撮影日記 2025年10月分 バックナンバーへTopPageへ
 
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● 25/10/20 他力な世界


NikonZ8 NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S

 取材現場への行き帰りに、ブラッと取り留めのない写真を撮る時間は、とても楽しい時間です。
 仕事として自然写真を撮る場合、最大のカギは、その写真が何の媒体でどんな風に使われるかを見通せているかどうかで、そこに仕事の面白さがあります。一方でその意識は、困ったことに、写真撮影の無垢な楽しさを削ぎがちです。
 初心忘れるべからずが自然写真にもあるとするならば、僕の場合は、「写真撮影って楽しいな。」になるでしょう。
 
 写真が何の媒体でどんな風に使われるかには、多少の型はあるものの、その人が業界の誰と出会ったかの結果なので、人によって異なります。
 出会いは、売り込みで多少作れますが、自分からプッシュしても上手くいかない印象があります。
 この世界は、相手がその人の写真をどうしても使いたいと熱望していなければ、いい扱いを受けないからです。
 商売で言うなら、訪問販売には限界があるのと同じで、誰かが自分を見つけてくれるのを待つしかない「他力」の側面があります。自然写真にも努力はもちろん必要だけど、自力で成し遂げようとすると、どこかで行き止まりになりがちです。
 他力は、運や偶然と言い換えてもいいでしょう。

 人の社会は、運や偶然を好みません。
 それらをなるべく排除しようとします。
 いわゆる平等です。
 その癖、宝くじみたいなものを作ってみたりするのは、とても興味深く感じます。
 もっとも宝くじの場合、部分的には偶然があっても、全体としては、販売する側が黒字になるように作られているのですが。



● 25/10/19 痛み


NikonZ8 NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

NikonZ8 NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

 取材の途中で寄り道をして、先週首の痛みで撮影を回避したアキアカネの繁殖行動を撮影しました。
 アキアカネの撮影は地面すれすれにカメラを構える無理な姿勢を強いられるので、体に痛みがあるとしんどいのです。
 今回の首の痛みは、運よく、割と短時間で治ってくれました。

 この手の地面すれすれのアングルからの撮影の場合、僕が一番重視するのは、地上何センチの高さにカメラを構えるか、です。
 低すぎると、カメラと被写体の間の草などが妨げになったり、陸の凸凹が邪魔になり、水面が見てなくなります。
 カメラが高すぎると、トンボを見下ろす状態になるので、背景とトンボが近くなり背景がぼけにくく、トンボが背景に同化しがちです。
 地上からの高さを決めたら、その高さを堅持するために、カメラは、必ず三脚に固定します。
 三脚は最も低いローアングルに。
 雲台は、自由雲台を、左に90度傾けます。
 望遠レンズの回転式の三脚座を、本来の真下から、レンズの右側面に動かし、左側に傾けた自由雲台に取り付けます。
 つまり、自由雲台を、ジンバル雲台のように使います。
 自由雲台をジンバル雲台のように使う場合、雲台を90度真横に倒した際に、きちんと90度になる製品が使いやすいです。
 多くの自由雲台は、90度よりもほんの少し行き過ぎるように作られています。
 
 さて、午前中にアキアカネを撮影したその晩、今度は腰が痛くなりました。
 トンボの撮影で長時間しゃがんだことが原因なのか、あるいは、長時間の運転が原因なのか・・・
 印象としては、運転の後が特に痛いので、運転かなぁ。
 近年時々腰が痛くなるので、上下の揺れが大きくて腰に悪いトヨタのハイエースを手放し、いわゆるミニバンに買い替えた結果、かなり楽にはなっているのですが・・・
 腰の現状は、動けないくらい痛い「ぎっくり腰」の一歩手前で、ギリギリ踏みとどまっている状態です。さらなる負担をかけないようにして、祈るように腰痛体操を試しているところです。
 今日は、カメラの三脚類に改善を加えました。
 いずれもローアングルの際の体の負担を減らす改善で、老化対策だと言ってもいいでしょう。



● 25/10/15 更新のお知らせ

 今月の水辺を更新しました。



● 25/10/14 風


NikonZ7U NIKKOR Z 24-120mm f/4 S

 写真は、波が引いたタイミングですが、よくぞ、こんな波が強く当たる場所にいるよな、と岩に付着したフジツボに驚かされました。
 先日の風景の撮影の最中でした。
 そこで、フジツボの生息環境を撮影してみました。
 波が岩に当たった時の水しぶきが凄くて、カメラがあっという間にしぶきだらけです。
 写真に撮ってみると、フジツボは、微妙に波が当たりにくい箇所に付着していることがわかりました。
 まるで、波がフジツボをよけているかのようです。
 Xのアカウントをお持ちの方限定ですが、下記のリンクをクリックした時に表示される画像をさらにクリックすると、同じ画像を拡大してみることができます。
 https://x.com/TakedaShinichi/status/1977503540223582530
 全体としては強く波が当たる箇所でも、部分的に、波が当たりにくいスポットが存在するようです。
 自然は、たまたまのようにも、必然のようにも見えます。
 

NikonZ8 NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

 その日、本来ならトンボを撮影する予定が海辺の風景の撮影に変わった理由は、風でした。
 トンボを撮影するには、風が強すぎました。
 その点、海辺の風景なら、強風の日は波が大きくて変化に富み、絶好の撮影日和になります。
 ただ、割と大きな三脚を使用しても、望遠レンズを取り付けたカメラのファインダーをのぞくと、強風でカメラが微妙に動いているのが確認できました。
 しかたがないので、機材がびしょ濡れになるのを辛抱しながら風が多少弱まるのを待って撮影してみました。
 それでも、露光時間を長くして引き波を表現しようとすると、フジツボがぶれた写真だらけで、ちゃんと写っていたのはわずか4〜5枚でした。
 
 撮影中に、目がくすぐったいな?なに?と思ったら、眉毛が風で小刻みに揺れるのがくすぐったいことが分かりました。
 風の日は、目にゴミが入りやすく、コンタクトレンズの愛用者の場合、ゴミが入るととても痛いので風は大嫌いな気象条件ですが、風景撮影の条件としては、とても面白いです。
 コンタクトレンズにゴミが入ると、とにかく痛いので、いったいどんなに大きなものが目に入ったのかと確認してみたくなります。
 それが可能な時は、コンタクトレンズをいったん取り外してみてみるわけですが、たったこれだけ?と拍子抜けするくらいに小さなゴミが原因なので、がっかりさせられます。



● 25/10/12 ナツアカネ


OM SYSTEM OM-1U
M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PRO + MC-14

 ススキの原の入り口に、ほんの数匹ですが、毎年ナツアカネがいます。
 今年はどうだろう?と見に行ってみたら、やっぱりいました。
 たくさんいるのならともかく、ほんの数匹なのに必ずいるのはなぜ?
 謎というほどでもないし、調べる対象にはなりにくいけど、そうした出会いは、妙に心に残ります。
 

NikonZ8 NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

 当初の予定では、アキアカネとナツアカネの産卵行動を撮影する予定でした。
 ところが、ちょうどひどく首を傷めていて、より低い位置を飛ぶアキアカネの場合、それに合わせて低くカメラを構えると痛みが生じるので、アキアカネの方は取りやめにしました。
 代わりに、地面に座った時にちょうど目線くらいの高さを飛び、無理な姿勢を強いられないナツアカネの方を、ただひたすらに撮影することにしました。
 使用したレンズは、ニコンの100〜400mmのズームレンズの400mm側。
 昔の感覚で言うと考えられないような望遠レンズですが、最近は機材の進化で望遠レンズが扱いやすくなり、トンボの飛翔の撮影では、400mmくらいのレンズを常用するようになりました。
 それでも、よほどにたくさんいる場所でなければ、トンボはたいてい遠くにいて、なかなか大きく写りません。
 したがって、近くを飛んでくれるのをただひたすらに待つことになります。


NikonZ8 NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S

 さて、なんとかしてナツアカネの姿を大きく撮影したいと思っているくせに、帰宅後に最も印象に残った写真は、トンボが小さく写っている写真でした。
 僕の場合、よくあるケースなのですが。
 自分が肉眼で見ている印象に近いから?
 僕は、肉眼で見にくいものをカメラの力で見えるようにするよりも、自分の目に映っているように写真を撮りたい気持ちが強いのです。



● 25/10/8 くだらない。


NikonZ7U NIKKOR Z 14-30mm f/4 S

EOSM6U EF-M11-22mm F4-5.6 IS STM

 今年試しているのは、棒の先にぶらさげた水中カメラを沖まで運び、自分は陸にいながらにして、水中にカメラをセットする方法です。
 自分が水に入ると水が濁るし、場所によっては池の底や植物を傷めてしまうから。
 なかなか思い通りにならないので、まどろっこしいけど、練習すれば、実用になりそうな予感がします。
 いったん水に沈めたカメラの位置は、微調整はできるものの、当然、自分が手に持ったカメラのように自在にはなりません。
 そこで重要なのは、ここにカメラを沈めたら多分こう写る、と目検討で撮影結果がある程度予測できることです。
 ふと、昔、昆虫写真家の海野さんが、事務所でノーファインダーで写真を撮り、
「今の撮影で、多分ここからあそこまでが画面に入っているよ。ほら。」
 などと言いながら、撮影結果をみんなに見せてくれたことを思い出しました。
 僕よりも上の世代の人の中には、目検討で写真を撮る練習をし、それを現場で駆使するような人もおられました。
 棒の先のカメラを水に沈めてみて、写真撮影で大切なことは、「カメラによるメカの目」と「自分の目」を一致させること、と改めて思いました。
 池の場合、カメラを水に沈める際にどんなに静かに沈めても、カメラが底に接地した時に、池に沈殿しているものが舞い上がります。
 そこで、カメラを設置してしばらくの間、待つ必要があります。
 待っている間に浮遊物はゆっくりと沈み、水が澄んできます。
 ところがその際に、カメラのレンズ部分に浮遊物が沈殿し、写りが悪くなってしまいます。
 そこで、陸上から水中のカメラを清掃するために、棒の先にくっつけたはけを作ってみました。
 僕は過去に何度か、
「そんな下らないことに努力をしないで、人のためになることに頑張りなさいよ。」
 と人から言われたことがあります。
 なるほどなぁと思います。
 確かに、くだらないのです。
 ともあれ、せっかくなので、はけ付きの棒に名前を付けることにして、「ケバ棒」と命名しました。


 僕が大学生の時は、山口大学の校庭に、左翼運動をしている学生がいました。記憶に間違えがなければ、「三里塚学生実行委員会」のみなさんです。
 ヘルメットをかぶりマスクをしていることまでは覚えているけど、左翼の活動家の象徴の1つである「ゲバ棒」を持っていたかどうかは、記憶にありません。
 棒は時に危険なので、もしかしたら大学から許可されなかったか、自粛していたのかもしれませんね。
 今でも、「三里塚学生実行委員会」のみなさんが活動しているかどうかの他に、学内で見ていたコシアカツバメ等の生き物たちを見るために、山口で撮影したついでに大学の敷地に入ってみたいのですが、昔に比べると車の出入りがきっちり管理されている感じがして、ガードマンから「立ち入り禁止」と止められそうなので、近年、大学への侵入を試みたことはありません。



● 25/10/2 試し撮りのはずが


OM SYSTEM OM-1U
M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PRO + MC-14

 池の撮影のついでに、届いて間もないレンズ M.ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8 IS PRO を使ってみました。
 秋になり植物が色あせてきた中、わずかに残った瑞々しい緑の葉っぱにトンボが止まるのを根気強く待ちました。
 ところが今朝画像を見てみると、なんと!枯れている葉っぱに止まった写真の方が、よりしっくりきました。
 現場の雰囲気がよく写っていて、ありのままの良さがありました。

 狙って意図的に撮影した写真よりも、そうではない写真の方を気に入るのは、僕の場合、よくあることです。
 狙って撮影する写真は、当然、多くの枚数を撮ります。したがって帰宅後に画像を見ると、まるで金太郎飴のように、類似の写真がずらりと並びます。
 その点、意図していない写真は、少ない枚数しか撮影しません。大抵は、なんとなくシャッターを押してみたとか、試し撮りだったなどで、2〜3枚程度です。
 ところがその2〜3枚の中に、気に入る写真があるのだから、面白いものです。
 ああ、力の入れどころを間違えた!と反省する反面、だから写真撮影がおもしろいのかも、とも思います。
 それがあるから、写真を改めて見る時間が楽しいのです。
 ともあれ、人にとってきれいな絵を見せたいのか、自分が見た自然について伝えたいのか、その人の価値観が表れやすい箇所です。
 僕の場合、撮影中は、きれいな絵を撮ることを目指していたはずなのに、あとで写真を見ると、実は自分が、絵作りをしたいのではなく、その場の雰囲気を持って帰りたいと思っていたことに気付かされるケースが多々あります。
 

   
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