撮影日記 2025年12月分 バックナンバーへTopPageへ
 
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● 24/12/3 科学は科学

 僕が駆け出しのころは、こてこての科学物よりも、どこか文学的、哲学的なにおいがする格調高い生き物の本が好きでした。
 それは僕だけの話ではなく、そうした作品が評価される雰囲気が、社会にありました。
 例えば、どこか哲学のにおいがする写真家の星野道夫さんは、事故で無くなる前から、神格化されていました。
 ところが近年は、その手の作品があまり評価されなくなり、時には嫌悪されるようにもなってきました。
 ある写真やある本が、事実を伝えようとしているのか、誰かの心の内面を現そうとしているのかの区別がしっかり求められるようになってきました。
 学者さんの中では、やはり哲学的で、かつてはその意見が参考にされることもあった生態学者の今西錦司さんの説が、全く評価されなくなりました。
 評価されないどころか、あれは科学ではく、偽科学であるとも言われるようになりました。
 生き物や自然に関する言動は、客観に徹することが、求められるようになってきました。
 
 そうした変化が起きた理由の1つは、情報網の発達だと僕は考えます。
 中でもSNSが発達したことで、有用な情報が早く広まる反面、偽科学みたいなものも広まりやすくなり、情報の正しさや客観性を社会がより強く求めるようになったからでは、と。
 生き物の本に関して言うと、文学的なものや哲学的なもの、つまり文系的なものは、科学的なものよりも多くの人にとって分かりやすく、受け入れられやすい傾向があります。
 ところがその受け入れやすさは、間違えた情報が広まることに結びつきやすく、多くの科学者が警戒し、嫌うようになりました。
 もともとは、文学的、哲学的なにおいがする生き物の本が好きだった僕も、科学者のみなさんの意見を見聞きして、さらに猛烈な勢いで広がる偽科学のフェイク情報などを多少なりとも知ると、なるほどなと思うようになりました。
 科学は、厳密でなければならないと感じるようになりました。



● 24/12/2 炎上

 ニコンの写真コンテスト、キヤノンの写真コンテストに加えて、僕が知っているだけでさらに2つの写真コンテストが、最近SNSで炎上しました。
 理由はいずれも、入賞した写真が作り物だったからでした。
 あるコンテストに関しては、入賞作品が盗用で、しかも盗用されたのはAiで作成された架空の写真だったというおまけつきでした。
 写真コンテストの審査員をつとめることもある某自然写真家は、自分の専門分野以外では、正直、作り物を確実に見抜くことは難しい、と発信しておられました。
 画像処理の発達やAiの登場で、多くの人が、自分が見ている写真が作り物ではないか?と疑いを持つようになりました。

 一方で、自然写真の仕事の現場では、作ることを求められることが多々あり、僕は数年前から、その手の撮影は、自分なりの基準を超えていると判断した場合には、引き受けないことにしました。
 難しいのは、撮影を依頼された時に、
「絵コンテを見て引き受けるかどうかを決めてもいいですか?」
 とは言いにくいことです。
 常識的に考えると、僕が絵コンテを見た上で、その撮影をお断りした場合、出版社の側からすると企画の内容が漏れてしまい、会社としては気持ちが悪いはずだから。
 それでも最近は、企画の内容を教えてもらった上で、引き受けるかどうかを決めるようになりました。
 これはあくまでも科学写真の話で、一冊の本の中の科学ではない部分やイメージの部分は話しが違ってくるし、そういう写真もあっていいと思っているのですが。
 今後は、科学写真とイメージを含む写真とが明確に分かれてくるのではないか?と僕は予測します。
 その場合に、何が科学写真として許され、何が許されないかの判断は、科学の見識がなければ難しいでしょう。
 
 ともあれ、写真を作る理由は、多くの場合、見る人を「驚かせたい」か、「分かりやすくしたい」です。
 いずれも人の都合なのですが、世の中には人の都合じゃないものもあるよというのが自然の話であり、その人の都合ではないものを取り扱うのが科学です。
 驚きは、作り手側が与えようとするものではなく、ありのままの中から写真を見る人が勝手に感じ取るもの。
 分かりやすさに関しては、可能な限り分かりやすくするのは当然としても、誰でもがわかるようにしてしまうと、そもそも科学物の本を読む意味が失われてしまい、やがて本なんて要らないとなってしまうような気が、僕はします。


   
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