにカメラを向け、リコーのコンパクトカメラの画質が一番いい条件を探っている。
 今日はようやく、これと!いうツボをつかんだような気がする。
 が、コンパクトカメラで一眼レフと見分けがつかないような画像を得ようとすると、下手をすると、一眼レフを使いこなすよりも高度な技術が求められる。
 もっとも、コンパクトカメラに一眼レフレベルの画質を求めようとする僕が間違えているのだろうが・・・。
 ああ、水深10センチの世界を表現するための、決定的な道具が欲しい。
 
 

2008.6.7(土) 雑

 先日、産卵シーンを撮影するためにメスの金魚を撮影用の水槽に移したら、急に動きが悪くなった。
 原因は水質の変化。僕が焦っていたのだと思うが、本来であれば、魚を別の水に移す場合は、少しずつ新しい水を合わせていくところが、それがやや雑になった結果だった。
 しかたなく、その魚を塩を入れた水槽に隔離し、療養させることにした。病気になりかかっていたり、ショックを受けている金魚は、0.5%前後の食塩水の中で休ませるのがセオリーだ。
 それはともあれ、その日予定していた産卵の撮影ができなくなった。

 そこで、急きょ熊本県の金魚の産地に、別の魚を買いに行くことにした。
「琉金、三才のメスを一匹ください。」
 と注文すると、おじさんが池の中に網を入れてくれた。すると、その魚の中に見事なものが一匹。
「あっ!」
 と思わず声が出た。
 おじさんも、
「ほ〜、まだこんな奴が残ってたか・・・」
 とその魚を何度も眺めて大喜び。そして、お尻を見て、
「メス。」
 と。
 インターネット上で販売されているブランド物の金魚の場合、魚の形や色によって価格が変動するが、地方の養魚場で魚を買う場合は、一般的には年齢によって価格が決まるようで、いいものでも、悪いものでも同じ値段なのだから、掘り出し物が見つかるとうれしい。
 がしかし、そこに落とし穴があった。
 帰宅をして、よく眺めてみると、オスだったのである。
 実は、養魚場で一目その魚を見たときに、僕は体形からして、オスではないか?と思ったことを思い出した。
 ああ、自分の目でも確認するべきだった。やっぱり、少し雑になっているのだろう。
 
 ちょっと前に生まれた数千匹の金魚の稚魚は、病気が出てしまったのか、ほぼ全滅。こちらは、僕の飼い方に一部問題があった。
 だから、稚魚の成長の様子の撮影もやり直し。
 これは痛恨の出来事だ。
 なぜなら、金魚の稚魚は、孵化後2週間くらい、毎日数度の餌が欠かせず、その間、遠出ができなくなるから。2週間ほど、また遠出を控えなければならないのかと思うと、女々しいかもしれないが、気分が沈む。
 人工飼料を与えれば済むのなら、アルバイトの人にでもお願いできるが、稚魚の場合、ブラインシュリンプという甲殻類の幼生を卵から孵化させて与えるので、ちょっと頼みにくい。
 次回、金魚が卵を産むのは6月中旬だから、7月上旬くらいまでの期間が、遠出ができにくくなる期間にあたる。
 6月中旬から7月上旬と言えば、梅雨の雨が激しい時期だが、その時期に建物の中にこもっているようでは、水辺を語ることはできにくい、と僕は思う。
 多くの水辺の生き物は、水が増えたり減ったりすることに適応して生きているのだから、大水の時も、渇水の時も、やはりちゃんと見ておきたい。。
 だから、絶対にスケジュールを開けておきたい時期だったのだが・・・。

 

2008.6.5〜6(木〜金) お知らせ

 4人の自然写真家(武田晋一・伊藤健次・田中達也・吉野雄輔)によるサンケイ・エクスプレスでの連載ですが、次回は6月7日(土)が僕の順番です。新聞の一面いっぱいに、写真と文章が掲載されます。
 新聞が販売されるのは、首都圏(東京・千葉・埼玉・神奈川)と京阪神地区、奈良、和歌山市のみですが、特に関西地区では駅での一部売り・70円もあるようなので、是非ご覧ください。

 4月1日から、首都圏でもサンケイ・エクスプレスの駅売りが始まりました。一部100円です。銀座線を除く東京メトロ、都営地下鉄の全売店と、JRの主な売店、東武、西部の売店のほか、東急の一部売店で購入可能です。

 

2008.6.4(水) 自分ってなに? 

 先日、写真家になりたい、という若者がやってきた。その彼は、いろいろと訳あって第一線で活躍する自然写真家数人と話をしたことがあるようなので、
「みんなは何て言ってた?」
 と聞いてみたら、
「やめた方がいいぞ。」
 と言われたそうだ。
 僕は、
「面白いよ。」
 と答えた。
 別に煽っている訳ではない。真面目にそう思うのである。が、
「やめた方がいいぞ」
 という意見も間違えではないと思う。僕は、フリーの自然写真家の暮らしの充実する部分を語ったが、そんな僕だって、厳しい部分について語れば、
「やめた方がいいぞ。」
 という答えに違いない。自然写真家と言っても、いろいろな側面がある。

 ここ数日は、
「ああああ・・・・」
 と絶叫して、すべてを投げ出したくなるような撮影が続いている。金魚の産卵の様子を撮影しようと試みているが、試すことすべてがあと一歩のところでうまくいかない。
 水槽撮影の場合、自分の計画に不具合があり、撮影セットを2度、3度と作り変える場合、水槽が大きいと水の出し入れがしんどく、大変な重労働になる。
 そして、どんなに丁寧に作業をしたって、スタジオの中は水浸し。あたりがぐちゃぐちゃになり不快になってくると、当然視野も狭くなり、パニックになる。
 そんな時は、しんどい仕事やなぁとしみじみ思う。

 金魚が産卵をするのは、だいたい6月いっぱい。そして、卵を産みやすいのは大潮の日。
 大潮でなくても十分卵は産むが、写真を撮る場合、夜〜早朝にかけての産卵を徹夜をして待つことになるので、一晩で確実に産卵してもらわなければこちらの体力が持たなくなるし、するとおのずと確率が高い大潮の日になる。
 そして、ここ数日の大潮は、失敗続きで結果を出すことができなかった。
 卵を産みそうなメスを水槽にセットして待つが、おそらく、撮影用の照明の影響だと思う。オスがメスのお尻をつつき、産卵を促すところまではいくが、ギリギリのところで始まらない。
 しかたなく、メスを飼育水槽に戻すと、やがてそこで卵を産んでしまい、そうなると、次の産卵の準備が整うまで、2週間ほど、待たなければならない。
 今年産卵を撮影するチャンスは、もう、2週間後の大潮の日の数日しかない。撮影に使用できそうなメスは3匹。いよいよ、追いつめられてきた。

 さて、充実して楽しい時の自分に、うまくいかずに辛い時の自分の気持ちは理解できないし、また逆に、辛い時の自分に、楽しい時の自分の気持ちだって、理解できるものではない。
 楽しい時の自分と辛い時の自分は、ほとんど別人のようなもの。
 じゃあ、自分って何だ?
 僕は、そんなもの、最初からどこにもない、と思うのである。
 今辛いからと言って、それが絶対的なものだと思い込むと、何をやっても長続きしないし、逆に、今楽しいからと言って、それが絶対的なものだと思い込むと、これまでいずれ辛い思いをした時に、こんはずじゃなかった、とやはり長続きしなくなる。
 だいたい、
「この恩は、一生忘れません。」
 などと口にし、今の自分の感覚を絶対のものだと思い込んでいる人に限って、むしろ簡単に忘れてしまうのである。

 

2008.6.1(月) 金魚の産卵 

 金魚を趣味にしようか、と考えていることは、以前にも書いたことがある。がしかし、ただの趣味ではお金がかかるので、同時に金魚の写真を撮り、本を作り、お金も稼ぎたい。
 今日の深夜から明日の早朝にかけては、金魚の産卵シーンにカメラを向ける予定だ。
 順調にいけば、同様の撮影を2日連続して行い、2つの角度から、産卵シーンを撮影したい。

 今回撮影に使う金魚は、琉金という最も一般的な品種だ。
 なぜ琉金なのか?と言うと、琉金は一般的だから値段が安く、1万円出せば、高級なブランド金魚が買えるから。
 その点、たとえばランチュウと呼ばれる品種などになると、一万円は安物である。
 鶏口となるも、牛後となるなかれ。どうせ趣味にするのなら、安物よりも高級品を育ててみたいのである。

 さて、僕は、ただ単に生き物が好きとか、写真が好きだから自然写真家になったのではなくて、どうしても会社員がいやだから、フリーの仕事を選んだ。
 僕が写真をがんばる動機には、常にそのことがある。
 たとえば、金魚って面白いなぁ・・・と感じたなら、翌日にも養魚場へ出かけ、金魚を飼い始めたいのだが、会社員では、土日が来るのを待たなければならない。
 そして、金魚を飼ってみて、面白いな、もっとやってみたいな、と感じたなら、今度は金魚の本の企画を売り込めば、まさに、仕事をしながら趣味に打ち込むことができる。

 会社員が勤まらない、というのは、一般的には、大人に成りきれない証拠であり、だらしがなく、悪いことなのかもしれないが、僕にとっては、とても大切なことだ。
 組織が性に合わず、ひきこもりがちな人などは、組織嫌いをエネルギーにして、フリーの世界で頑張ればいいのではないか、と僕は時に思う。

   
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