撮影日記 2025年8月分 バックナンバーへTopPageへ
 
・今現在の最新の情報は、目次に表示されるツイッターをご覧ください。
 


● 25/8/15 遺言書

 いずれ起きるであろうことでも、それに対する準備がないと、必要以上にダメージを受けることを最近思い知らされる機会がありました。
 そこで、自分が急死しても家族がなるべく困らないように、正式な遺言書を作ったり、生命保険の受け取りに関して詳細を保険会社に問い合わせたり、できることをやっておくことにしました。
 中学のクラスメイトのK君がたまたま弁護士として近くにいるので、最初に、相談に行きました。
 その時に、正式な遺言書を作っておいた方がいいと教わり、こういう内容にしてはどうかと案を示してもらった上で、正式な遺言書を作る公証人役場に行くようにアドバイスをもらいました。

 公証人役場に行ってみると、徹底して不正が起きにくいシステムが採用されていました。
 例えば、公証人の方からは、こうした方がいいですよ的な誘導に結びつく可能性があるアドバイスはできないしくみになっていました。
 ところが、こちらは法律のことがほとんど分かりません。何かたたき台がなければ、話しを始めることができません。
 そこで、弁護士のK君が作ってくれた案が、大変に役に立ちました。
 それを見せて、こういう形でと相談すると、話しがスムーズに進みはじめました。

 公証人役場で正式な遺言書を作るためには、そこそこ時間がかかることがわかりました。
 その時間に加えて、事前に法律の専門家に相談する時間も加味すると、準備に要するトータルの時間は一ヶ月では、ちょっときついなと思いました。
 さらに、誰に相談するか、何を相談するかを考える時間も加えると、落ち着いて考えるためには、最低でも、自分が健康で十分に動ける状態で、2〜3ヶ月は欲しいと思いました。
 運悪く自分が命にかかわる急病になったり事故にあってからでは、その手の引継ぎ作業はきついなと感じました。
 遺言書は、身内の争いみたいなものを防ぐためのものだと思い込んでいたのですが、それだけではないことがわかりました。
 例えば、僕が死んでしまった場合、遺族は遺言書をもって銀行に行き、僕の口座のお金が自分に引き継がれることを伝えるのだそうです。また不動産の場合は、法務局に行き、やはり遺言を見せた上で、新たに登記してもらうのだそうです。
 その際に遺言書の書き方がまずいと、遺言としては機能しなくなるケースがあるのだとか。
 そう言えば、知人から、親が死んでしまった時に銀行口座の名義を変更しようとしたら、たらい回しにされてなかなか対応してくれなかった話は、聞いたことがありました。
 正式な遺言書は、そうしたケースを防ぐわけです。



● 25/8/14 まぐれ

 寄せられた注文に対応できる写真はないかな?と昔撮影した古い写真を改めて見る機会がありました。
 結論は、使えないことはないけど、提供しても多分使われない、でした。
「写真を探しています。」と声をかけられる時に、自分だけに声がかかることは滅多にありません。依頼者は何人もの人に問い合わせ、その中から写真を探す場合が大半です。
 すると、ツボを押さえていない写真は、なかなか使われません。
 
 自然写真を仕事として成立させる上で大変に難しいのは、コストの問題です。自然という予定が立てにくい存在を相手にすると、無駄がたくさん生じ、コストがかさみます。
 それらのコストを加味すると、撮った写真が一度使用されたくらいでは生活費にならない場合が多くなります。
 同じ写真が、何度も何度も繰り返し使用されて、初めて利潤が出る感じです。
 写真が一度使用されればいいのなら、きちんとした写真の技術と生き物に対する知識があれば、さほど難しくはありません。
 ところが何度も使用される写真に仕上げようとすると、業界の事情や慣例を知り、ツボを押さえておく必要があります。
 その点、若い時に撮った写真を今見ると、技術的には仕事ができる水準に達していても、業界の事情に無知であるがゆえに使われない写真がほとんどです。
 当時としては、ツボを知っているつもりだったのですが、今見ると、無知そのものなのです。
 そうした現実をまじめに考えると、あらゆることを犠牲にして撮影した写真が使われないなんて、俺のあの努力は何だったんだ!と叫びたくなってしまうことがあります。
 なので僕は、最近は、あまりまじめに考えないようになってきました。

 業界の事情や慣例の難しいところは、写真撮影を練習しても、身に付かないことです。
 基本、誰かに教わるしかありません。
 そこのところは、法律の難しさなどに似ています。
 人がどう決めたかの話であり、科学の研究みたいな、自分で導き出す類のことではありません。
 すると、慣例を教えてくれる仲間の存在が重要になってきます。
 ただ自分に下心があると、人は警戒するので、なかなか仲間ができません。
 たいていの場合、いい仲間とは、何となく出会います。
 幸運やまぐれに近い感じがします。
 「まぐれは呼び込むものだ」、という人がいますが、わかるような気がします。
 まぐれを狙って起こすことはできないけど、まぐれが起きうる遊びを持たせることなら可能だし、その遊びがないとまぐれが起きなくなってしまいます。
 
 

● 25/8/13 人の都合ではないもの

 もうずいぶん前のことですが、時々腹具合がひどく悪くて、ある時、いつでもトイレに駆け込めるように、トイレの前の床に横になり待機をしたことがありました。
 腹痛の具合は経験したことがないものだったので、これは何かあるかも?と後日大腸の検査を受けたら3センチもの腫瘍が見つかり、取り除いてもらいました。
 その後は、同じ感じの腹痛が起きなくなったので、おそらく腫瘍が悪さをしていたのでしょう。
 それはともあれ、トイレの前で横になっている僕を見た家族が布団を敷いてくれたところ、そばにいた犬が真っ先に布団に寝ころびました。
 僕は、脂汗がにじむような腹痛だったにもかわらず、その犬の振る舞いに大変に癒されました。
 
 あの癒される感じはいったい何だったのだろう?とあとで考えてみると、僕を癒したのは、人の事情を理解しない、犬のいつも通りの振る舞いでした。
 人の事情に関係なく変わらないもの、人の都合ではないものと言ってもいいでしょう。
 そう言えば、昔拉致被害者の方々が日本に帰宅した時に、
「親や兄弟に会っても涙はでなかったけど、故郷の山や景色を見たら涙がでてきた。」
 と何かに書いておられたのを読んだことを思い出しました。
 人の温かみはとても大切なものだけど、人間には、人の都合とは無関係のものも必要と感じました。
 僕に限らず、今は犬や猫を飼う人が多くいます。
 その犬や猫は、一部の例外をのぞいて、人の何か手伝ってくれるわけではありません。むしろ動物は困ったことをする場合も多々あり、合理性で考えると、動物を飼うのは非常にバカげた行為でしょう。
 にもかかわらず動物を飼う人が多いのは、僕だけでなく、多くの人にとって、人ではないものも必要だからではないかな?と思うにいたりました。

 もちろん、すべての人がそうではなく、動物なんて論外という人もおられます。人の予定通りに進む物事を好む人です。
 僕の身の回りでは、父がまさにそうでした。
 ある時、父が、柴犬のミキを山登りに連れて行ったところ、ミキがいなくなってしまったことがありました。
 驚いて必死に探そうとする母に対して、父は、もう探すなと主張しました。父が、自分の自由な時間を費やして、なんとかしてミキを探そうとすることはありませんでした。
 父が動物と接するのは、あくまでも自分の暮らしを変える必要がない範囲に収まっている場合のみでした。
 学校の教科では物理が好きだ、とよく言っていました。理由は、計算通りに行くからでした。
 また、生のものを相手にするよりも、本の中の世界を好みました。
 ともあれ、結局、ミキは山の中にいて、付近に貼ってまわった張り紙が功を奏し、ミキを見かけた登山者の方が確保してくださいました。



● 25/8/12 更新のお知らせ

 今月の水辺を更新しました。



● 25/8/6 売れる写真

 お金がたくさんあったらなぁ、と僕は時々妄想します。
 一方で、お金がないのなら、工夫をしたり写真が売れるように努力をせざるを得ず、その時に身に付くことはとても多いです。
 その努力を、裕福な状況でできるか?と考えてみると、僕は多分怠けるし、自分には無理っぽいなと感じます。
 裕福な状況で努力できる人は、本当にすごいと思います。
 僕の場合は、追い詰められているから頑張るハングリー型です。
 中には、人から認められたいとか評価されたいみたいな出世欲が頑張る動機になっている人も見受けます。
 でも出世欲は、自分と他人との比較であり、他人を羨むや妬むなどに結びつきやすく諸刃の剣でもあります。それゆえに出世欲が制御できずに自滅してしまった人を、何人か見たことがあります。

 さて、写真が売れるように撮影することを、自分を殺すことだと思っている人は少なくないのですが、売れる写真を撮るのは、基本的に自分と社会との接点を探すことであり、自分を殺すことではない場合が多いように思います。
 確かに、写真を売る時に自分を殺す要素が全くないわけではないのですが。
 また、写真撮影の技術が高ければ高いほど、自分を殺さずに済みます。


   
先月の日記へ≫

自然写真家・武田晋一のHP 「水の贈り物」 毎日の撮影を紹介する撮影日記 2025年8月分


このサイトに掲載されている文章・画像の無断転用を禁じます
Copyright Shinichi Takeda All rights reserved.
- since 2001/5/26 -

TopPageへ