撮影日記 2022年6月分 バックナンバーへTopPageへ
 
 
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● 22/6/25 明るい写真



 出版社によって本の作り方はさまざまですが、少年写真新聞社は、著者の気持ちを大切にしてくれます。
 貝のふしぎ発見記では、ここはこうしてというリクエストは、たった1つだけ。それは、冒頭は明るい写真でというものでした。
 僕は、ダミーの段階では荒れた夜の海の写真を選んでいたのですが、明るい写真にさしかえました。
 最初夜の写真を選んだのは、夜寝る時に、子供が本を読んでもらうことをイメージしたから。また、海での観察が面白いのは、浜辺にいろいろなものが打ち上る荒れた夜の翌日だから。

 そうしたリクエストに応える際に難しいのは、新たに写真を撮影して写真をさしかえた結果、ああ、やっぱり人のアドバイスは聞くものだなと僕が思わなければならないことです。
 思い入れたっぷりの自分の気持ちを覆すのは、他人の気持ちを覆すよりも、しばしばむづかしいのです。



 ちなみに、日本の自然写真の場合、僕が感じるプロの世界とアマチュアの世界の絵柄の面での一番大きな違いは、写真の明るさです。プロの世界では、徹底して明るいが求められます。
 実は僕は暗い写真が大好きで、明るく撮ることを覚えるのに、とても労力を要しました
 明るく写真を撮るには、ただ画面を明るくすればいいのではありません
 写真を明るく撮るなりの画面構成があり、まず自分の立ち位置が、つまり物の見方が違ってくるのです。



● 22/6/22〜24 なぜ書くのか?

 この日記を更新したりSNSに投稿しても、お金が儲かるわけではありません。宣伝効果が全くないとは思わないけど、労力の方が上回るでしょう。
 それでも日記を更新したりSNSで発信するのはなぜか?
 それに答えるのが面倒な時は、宣伝をしているふりをするのですが、本当のことを言うと、日記を更新したりSNSで発信することの方が本質で、仕事の方が、むしろついでだからです。
 本に著者として名前が載るというのは、そういうことではないかと思うのです。
 誰かが、この本の著者はどんな人なんだろう?と思って調べてみた時に、ああ、普段こんな活動をしている人が書いた本なら読んでみたいなと思われるような暮らしをしていることがまず第一。
 今は、インターネットが人と人を結び付ける大きな役割をしているので、ホームページの日記やSNSについて書きましたが、リアルな人とのつながりでもいいし、仕事以前に、その業界に自分の居場所を持っていることが大切だと思うのです。



● 22/6/20〜21 ボウフラ



 稲の葉っぱを撮影する仕事があり、苗をバケツに植えたところ、ボウフラが大発生。
 うちの屋外ではいろいろな水辺の生き物を飼育しているので、水たまりは常にあり、蚊は一定程度発生しますが、こんな密度は初めてというレベルです。
 稲が育つ環境って、蚊が湧きやすいのかなぁ。
 田んぼのボウフラと言えば、日本脳炎を媒介するコガタアカイエカが有名ですが、発生したボウフラを撮影したついでにわかる範囲で同定してみたら、コガタアカイエカっぽい感じ。
 少なくとも、普段うちの近所に出現するやぶ蚊とは違います。
 稲を植えてからわずか10日ほど。いったいどこから来たのでしょうね?



 大発生したボウフラは、飼育中のヤゴの餌にすることにしました。ボウフラは、もしかしたら、ヤゴの飼育には最適な餌かも。
 うっかりすると家の中に蚊が発生する問題もありますが、食べ残しが出たら、蛹の段階で取り除けばOK。
 または、蚊は、もしも発生している種類が一種なら蛹の段階でオスメスを区別できるので、血を吸う雌になる蛹だけを取り除くなどでも大丈夫。
 雌の蛹の方が、一回り大きいのです。
 理屈を言えば、蚊は交尾後に吸血するので、家の中で成虫になった蚊がメスだけならこれまた大丈夫だし、オスのサナギだけを取り除くようなやり方もなくはないでしょう。
 でも、雌の蚊が家の中にいたら、なんとなく気持ちが悪いですね。
 ともあれ、今回撮影したボウフラは、成虫にまで育てて種類を確認することにしました。間違えてすべてヤゴに食べさせないようにしないと。

 実は、うちの屋外には、水を張っているのにボウフラが湧かない飼育容器もあります。
 ミジンコを育てている容器です。
 なぜボウフラが湧かないのかはわかりません。近くに置いてあるジョウロの中にはボウフラが湧くので、小さな段階でミジンコに食べられているのかな?因みに、赤虫と呼ばれるユスリカの幼虫なら、若干発生します。
 さらに、ミジンコも、よく育つ容器とそうでない容器とがあり、うちではザリガニを飼育している容器ではとてもよく増えます。
 ザリガニの水の汚し具合が、ミジンコにとってちょうどいいのでしょうか。



● 22/6/18〜19 仕事はいつも難しい



 ある苔の撮影で、少しだけ遠方へ
 少しだけ遠方というのは、近所というわけではないけど、車内泊をするより帰宅した方がいいくらいの距離。
 今回は車で片道90分でした。

 その苔は、物の本によると、そこらにたくさんあることになっていて、確かに点々と見かけるのだけど、撮影できるような株となると話は別。特に、2つある型のうちの1つがうちの近所ではどうしても見つからなかったのです。
 そこへ行けば見つかると分かっていたわけではなく、最初なかなか見つけられず。
 もしかしてここにもない?う〜ん、交通費を使っているのにな・・・とがっかりしていたら、アオダイショウの子供を見つけました。
 ヘビと言えば敏感な生き物で、あっという間に逃げてしまう印象ですが、そんな様子もなく、しばらくゆっくり撮影。
 そうした楽しい出会いがあるのでカメラはいつでも持っておきたいところですが、今回は、探すことに徹しなければボウズの可能性も、との危惧があり、ヘビの撮影を終えた後はカメラを車に置いて歩きました。
 すると、目的の苔の目的の型を発見。

 何株かを持ち帰り、少しスタジオで撮影してみたら、求められた通りに撮影するには、苔をばか丁寧にクリーニングしたり、上手く撮影台に置いたりとなかなか難しいことが分かりました。
 これは、採集と車の運転で疲れた状態では無理かな・・・フレッシュな状態でなければむずかしそうだと感じたので、まずは昼ご飯を食べて、そのあと涼しい部屋で2〜3時間の昼寝。
 気力が高まってから、じっくり腰を据えての撮影です。
 それにしても、いつも思うのですが、仕事はなぜか必ず難しいです。
 簡単にぱっと撮れるようなものは、すでに写真が飽和しており、撮りにくく、しかもその撮影がつらくて人がやりたがらないものを依頼されるわけなので、当然なのですが。 



● 22/6/16〜17 ナメクジはカタツムリだった?

 全国学校図書館協議会が選ぶ2022年/第55回・夏休みの本に、ナメクジはカタツムリだった?


 
を選んでもらいました。
 https://www.j-sla.or.jp/pdfs/natsuyasuminohon55.pdf
 
 ナメクジはカタツムリだった?は、僕がカタツムリを探す旅をするお話。でも伝えているのは僕のことや僕の物の見方ではなく、生き物のことであり科学物です。
 僕はいわゆる語り部であり、カタツムリに関することが読者の心にスッと入っていくようにするための存在です。
 写真家の細川剛さんは、自分の存在を「郵便屋さんみたいなもの」とどこかに書いておられましたが、多分、同じことかな。

 ともあれ、夏休みの本のリストを見てみると、自然物が少ないなぁ。
 なぜ自然物が少ないのか、その理由を僕は知らないのですが、常識的に考えるとまず第一にニーズであり、自然物の人気がないということでしょう。
 そんな時に、評論家や学者さんならもっと自然物を増やすべきだという話になりますが、僕は、生き物の写真を撮ってビジネスをしている身なので、子供たちが読みたくなるようなものを自分が作る努力をするということになります。

 他に強いて言うならば、「客観」「正確」「正しい」が重視され過ぎているのかな?と感じることがあります。
 客観を重視すると、生き物に関する話は、論文や図鑑に近づいていきます。
 語り部は排除され、資料になると言ってもいいでしょう。
 資料は、それを今必要としている人にとっては素晴らしいものですが、そうではない人にとっては、きわめて退屈なものだったりして、結果的に社会全体としては自然離れが進んでいるのではないか?という気がします。
  
  

● 22/6/16 更新のお知らせ

5月分の今月の水辺を更新しました。



● 22/6/11〜15 中川雄三さん

 ツイッターで、自然写真家の中川雄三さんが亡くなられたことを知りました。
 僕が写真を始めた当時はインターネットがなかったので、今より情報が少なく、出版物の中で自然写真が使用されている企画を見つけたときには噛り付くように読んだし、その結果、面識がなかった方でも、僕の中には思い出がたくさんあります。
 中川さんを知ったのは山口大学の学生の時。
 だから中川雄三という名前にリンクされた、大学時代を過ごした部屋の間取り、身の回りの人たちの顔、山口市の景色などが思い浮かびます。
 写真の勉強の他にも、この人どんな人なのかな?とか、どんな暮らしをしているのかな?なんて思ったりしたものでしたが、中川さんの娘さんのブログ
https://ameblo.jp/wakimikimi/entry-12690234031.html?frm_src=thumb_module
の中にその様子が少し書かれていて、今更ながらいろいろ感激しました。
 ブログの中で紹介されている家族写真の中の中川さんの顔はどこかで見たことがあるので、何かの出版物の中でも使用されたのかな。
 それにしても、いい写真だなぁ。



● 22/6/5〜10 貝のふしぎ 発見記





 取材から帰宅をしたら、ここのところ取り組んでいた本が完成して届いていました。本のタイトルは
 「貝のふしぎ 発見記」
 少年写真新聞社より6月20日に発売されます。

 なぜ貝の本を作ったのか?
 もちろん、たくさんの出来事の積み重ねですが、過去にさかのぼっていくと、中学の理科の授業にたどり着きます。
 その日僕らは、先生から
「軟体動物というのは、イカやタコや貝の仲間です。」
 と教わりました。
 貝と言われて、僕はアサリのような二枚貝を思い浮かべました。すると、アサリとタコは、どう考えても似ていないように思えました。
 先生は、
「体が柔らかい生き物です。」
 と追加しました。僕は、
「じゃあミミズはどうなんだ?ミミズだって体が柔らかいじゃないか」
 と思いました。
 質問をするような立派な学生ではなかったので、 モヤモヤが心に残りました。
 もっとも、仮に質問をしても、先生は僕の疑問には答えられなかったでしょう。というのは、先生が教科書以外のことをそんなによく知っているとは思えなかったから。
 理科の先生と言えども、多くは子供やその教育に興味がある人であり、理科や自然に本当の意味での興味がある人は、ごく一部だから。
 
 ともあれ、その日授業中に感じたことはずっと心の深いところに眠っていました。
 ところが後に、これ貝?それともタコ?何者?と思わず声をあげたくなるような生き物を知ります。殻の中に入ったタコの仲間、アオイガイです。
 その瞬間に、中学の理科の授業の時に感じた疑問が思い出されました。
 先生の名前、顔、じゃべり方、その日の教室の雰囲気・・・
 本の中ではその日の授業のことには触れていませんが、「貝のふしぎ 発見記」は、そこから始まります。

 先生が、中学理科の内容以外に生き物についても詳しくて、よく説明をしてくれていたら、どうなったのでしょうね?
 授業を聞いた僕は、もっと生き物に興味を持ったかもしれません。
 でも逆に満たされて、そこで一件落着したかもしれません。
 ただいずれにしても、長い長い間、心の中で1つの疑問を熟成するような機会は失われていたでしょう。
 それを思うと、教育って難しいですね。



● 22/6/2〜4 物の本



 イヌワラビと言えば、物の本にはもっとも身近なシダと記されています。民家の庭に生えたり、花壇に生えることもあり、市街地に多いのだそうです。
 ということは、うちの近所の道端にところどころ生えているあのシダはイヌワラビだろうと思って撮影したら、なんとホシダという別のシダでした。
 ならば、ホシダの隣に生えていた少し外見が違うシダがイヌワラビだろう、とそちらを撮影したら、今度はベニシダ。
 おかしいな、と気合いを入れて本格的に近所を歩き回ったのですが、どうしてもイヌワラビが見つかりません。
 少し車に乗って、森林公園に行ってみても、やはり同じ。
 イヌワラビに気付けていないのか?それとも、うちの近所にはイヌワラビがないのか?が判断ができない困った状況に陥りました。
 インターネットを検索してみると、各地に分布する珍しい○○イヌワラビに関する記事ならたくさん引っ掛かるのですが、ただのイヌワラビに関する記事は、あまりありません。
 ふと、九州のある地域で調べられた小学校の敷地に生えている植物のリストに目を通してみたら、イヌワラビがないことがわかりました。
 もしかして、九州ではイヌワラビは珍しい?
 そこで、山口県に在住のシダの達人に教えをこい、勧めてもらった場所へ行ってみると、確かにイヌワラビが生えていました。
 実はシダには興味を持ったことがなかったのですが、今回は探しているのになかなか見つからなかっだけに、大感激。
 意外にも、そこは山地でした。
 なるほどなぁ。物の本位書いてある市街に多いは、例えば東京の状況であり、中国地方では山地の植物なのかな。
 時々、本の記載に振りまわれ、本を読めば読むほど、ゴールが遠ざかってしまうことがあります。
 ただ、すんなり見つからなかったおかげで、シダに興味が湧いてきました。まずは、イヌワラビの仲間をわかるようになりたいものです。



● 22/6/1 追加注文

 スタジオでより大きな被写体を撮影できるように態勢を整えたことは、昨日この日記に書いたばかり。
 その時に、写真をより完璧にするためにあと1つ物を注文するかどうか迷った挙句、結局僕は注文をパスしたのですが、やっぱりそれが欲しくなり、追加注文をしました。
 物が着くのは土曜日。
 ここのところ、大きな被写体の撮影でやや疲れていたので、土曜日まではその手の撮影に関しては忘れておきましょうか。

 僕は昔から、通販が大好き。
 昔は電話でお店に在庫を確認した上で物を注文し、お金は現金書留で送っていました。現金書留はそれなりに面倒でしたが、地方には売られていない釣り具が欲しかったのです。
 今はそれがインターネットになりました。
 通販の発達に伴い物流が発達し、夜の高速道路のパーキングは荷物を運ぶトラックの休憩で、しばしばあふれるようになりました。
 ただ、注文をして物がすぐ届くのは、だいたいたくさん流通している製品であり、特殊な物品にかんしてはそこそこ時間を要します。
 生き物の撮影の場合は、一日を待てないことも珍しくないので、特殊なものはなるべく早めに入手します。
 が、撮影してみるとそれが不要だったということも多々あり、お金の使い方は悩ましいです。


   
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