撮影日記 2008年5月分 バックナンバーへ今週のスケジュールへTopPageへ
 
 

2008.5.31(土) 更新

 今月の水辺を更新しました。

 

2008.5.29〜30(木〜金) マニアの世界

 僕は、生物学を専攻したのだが、自然科学の物の見方は性に合わない、と思い、自然写真の道を選んだ。
 ところが悲しいかな、今更ながら、やっぱり科学って面白いな、と感じてしまう。ちょうど今は、金魚の繁殖の様子を撮影しているのだが、金魚には品種ごとに特徴があり、生き物の遺伝という現象は、なんて面白いんだろう!としみじみ思う。
 
 さて、僕が子供のころは、どこのペットショップに行っても、たくさんの金魚が売られていた。
 ところが今は、ほとんどすべてのお店で、金魚よりも熱帯魚が盛んであり、金魚はやや時代遅れな感じがする。
 がしかし、インターネットで金魚専門店のホームページを眺めてみると、高価な金魚が飛ぶように売れていくさまには、ただただ驚かされる。店によっては、入荷しましたと書かれていたかと思えば、数日うちに完売です、と書き直されている。
 ペットショップの店頭での様子からは想像もできない別世界。そこには大変にマニアックな世界が存在し、非常に熱い。そしてインターネットの存在は、そうしたマニアの世界を、益々熱くしているように感じる。
 いろいろな商売の仕方があるもんだなぁ。
 
 生き物の写真も、もっともっと、いろいろな売り方があるのかもしれないな、と思う。
 僕の場合は、わかりやすい写真を撮り、広く一般の人を相手にするように心がけているのだが、そんなやり方もあれば、マニアに向けて発信するやり方もあるのかもしれない。

 

2008.5.27〜28(火〜水) 納得と驚き

 かがくプレイらんど 6月号 

「写真の仕事って、どんな風に成り立っているのですか?」
 と時々たずねられることがある。
 僕が撮影した写真を持って出版社に行くのか、あるいは、出版社の方から僕に、
「こんな写真を撮ってください」
 と注文が来るのか、または、それ以外のやり方があるのか・・・。

 答えを言えば、ありとあらゆる可能性がある。
 だから、決まった手順は存在しないが、いくつかのパターンはあって、もしも、これまでに前例のないような新しいタイプの本を作りたい場合は、自分から出版社に売り込みに行くことになるし、逆に、定番の生き物を題材にした、定番の本を作る場合には、出版社の方から依頼が来ることが多い。
 さらに出版社から依頼が来る場合に、
「こんな写真を撮ってください。」
 と特撮の注文がくる場合もあるし、
「すでにお持ちの写真の中から貸してください。」
 と依頼がくる場合もある。
 
 さて、世界文化社のかがくプレイらんど・6月号が届いた。この本の場合は、新しい写真を特撮するのではなく、僕がすでに撮影して持っていた写真を貸し出した。
 僕の個人的な好みを言えば、本を一冊作るような場合には、その本にぴったりくるような写真を、本に合わせて撮影するのが好きだ。
 僕の場合は、まだまだ発展途上であり、1〜2年前に撮影した写真でも、今見てみると、お粗末と感じることが多いし、古い写真を貸し出すのは恥ずかしいのである。
 が、営業という面から見れば、今すでに持っている写真を貸し出した方がいい。
 結局、僕はどちらでも楽しい。ただ、すでに持っている写真だけで本ができる、と言うのは、持っている写真が少ない、いよいよ駆け出しの人には不可能だし、それなりにキャリアを積まなければできないこと。
 だから、
「そんなことができるようになってきたんだ。」
 という感慨があった。
 また、編集者が、すでにある僕の写真をどんな切り口で切って本にするのかは、それなりに興味深いことで、僕はいつも本が届くのを楽しみに待つ。
 だいたい、男性の編集者が担当をすると、
「うん、うん、うん、なるほどね。そうだよね。」
 と納得することが多く、女性が担当すると、
「えっ」
 とか
「へぇ〜」
 と驚きを感じることが多い。それは、多分僕が男性だからだろう。
 同業者と話をすると、写真家には、納得は大切にするが、驚きを嫌う人が多いように思う。だが、僕は、写真家には納得も驚きもどちらも不可欠であり、大切なことだと信じる。
 
 

2008.5.26(月) 湧水

 先日、田んぼで採集したヤゴの写真を紹介したら、トンボマニアの方から、
「マルタンのヤゴですね!」
 とメールが届いた。
 なぜ、ヤゴを採集して持ち帰ったのか、と言えば、同じ田んぼで見られるヤマアカガエルのオタマジャクシに、尾っぽが切れて短くなったものが多かったから。
 尾っぽをちょん切った犯人は、ヤゴである。
 オタマジャクシを採集してみると、尾が完全な長さを保っているものは20匹に1匹くらいの割合。
 と言うことは、その場所のヤゴの密度は、かなり高いことがわかるし、それなら、どんなヤゴがすんでいるのかを、探してみたくなったのである。
 すると、マルタンヤンマのヤゴがたくさん見つかった。
 ヤマアカガエルは、2〜3月くらいに卵を産むことが多いので、5月に、田んぼの水溜りの中でオタマジャクシがみつかった、と言うことは、2,3月〜5月まで、その水溜りは涸れなかったことになる。
 つまり、そこはただの雨水がたまった気まぐれな水溜りではなく、絶えず、湧水が流れ込み、維持されている場所なのだろう。
 さらに、ヤマアカガエルどころか、マルタンヤンマのヤゴが見つかるということは、2,3月どころか、前の年の夏あたりにマルタンヤンマがそこに卵をうみ付けてからずっと、その水が涸れなかったことになる。
 湧水って、面白い。
 今日は、先日北九州山中の水溜りで採集したヤゴを撮影することにしたが、その場所も、やはりわき水で維持されている。


 さて、先日孵化した金魚が泳ぎ始めた。おそらく数千匹。
 生まれた直後は、泳ぐことをせず水に沈んでいるのだが、2〜3日で浮かび上がってくる。

 

2008.5.25(日) カメラの話

 プロの写真家って、どんなカメラを使っているのだろう?僕は、あまりカメラに興味があるわけではないが、人さまの道具は、一応気をつけてみることにしている。
 すると、僕のような技術者タイプの写真家の場合は、僕が知る範囲では、キヤノンのEOS5Dを使う人が多い。理由は多分、低価格で比較的コンパクトなのに高画質だから。
 それから、僕自身は時々雑誌やその他の取材を受けることがあるが、取材に同行する写真家の場合は、ニコンのD200やD300を使う人が圧倒的に多い。

 さて、今日は僕が取材を受けるのではなく、取材に同行するカメラマンとして、泥まみれになりつつ、写真を撮った。
 取材の場合、普段の撮影と違う点は、複数の人が関わるので簡単にやり直しができず、絶対に失敗が許されないこと。カメラの故障でさえも、許されるものではない。
 しかも、アウトドアーの場合は、泥あり、水あり、転倒あり。
 すると僕はどんなカメラを選びたくなったのか、と言えば、ニコンのD3だった。D3ではなくても、もしもD200やD300を持っていれば、それでいい。
 どんな絵作りをするかよりも、とにかく写っていることが大切な状況では、ニコンがいい。ニコンは業務用のカメラだ。
 
 ただ、絵作りに関しては、キヤノンの方が扱いやすいように思う。
 扱いやすいとは、カメラに任せて撮るだけで、比較的完成度が高い写真が撮れること。
 その点ニコンは、カメラの設定などをいろいろと試し、好みに合う状態を探しておく必要があり、慣れと使いこなしが求められる感じがする。
 キヤノンが自動なら、ニコンは手動であり、特にニコンのD3には扱いにくい面があるように思う。が使いこなすと、ウッと唸り声をあげてしまうくらいに、いい色がでる。

 

2008.5.23〜24(金〜土) 一日おきの法則
 写真だって、調子がいい時もあれば悪い時もあるが、僕の場合その調子とは、技術的なことではなくて、大抵は精神的なことで、一言で言ってしまえば、気分が乗るか乗らないかの問題だ。
 そして、気分が乗らなくなると、とにかく何もしたくなくなり、仕事が滞り、日記の更新も一日おきになる傾向がある。
 つまり、日記は、気分が乗らずあまり写真を撮っていない時、要するに仕事が忙しくなかった日に滞りがちで、むしろ、バリバリに写真を撮った日は、毎日きちんと更新できる。
 一日おきとは、ある日はだらけ、その翌日は反省してがんばり、さらに翌日はまただらけ、翌々日はまた頑張る結果である。

 がしかし、今年に関しては、とにかく忙しくて日記が一日おきなる。メールの送受信等に使っている事務用のパソコンを見ないで終わる日がちょくちょくある。
 先日は、講演のような活動を依頼されたのだが、7月くらいまでは昼間はどうにもならない状況にあり、お断りすることになった。
 スタジオで撮影するために飼っている生き物の世話も滞りがちだ。生き物の世話は、僕にとって非常に大切なことなので、何とかしなければ!と感じる機会が多くなってきた。
 そこで、なるべく短時間で世話が終わるように、飼育室にいろいろと改良を加えているのだが、昨晩は、ザリガニやヤゴを飼育するための水槽を作成してみた。

 今日の画像は、その水槽を上から見たもので、まずは、画面左上のホースから水が出る。
 水槽の中にはたくさん仕切りがあるが、仕切りの一部分には小さな穴が開けられていて、ホースから出た水は、カタカナのコの字のように流れ、画面左下のホースから水槽の外に出る。
 水槽の外には、水を浄化するろ過装置があり、そこできれいになった水は、また左上のホースから水槽に注がれる。
 水の量に対して能力が高いろ過装置を取り付けているので、ザリガニやヤゴのような生き物なら、おそらく一か月水換えをしなくても、全く問題なく飼えるだろうと思う。
 水槽内には全部で16の個室があり、喧嘩早く、一匹飼いしなければならない生き物を、一つの水槽で16匹飼うことができる。

 

2008.5.21〜22(水〜木) 写真が売れなくても

 おもに水たまりに卵を産むカスミサンショウウオ。それから、少し流れがあるところを好むブチサンショウウオ。今年は随分たくさんサンショウウオの写真を撮った。
 僕はサンショウウオに特別な思い入れがあるわけではない。また、サンショウウオ自体は、特に面白い生き物だとは思わないのだが、生き物ではなくて環境という視点に立って水辺の自然を見つめようとすると、とても重要な位置づけの生き物の1つであり、おのずととそこにたどりついてしまう。
 ただ、これらの生き物に関しては写真の需要はほとんどなく、実は僕はカスミサンショウウオの写真は、過去に一度も売れたことがない。

 それから、福岡県ではカスミサンショウウオと同時に見られることが多いニホンアカガエルのオタマジャクシ。
 こちらも名前はそれなりに知られていても、色は地味だし、春先以外はあまり姿を見かけることもないし、出版の世界ではマイナーな存在で滅多に写真の需要もない。
 僕はたくさんニホンアカガエルの写真を持っているにもかかわらず、過去に数枚程度しか、写真は売れたことがない。
 でも、水辺の環境を表現しようと思えば、サンショウウオ同様にニホンアカガエルは重要。だから、ほとんど写真が売れなくても、新しい写真を次々撮影することになる。
 
 今日はサンショウウオやオタマジャクシの撮影中に、いよいよ羽化が近く、水際の浅い場所にやってきたヤブヤンマのヤゴをたくさん見かけた。。

 

2008.5.19〜20(月〜火) 金魚の卵

 18日の早朝に生まれたばかりの金魚の卵の中は、今日、2日目にして、もう魚の形になった。昨日は、産み落とされた翌日だというのに、撮影中に、卵の中がビクッと動いた。
 生き物の体などという実に複雑なものを、こんなわずかな時間で作ってしまうのだから、卵って、凄い。
 僕の大学時代の恩師は、
「生物学の中でもっと神秘的で面白い分野は発生です。」
 と時々授業中に話してくださったが、発生とは、卵から生き物の体ができる過程だ。
 まさに、恩師の言う通りだと思う。
 
 さて、18日の画像とは、少し水草の向きや位置関係が変わった。
 僕は当初、水草の位置を変えないようにして、卵の中だけが変化するような感じで、一日一度、卵の成長の様子を撮影する予定だったが、水草は成長したり、光の向きに合わせて体を曲げるので、思ったような撮り方をすることはできないことが分かった。
 植物だって、成長したり動くことはあまり前。水草が動かない写真を撮ろうとしていた自分が、馬鹿げていたし、あまりに常識はずれで、無知だったことに気付いた。

 

2008.5.18(日) 初めての被写体

 昨日、田んぼの生き物を白バックで撮影したら、サンショウウオの幼生は比較的よく写ってくれたのに、同じ撮影セットで、ヤゴは、思うような写真が撮れなった。
 サンショウウオでは使えたテクニックが、ヤゴでは使えなかったのである。
 ものが代われば、撮り方も変わる。
 そこで今日は、いつもよりちょっと早起きをして、ヤゴがきれいに撮れるような撮影の方法を検討してみた。
 すると、昨日サンショウウオを撮った方法よりも、さらにいい方法があり、ヤゴがきれいに写った。
 が、そのより改良された方法でサンショウウオを再度撮影していると、今度は、ヤゴには通用した手法が、サンショウウオには通用しなかった。
 結局、万能で絶対的にいい方法というのは、あり得ないのだろう。ひとつひとつ素材をよく見極め、考えながら写真を撮らなければならない。
 下の2枚の画像のうち、上は一切画像処理をしていない写真。そして下の写真は、コントラストを整えた写真だ。下の画像は、多少大きく拡大することができる。
 デジタルカメラの場合、パソコン上で画像を多少調節することができるが、僕は、撮ったままの状態でも十分に仕事に使えるくらいのクオリティーの写真を撮りたい。
 
(拡大可)

 さて、金魚が卵を産んだ。
 昨晩〜今朝にかけて卵を産むことはわかっていたので、おおまかな予定を立ててはいたのだが、実際にカメラを向けてみると、何を撮影したらいいいのかがわからなくなり、今日はやや冷静さに欠ける撮影をしてしまったような気がする。
 だが、はじめての被写体の場合、むしろそれは当り前のことだ。最初から、すいすいと撮影が進む方がどうかしている。
 何をどう撮影したらいいのかがわからなくても、とにかく全力を尽くし写真を撮ることが大切であり、すると、そのうち具体的なイメージが湧いてくるようになる。

 

2008.5.17(土) 切り抜き

 写真を印刷物などに載せる際のやり方には、大きく分けると2つの方法がある。
 まず1つ目は、写真をそのまま使用する方法。
 そして2つ目は、写真をそのまま載せるのではなく、必要な部分だけを抜き出して使用する方法。たとえば、僕が事故死して急に遺影が必要になった場合、僕が写った集合写真の中から僕の顔の輪郭を抜き出し、背景には青い色か何かをつけて、あたかも証明写真のような写真を作り上げることがある。
 そうして、オリジナルの写真の中から欲しい部分だけを抜き出す作業を、切り抜きという。
 
 僕が時々見せる白い背景の白バック写真の場合にも、その使い方には、写真をそのまま印刷物に載せる場合と、切り抜きをする場合とがある。
 そして、切り抜きには切り抜きなりの写真の撮り方があるし、写真をそのまま使う場合には、そのまま使うなりの撮り方がある。
 切り抜きをする場合には、なるべく輪郭がしっかりと出るように、工夫しなければならない。
 ただ、自然写真家の場合、多くの人は自然のプロではあっても、写真のプロではないので、写真の専門的な知識を持たない人が多いし、実際には、切り抜きで使う白バック写真と、そのまま使う白バック写真を区別している人は、ほとんどいないだろう。
 つまり、僕などが撮影している白バック写真は、白バック写真と言えるほどのものではなく、白の紙の上に置いて撮った写真、というレベルなのである。

 このヤゴの写真などは、そういう目で見れば、ダメな写真の見本のようなものだろう。使えなくはないが、お粗末な写真だ。
 ヤゴの手に、背景の白がうつってしまい、手が白っぽくなり、輪郭に締まりがない。
 つまり、僕はそうならないような写真の撮り方をしなければならない。
 ただ、水の中の撮影と生き物の撮影とにはあまりに制限が多い。僕は、ここのところ切り抜きを前提とした写真の撮り方を練習しているのだが、なかなか思うような写真が撮れない。
 
 

2008.5.14〜16(水〜金) ロケハン

 一度、田んぼをじっくり撮影してみたい、といつか書いたことがある。今年中に、どこで、どんな切り口で写真を撮るのかをかなり具体的に決め、来年はそれに打ち込みたい。
 水辺という環境は、一般的に水の量の影響を受けやすいため移ろいやすい。したがって、いい被写体を見つけた場合には、なるべくその日のうちに、最低でもそのシーズンのうちに写真を撮ることが大切で、今年見たものを来年撮影しよう、などという発想は通用しないことが多い。
 だが、田んぼの場合は、ちょっと違うのかな、と思う。
 田んぼは撮り尽くされている感のある被写体なので、それをあえてやるとするならば、何かよく練られた策がなければならない。
 そこでこの春は、いろいろな農村を見て回っているのだが、なかなか、ここぞ!といういい場所を見つけることができない。
 ただ、先日山道を車で走行中に、一部だけ湧水がたまった田んぼを見つけ、その水溜りをよく観察してみたら、いろいろな生き物が見つかった。
 
 まずは、ヤマアカガエルのオタマジャクシ。

 それから、カスミサンショウウオの幼生。
 サンショウウオの幼生は、大変に密度が高く、点々と見られるので撮り放題。
 そして、オタマジャクシやサンショウウオの撮影をしていると、数種のトンボが産卵にやってきた。
 。
 その日、この場所で見た生き物を、一匹ずつ採集することにしたのだが、見たものをすべて捕まえるのではなく、ある1つのテーマを持って採集することにした。

 

2008.5.13(火) 危険!

 僕がテーマにしているある山上の水辺のすぐ傍に、車道ができたことは、以前書いたことがある。その水辺へは、確かにきつい道のりではあるが、人が安易に足を踏み入れることができない結果、そこには大変に素晴らしい自然がある。
「車道なんて作らなくてもいいのに・・・・」
 と大変に残念に思う。
 だが、長いものに巻かれることもまた、こだわることと同様に大切なことだ。
 どんなに突っ張ったところで、人の暮らしは少しずつ変化するのだから、やがてどこの誰であろうが必ず長いものに巻かれているのであり、突っ張ろうとした結果、その自覚なしにいつの間にか巻かれていることの方が筋が悪いのだ、と僕は思う。
 そこで今日は、その車道を車で走ってみることにした。

 車道と言っても公道ではない。だから車を走らせてみると、まるで飛行機で急上昇でもしているかのような急な坂道に、ゴロゴロと岩が転がっていて、非常に危ない。
 おまけに道は細くて、信じられないような急なヘアピンカーブの連続。カーブのたびに、車を3〜4回切り返さなければ、それを曲がることができない。
 前回道ができたことを知った時に、一応下見をしておいたのだが、実際に運転をしてみると、僕の予想以上に厳しく、
「これはやばいのではないか?」
 と次第に不安になってきた。

 そしてついに不安は的中。
 急なカーブを曲がろうとしたら、カーブのきつさと坂の急さと道の狭さが重なり、タイヤがスリップし、車がどうしても登らない。
 それでは下がろうか、とバックしてみるが、急ハンドルをきった状態で、急勾配を下がらなければならず、車はバランスを崩して倒れる寸前で下がることができない。
 さあ、困ったぞ・・・・
 仮にバックできたとしてもUターンできる場所がないし、それまでの道のりをすべてバックで下ることは、あまりに危険過ぎる。
 ならば、やっぱり目の前の坂道を登り切るしかない!
 それから10分くらい格闘しただろうか、車をごくわずかにバックさせ、なるべくカーブの外側を走るように車を前進させなおす。
 やがて、まさにギリギリのところで、その坂道を登ることができた。

 これは危ない。少しでも早く引き返さなければならない。が、その先にもUターンできる場所はなく、ついに目的地に到着してしまった。
 さて、なかなか登れなかったあのカーブを、今度は下るのだと思うと、非常に気が重い。経験がある人ならわかるだろうが、下りの方が明らかに危ないのである。
 もしかしたら下りは本当に車が転倒してしまう可能性もある。
 そうなると随分な出費になるだろうから、ダメージだけ受けて帰るのは悔しいし、どうせここまで来たのならまず水辺で写真を撮ろうと、しばらくカメラを向けることにした。
 すると、いつもは登山で疲れた状態での撮影なのに対して、今日は車で登ったため、神経はすり減らしたが体力はありあまっており、過去になく撮影の調子がいい。 
 ただ、帰りに車が転倒するかもしれないことを考えると、あまり長居することもきない。その場合、救援を呼びに行く時間と救援してもらう時間を十分に見ておかなければならないし、日が落ちると、やはりしんどい。
 そこで、本当ならば夕刻まで写真を撮りたいところだが、正午過ぎに帰途についた。

 さて、問題のカーブだが、やはり非常に厳しかった。ブレーキを踏んでいるのに、時々、ザザザッ、ザザザッと車がすべり落ちる。
 こんな時は、車に執着し過ぎないことが大切で、まずは身の安全を最優先にしなければならない。
 ブレーキをごくわずかに緩め、数センチ前に進むとギュッとブレーキを踏みしめ、車が静止するのを待つ。そしてまた静かにブレーキを緩めることを繰り返し、ついに、魔のカーブを克服した。
 いったい何分かかっただろう?
 何とか難を逃れたところで、記録写真を撮る。

 

2008.5.10〜12(土〜月) 趣味を持つ

 自然写真を仕事にしてしまったものだから、僕には趣味がなくなった。その後、熱帯魚の飼育と水草の育成にのめりこんだが、この趣味も、水辺を写真のテーマに選んだ結果、水槽を使用した撮影の必要に迫られ、今や趣味は仕事になった。
 メダカやアメリカザリガニのような生き物の撮影の場合、いろいろな事情があって、自然の水の中で、産卵や子育てなどのシーンを撮影することが難しく、どうしても水槽の中での撮影になってしまう。
 それはともあれ、今度は、金魚を趣味にしてみようと思う。
 たぶん、いつか完全な仕事になってしまうのだろうが、当面10年間くらいやってみる。毎年子供を取って、最終的には品評会に耐えるような金魚を生み出すのが目標だ。
 できれば、武田ブランドを確立し、販売もしてみたい。
 金魚は、あまり世話をする必要はないし、1週間くらい餌を抜くこともできるし、特に冬場はひと月くらいは全く世話なしで大丈夫。だから、取材とも両立できるのではないだろうか。
 さて、熊本県にある金魚の産地に行ってみた。

(金魚の何が面白いか?)
 金魚と言えば、派手な色に、ぷっくりしたお腹に、ひらひらした長い尾っぽ。
 だがなんと、子供を産ませてみれば親と同じ形のものはごく一部であり、大半は色が黒かったり、フナのような尾っぽをしていたり、体が細かったりするのだそうだ。
 金魚には数百年の歴史があるわけだが、その間、徹底して決められた特徴をもったものを選び出してきたにも関わらず、未だに、それが固定されていないのである。
 遺伝という現象は、なんと複雑で面白いのだろう。
 僕は金魚に興味を感じたのは、まさにその点だ。
 つまり、金魚を繁殖させて、ある特徴をもったものを選び出していくのを趣味にする。同時に、その品種の特徴を持たないものがたくさん生まれてくる様子を撮影し、本を作り、遺伝という現象の面白さを伝える。

 撮影中のメダカの卵は、ずいぶん大きくなった。
 過去に何度も撮影したことがあるメダカの卵を、今また撮影する理由の1つが、金魚の卵の撮影にある。
 メダカと違って、金魚は限られた時期にしか卵を産まないから、これまでの方法にさらに改良を加え、よりいい技術を確立し、確実に撮影したいのである。
 金魚の卵の方が大きいので、たぶん、メダカの卵の撮影よりも撮影の技術的にはやさしいだろう。 
 ただ、金魚の卵の方がおそらく弱いだろうから、カビに侵されやすいなど、難点もある。

 

2008.5.8〜9(木〜金) 難しい撮影



 たかが白バック写真。だが、ある種の条件が重なれば、その白バック写真が大変に難しい。
 たとえば、白っぽい被写体の撮影は、被写体の白が背景の白に溶け込んでしまうため、そうならないように、照明のあて方には大変に気を使う。
 それから、動く被写体の撮影。
 どんなに照明をしっかりと設定しても、動く被写体の場合、自分が照明を設定したその場所に、肝心の生き物が、なかなか来てくれない。照明は、時として大変にデリケートで、被写体が10センチずれれば、写真の仕上がりが随分変わってしまうのである。
 さらに、水の中の撮影。
 水や水を入れた水槽が、照明の当て方やカメラの角度に、いろいろな制限を作り出す。こう光を当てたいと思っても、それがなかなかできないことがある。
 そして、今回の金魚の撮影では、撮影が難しくなるそのその3つの条件がすべて揃っている。
 まず、金魚は水の中にいる。
 それから、金魚は動き回る。
 そして、何よりもやっかいなのが、金魚の白いひれの再現である。特に、今回の被写体のような小さな金魚の繊細なひれの撮影は、最高に難しい。
 
 僕は、出版物を数多く見ている自信がある。
 そして、水中の白バック写真に関しては、古い本から新しい本まで、またあらゆる発表の場を散々見渡しても、紛れもないプロの仕事と言えるレベルのものは、日本人がの自然写真家が撮影したものは、自分の写真も含めて、一枚もないように思う。
 すべての写真が、使える、という程度のレベルにとどまっている。
 そこで今回は、どうせ難しい撮影に取り組むのだから、紛れもないプロレベルの照明を目指そうと、いつもよりも時間と手間をかけてみた。
 実は、今日の画像の魚は、以前にも撮影を試みたことがあるのだが、これまでのやり方では、あまりに写らないので、投げ出していたのだ。

 4人の自然写真家(武田晋一・伊藤健次・田中達也・吉野雄輔)によるサンケイ・エクスプレスでの連載ですが、次回は5月10日(土)が僕の順番です。新聞の一面いっぱいに、写真と文章が掲載されます。
 新聞が販売されるのは、首都圏(東京・千葉・埼玉・神奈川)と京阪神地区、奈良、和歌山市のみですが、特に関西地区では駅での一部売り・70円もあるようなので、是非ご覧ください。

 4月1日から、首都圏でもサンケイ・エクスプレスの駅売りが始まりました。一部100円です。銀座線を除く東京メトロ、都営地下鉄の全売店と、JRの主な売店、東武、西部の売店のほか、東急の一部売店で購入可能です。

 

2008.5.8(木) お知らせ

 4人の自然写真家(武田晋一・伊藤健次・田中達也・吉野雄輔)によるサンケイ・エクスプレスでの連載ですが、次回は5月10日(土)が僕の順番です。新聞の一面いっぱいに、写真と文章が掲載されます。
 新聞が販売されるのは、首都圏(東京・千葉・埼玉・神奈川)と京阪神地区、奈良、和歌山市のみですが、特に関西地区では駅での一部売り・70円もあるようなので、是非ご覧ください。

 4月1日から、首都圏でもサンケイ・エクスプレスの駅売りが始まりました。一部100円です。銀座線を除く東京メトロ、都営地下鉄の全売店と、JRの主な売店、東武、西部の売店のほか、東急の一部売店で購入可能です。

 

2008.5.7(水) 熱くなる瞬間

 昨日、ナメクジの子供が、自分で出した粘液をまるでクモの糸のように使い、高い場所から低い場所へと降下することを知った。
 ああ、ナメクジの本を作りたい!
 ナメクジは嫌われ者の生き物なので、これを本にすることは、間違いなく、カエルやカタツムリなどよりも難しく、敷居が高い。
 でも、ナメクジの本ができるのではないか?いや、できそうな気がする。
 できそうな気がしてくると、敷居が高いことが逆にうれしくなる。

 僕の心の中には「これを本にしたい」、と思う候補が常に幾つかあるが、偶然と閃きが重なり、その結果、それらの候補を飛び越えて、今すぐにでも取り組みたいテーマが見つかった瞬間は、最高に胸が熱くなる。
 写真をやっていて良かったな!と思う瞬間である。

 

2008.5.6(火) 成長するとは。

 毎日一生懸命写真を撮っているにもかかわらず、以前できたことが出来なくなってしまうことがある。下手をすると、アマチュアのころに自分で撮影した写真を見て、
「今、これに匹敵する写真が撮れるか?撮れないんじゃないか?」
 と弱気になることさえある。
 成長するとは、必ずしもすごくなることではなくて、変化することなんだ、とそんな時にふと思う。
 
 さて、生まれて間もないカタツムリの子供は、水の上を移動して、水によって隔てられた離れた陸地に移動することがある、と以前に紹介したことがある。
 一方で、大人のカタツムリがそんな行動をするのを、僕はまだ見たことがない。
 おそらく、それは子供の時に限定の行動ではないか?と思う。
 子供のカタツムリに出来て、大人のカタツムリにはできないことがあるのだと思う。
 
 今日はナメクジの撮影中に、面白い行動に気づいた。
 それは、ナメクジの生まれて間もない子供が、粘液を糸のように使い、それにぶら下がるようにして、離れた場所へと移動することだ。
 たぶん、体重が重たい大人のナメクジには、この行動はできないのではないだろうか?

 

2008.5.5(月) 四季

 メダカは、春〜秋にかけて、毎日卵を産む。だから、メダカの繁殖に関係に関係するシーンは、どちらかと言うといつでも撮影できるシーンであり、これまでは、なるべく他の撮影が忙しくない時期に撮影してきた。
 特に5月〜6月は、僕にとって大変に忙しい月である。だから、メダカの卵を5月に撮影するのは、実は今回が初めてだ。

 だが今回、そのメダカの卵を5月に撮影してみた結果、5月は、卵のふ化の率が非常に高いことが分かった。
 おそらく、季節が秋に近付けば近付くほど、孵化の率は下がっていくのだろうと思う。つまり、毎日のように卵を産むメダカといえども、産卵はそれなりに消耗する行為なのだと思う。
 そして、その後冬が来て、越冬をして休憩することにより、メダカのメスは体力を取り戻すのではないだろうか?
 僕は、四季にはあまりこだわりたくない方である。なぜなら、日本の自然関係の出版物は四季にこだわりすぎる結果、自然や生き物の本質を伝えることよりも、四季に陶酔することに熱心であり、自然をちゃちな抒情詩にしてしまう傾向あると思うから。
 だが、やっぱり日本の自然には四季がある、と思う。

 

2008.5.3〜4(土〜日) 忙しい季節に突入



 1月30日に新しい機材として紹介した水中カメラだが、今日は初めて、その使いこなしに手ごたえを感じた。もう少し練習を積めば、それなりに仕事に使えるようになる、と思う。
 今回は、森の中の水溜りに生息するサンショウウオの幼生にカメラを向けてみた。
 上の画像は、孵化して間もない1〜1.5ミリ程度の小さな幼生。下の画像は、小さな前足が生えたものである。
 実は、特注で水中カメラを作ったものの、使いこなしが難しく、苦心していたのである。
 
 さて、複数の撮影が重なる、忙しい季節になった。
 サンショウウオの水中撮影を終えた後は、金魚の繁殖や撮影の準備を整えた。
 今日は繁殖用の容器を設置し、その中に、繁殖に必要な器具を準備した。

 魚の飼育の際には、水道水を直接水槽に注がないのが常識だ。
 水道水には、魚にとって有害な塩素が含まれるため、塩素を抜くために水を数日汲み置くか、あるいは薬剤で中和する必要がある。
 だが、小さな水槽の場合にはそれでいいが、大きな水槽の場合、そんなことをしていると、手間と時間がかかる。僕は今回、金魚の繁殖〜撮影のために5つの水槽を準備したのだが、いずれも水が100〜200リッター入る大きなものだ。
 そこで、少しでも金魚の世話を楽にするために、塩素を取り除くフィルターを購入し、それを水道に取り付け、水道水を直接水槽にそそぐことができるようにした。
 繁殖用の容器、塩素を取り除くフィルター、親になる金魚、・・・・ たかが金魚を撮影するのに随分お金がかかったが、それらのものは、金魚の撮影以外にも、おそらく役に立つだろう。

 

2008.5.2(金) 一日後

 昨日産み落とされたばかりのメダカの卵の中に、今日はもう稚魚の形が見える。卵を丸い時計に例えるのなら、5時の位置に頭が見える。
 メダカ、と言うと、生物学を勉強したことがない人は下等な生き物だと考えるかもしれないが、実は生き物全体から見れば、メダカは非常に高等な生き物である。
 そんな高等なものの体が、わずか一日でみるみるうちに形成されてくるのだから、生き物って凄い!の一言。
 卵の形が変化し、生き物の体ができることを発生というが、発生は非常に興味深い。
 ついでに、メダカは春から秋にかけて、毎日数十個の卵を産む。
 これも、すごいことだなぁ、と思う。
 
 

2008.5.1(木) 本番であり、テストでもある


 あるメダカの本がすごい、と友人から教えてもらった。
 僕は、その本のことを知らなかったので、さっそく購入して見てみると、確かに、メダカの卵の写真が実に見事。
 自分が仕事をしている分野に関して、僕は、写真を見れば、どうやってそれを撮影したのかがだいたいわかるし、ほとんどすべての写真は、自分で真似をして撮影することができる。
 ところが、そのメダカの卵に関しては、未だに、撮影方法を解明できずにいる。
 想像するに、おそらくその写真は、メダカの研究者のところへ行って、その人の手助けのもとで撮影されたものではないか?と僕は推測している。機材も、おそらく写真用のレンズで撮影したのではなくて、顕微鏡ではないかな?と思う。
 とにかく、常識では絶対にあり得ないシーンが写っているのである。
 悔しいな、と思う。
 
  さて、昨日、メダカの卵を試し撮りをした自作水槽に、さらに多少改良を施し、今日からメダカの卵の成長の様子を記録する。
 実は、今日からはじまるこの卵の撮影は、本番であり、同時に、さらに次の撮影のためのテスト撮影でもある。
 次の撮影とはもちろん、僕を驚かせたそのメダカの本と同レベルの写真を撮ること。
 ただ、物事には順番があるから、まずはオーソドックスに撮影し、一通りの写真を揃えた上で、次のステップに臨まなければならない。
 オーソドックスなメダカの卵に関しては、以前にフィルムで撮影したものがあるが、今回は、それをデジタルカメラで撮影し直す。 

   
先月の日記へ≫

自然写真家・武田晋一のHP 「水の贈り物」 毎日の撮影を紹介する撮影日記 2008年5月分


このサイトに掲載されている文章・画像の無断転用を禁じます
Copyright Shinichi Takeda All rights reserved.
- since 2001/5/26 -

TopPageへ