撮影日記 2022年5月分 バックナンバーへTopPageへ
 
 
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● 22/5/31 大きな被写体


 駆け出しの頃に、東京でスタジオを経営しておられるカメラマンに機材に関して相談する際に、
「大きなものは撮らないんです。せいぜい幅60センチくらいです。」
 と言ったら、
「わぁ、60センチは大きいね。」
 と返ってきました。
 ええ!60センチって大きい?と当時は感じたものですが、最近になってなるほどなと思うようになりました。
 なんとなく写真が写ればいいのなら、60センチはそんな大きな被写体ではありません。でも、まぎれもないプロの品質に撮ろうとすると、60センチはなかなかの大きさなのです。
 そして自然写真の仕事で通常求められているレベルは、何となく撮れているレベル。一方でコマーシャルフォトグラファーが日頃求められているレベルは、まぎれもないプロ品質。
 その感覚の違いが現れたのです。

 それはともあれ、長辺の長さが60センチの被写体に対応できるように、物を買ったり、スタジオ内に場所を確保したりして、態勢を整えました。



● 22/5/24〜27 テーブルとゴミ箱





 車内泊の取材で、別になくてもいいのに、それがあるだけで車内泊の不自由を感じにくくなるのが、テーブルとゴミ箱です。
 僕はもうずいぶん長いこと、車内泊の取材をしていますが、それに気付いたのは割と最近のことした。

 車にテーブルを積み込んだきっかけは、現場での白バック撮影でした。撮影用の水槽を置く台が必要だったのです。
 最初は折り畳み式のテーブルを邪魔にならないように折りたたんだ状態で車に積みました。
 やがてそのテーブルが車内で広げられた状態で置きっぱなしになりました。
 すると、思わぬところにテーブルの効果が現れました。
 僕は年々パソコンを扱うのが嫌になっていて、2〜3日の取材なら、パソコンを一度も立ち上げないことの方が多くなっていました。
 カメラには、大容量の記録メディアを入れておけば画像をハードディスクに保存しなくても2〜3日なら持つし、メールの閲覧はスマートフォンでOK。
 でも、本当はパソコンも使った方がいいよな、と思っていたところ、テーブル設置後は、一日に一度パソコンを立ち上げることが面倒ではなくなりました。
 また、食事をする時やカメラの手入れをする時やコンタクトレンズを取り付けたり外したりする際や・・・、と、多くの作業が少しずつ楽になることを実感したのでした。
 折り畳みのテーブルは、急ブレーキを踏んだ時にも倒れないように自作のテーブルにかわりました。
 ゴミ箱の方は、元々は簡易トイレ用に積み込んだものでした。
 車内泊の取材でのお漏らしは、別に命にかかわるわけではないものの、非常任非常に面倒なことなので、最低限の備えとして組み立て式の便座とバケツが積んであるのです。
 ただそれらの備えは一度も使用したことがなく、バケツの方はいつの間にかゴミ箱になってしまったのです。
 ゴミ箱はレジ袋をぶら下げておけばいいような気もするのですが、袋は、幾つもぶら下がってしまったり、ゴミなのか食べかけの食べ物なのかが分からなくなったりもします。
 それから、袋は破れたりすると、食べ終わった弁当から汁が漏れたりもします。
 やっぱり大きく口を開いた固いゴミ箱が安心なのです。

 両者ともに、別にないならなで済むのですが・・・
 
 

● 22/5/20〜23 命が重たくなった


 子供の頃に、従妹の浩道君が捕まえてくれた大きなヤドカリが何だったのか?は、40年以上たった今でも何となく気になることです。
 そんな子供の頃のちょっとした気になるが、今僕が写真を撮る大きな動機になっていて、いまだに枯渇しません。
 枯渇しないのは、その気になるが解決しないからかもしれませんね。当時は今と違ってスマホでパシャパシャ写真を撮るような時代ではないし、その時に見たヤドカリの写真なんて、当然存在しないのだから。
 それを思うと、今はなるべく証拠を残して解決する時代ですが、解決しないのも悪くないような気がします。解決したところで、どうせ他の何かが目の前に現れるだけだし。
 
 ヤドカリを見た場所は、親戚寄りで行った海辺の料亭の前でした。
 大きなヤドカリがいるような場所ではないので、今にして思うと、沖で漁師さんに混獲されたものが、浜に放されたのではないかと思います。そう言えば、おそらくそうして捨てられたであろうシュモクザメの死体も転がっていました。
 子供の頃から協調性ほぼゼロの僕は、その晩、食事の場を抜け出して海で遊んでいました。
 しばらくすると従妹の浩道君がやってきて一緒に遊んでくれ、大きなヤドカリを捕まえて渡してくれたのでした。
 浩道君は多分、僕がいないから心配したんだろうな。
 
 僕は、海に限らず、子供たちだけで、あるいは一人であちこちで遊びまわったし、町の中でもアーケードの上に登ってみたり電柱に登ってみたりと、今思い出すと、よく事故を起こして死ななかったなと思います。
 当時は、子供ってそんなもので、事故で死んでしまったらそれもある種の運命だという感じがありました。
 それに比べると、今は命が重たくなったなと感じます。それがいいことなのかどうかは、僕にはわかりません。
 少子化の原因として、経済的なことがよく言われますが、本当にそうなのかな?
 命が重たくなり、一人を育てる精神的な負担が大きくなったからじゃないのかな?



● 22/5/19 バルブタイプのストロボ



 このストロボを、ポンと一灯光らせるだけで



 いとも簡単に、こんな感じの写真が撮れます。
 大きな傘の威力で影が柔らかいのだけど、直進性が強い光でもあり、まるで生のライトを当てたかのようにビビッドに写ります。
 柔らかい光と硬い光のいい所取りです。
 冒頭のストロボは、先日も紹介したNEEWERのNW-180のニコン用にGODOXの反射傘AD-S3を取り付けたもの。
 ニコンのカメラに取り付けると、一眼レフではTTLも使用できますが、ミラーレスカメラでは、なぜかTTLは使用できず、Mのみになります。余談になりますが、ニッシンのストロボでも同じようなことがあり、TTLを割とよく使用する僕としては、ちょっと残念。



 NEEWERのNW-180シリーズは、今は売られてないので、同じようなことをしようと思うとGODOXのAD200になります。
 本体と発光部を専用コードで切り離し、発光部のみをカメラに乗っける感じ。
 ただし発光部にはシューがなくカメラに乗せても光らないので、発光部にはトランスミッターを取り付けておき、トランスミッターからの信号で発光部を光らせるやり方です。
 本体は専用ケースに入れ、ベルトに通して身に付けておきます。
 昔昆虫写真家の海野さんが魚眼レンズで蝶の写真を撮る際に、ストロボに外部バッテリーを接続してバッテリーは腰のベルトに通していたのを見て、カッコイイと思ったのを思い出します。
 ただ、腰にぶら下げた本体が多少重たいのは弱点。
 でも、専用の充電池のパワーでたくさん撮影できるし、NW-180よりも光量が大きく、遠くまで光が届きます。
 その専用電池ですが、うっかり使い果たしてしまった場合は、充電にはそこそこ時間がかかるし、今度は使い物にならないという弱点にもなることは、要注意です。

 自然写真家で、同様の道具の使い方をしている人を、僕は見たことがありません。
 つまり、とても特殊なことをしているわけですが、いったいどんな経緯でこのやり方にたどり着いたのか?と言えば、昔々に海野さんから聞いた話が始まりでした。
 当時、栗林慧さんが、ナショナル製のグリップタイプのストロボを使用しておられ、
「あれが一番きれいに写るんだよ。発光部が大きなストロボで撮るのが一番なんだ」
 と聞いたのです。さらに、
「今森君も同じだ。」
 と聞かされたものだから、僕は真似をしたくなりました。
 栗林さんや今森さんの機材には、グリップタイプのストロボのグリップと発光部を切り離す工作が施してありました。
 今よりもさらにお金がなかった当時は、工作に失敗してなけなしの金で買ったストロボをただ破壊してしまったら・・・と思うと、手を出せませんでした。
 代わりに、無改造の状態で使用できるストロボで発光部が大きなものはと検討した結果、サンパックの120Jがありました。

 果たして、サンパックの120Jを試してみると、見事なくらいに写るので大感激し、以降僕は、同タイプのストロボの熱烈なファンなのです。
 やがて120Jは製造中止になり、寂しい思いをしました。
 ずいぶん時間がたってから、NW-180シリーズが登場した際には、安価だったこともあり飛びつきました。1台、また1台と増えて、合計3台を購入しました。
 その後に登場したのがGODOXのAD200であり、バルブタイプのストロボ大好き人間の僕は、AD200でも、120JやNW-180のような使い方をするようになりました。
 
 

● 22/5/16〜18 プリンター

 かなり前のことになりますが、初めて顔料インクのプリンターを購入した際には、その色の良さに感激しました。正確に書くと、色の良さというよりは、色がきちんと合うことに。
 当時は、パソコンのモニターに映し出された通りの色に画像をプリントするのが難しかったのです。
 顔料インクのプリンターを購入する以前に使用していた染料のインクの場合、印刷直後にはちゃんとした色が出ませんでした。色が落ち着くまでに、数時間以上待つことを強いられました。
 その点顔料のインクは、印刷直後から、本来の色を発色しました。
 それくらいちょっと待てばいいじゃないか、と思う方もおられるでしょうが、プリントは一発では決まらないことが多く、試し刷りをしては修正することが必要で、その際に毎回数時間待つのは実に間が悪く、すぐに色が安定する顔料のプリンターには大感激したものでした。
 ただ、顔料のプリンターには弱点もあります。
 中でも僕にとって一番大きいのが、染料よりも高価であることです。

 その顔料のプリンターが使えなくなったのが、昨年の冬。修理をしようと思ったら、古いモデルだったため、ちょっと前にメーカーによる修理の期間が終わっていました。
 新しい顔料プリンターを購入しようにも、初期投資が必要な撮影の仕事が控えており、そこにお金がかかるため、資金が足りませんでした。
 プリンターは写真のプリント以外にも事務仕事に必要なので、仕方なく、一応画像も印刷できるとうたってある、より安価な染料プリンターを購入しました。後々、顔料のプリンターも買おうと自分を説得しました。
 それでも内心は、染料のプリンターで写真を印刷する気にはなれず、あまり望まない道具を持っている状態になっていました。

 さて、その染料プリンターで、一応写真をプリントしてみることにしました。
 すると、昔の染料プリンターとは違い、最新の染料プリンターの場合、印刷直後から、ちゃんとした色が出ることが分かりました。
 な〜んだ!もう、これで十分じゃないか。
 染料プリンターの場合、顔料よりもプリントの耐久性が劣るので、プリントの販売みたいな用途には適しませんが、僕はプリントを販売していないので、もはや染料で十分。
 顔料のプリンターも欲しいと望みつつ、でかいプリンターを二つも持つのも嫌だなという気持ちもあったし、すっきりしました。
 もっと早く試せば良かった。



● 22/5/12〜15 更新のお知らせ

4月分の今月の水辺を更新しました。


● 22/5/9〜11 普通で気持ちがいい

 大学時代を過ごした町をお昼時に通りかかったので、よく食事をした食堂に行ってみました。30年くらい経っているのに、変わらぬ味で相変わらず満席で繁盛。
 30年以上、安定経営って凄いな。
 味は、まんが美味しんぼの海原雄山的な『究極の味』の要素は全くないけど、どのメニューも十分に美味しく、そんなお店はありがたいです。
 自然写真みたいな世界はこだわりの世界であり、究極を目指すのが当然という感がありますが、本を作る作業をしてみると、自然写真の世界でも、究極の写真より、普通にちゃんと写っていてそれが気持ちがいい写真が重要であることに気付かされます。

 SNSなどで、プロを目指している若い写真家のみなさんの写真を見ていると、この人は将来プロとしてやっていけそうだなとか、逆に今のままでは生活するのは難しいんじゃないかななんて思ったりすることがあります。
 やっていけそうだなと感じるのは、上手い人ではありません。普通にちゃんと写っていてそれが気持ちがいい写真が撮れる人です。
 もっと具体的に言うと、基本的な技術がしっかりしている人。
 写真の基本とは、何を撮るにしても共通する部分のことなので、基本がしっかりしている人は、何を撮ってもある程度の写真が撮れる人だと言い換えることができます。
 それは、写真のピントが合っているとか露出が合っていると言ったことではありません。ピントや露出は、カメラの取り扱いの技術であり、写真の技術はそれとは違うもの。
 写真の技術とは、何がどう写っていたら、自分の言いたいことが伝わるのか?の判断の部分にあります。
 
 

● 22/5/4〜8 ワイドレンズの使い方





 この二枚の写真が、同じ本の本文の中で同時に使用される可能性は、とても低いでしょう。
 片や砂浜の写真、片やイカの骨の写真。内容は全く異なりますが、イメージが似通っているからです。
 ではどちらが使われるか?と言えば、多分、一枚目の方。
 物語は、いつ、どこで、誰が・・・の順でと小学生の時に学校で習いましたが、物語型の本の冒頭は時期や場所の説明から始まるのが相場であり、そうなると、先に浜の写真が使用される箇所が決まってしまうから。
 その場合、二枚目のイカの骨の写真は、一枚目の浜の写真とは違ったイメージになるように撮影することになります。
 つまり、大きく伸ばして使用する写真の場合、あるページにどんな写真を使うかは、その前のページとの関係があり、ある一枚の写真を差し替えると、それに伴って他の写真も変わってしまうこともあり得ます。
 逆に冒頭のページの写真がしっかり決まれば、一枚目がこの写真だから次のページは・・・と写真を撮り進めやすくなります。
 生き物の写真を撮る際に、被写体だけでなく周囲の環境をも写し込むワイドレンズはとても魅力的なレンズですが、本を作る場合は、ワイドの写真は使い道が限られる写真でもあり、本の全体像がある程度イメージできていることが大切です。
 
 

● 22/5/2〜3 現場復帰



かさ張るので、車の近くのみで使用するストロボは、NEEWERのNW-180シリーズ。
 傘は付属の小さなものを、より大きなGODOXのAD-S3に交換。AD-S3の方が口金がやや小さくガタが生じるので、ビニルテープを巻いて調整しています。
 AD-S3は本来は円形ですが、円の下の部分が邪魔になることがあるので切断。
 2〜3年前に引退させていたものを、乾電池で動くところが魅力で、現場復帰です。



 どれくらい写るか?と言うと、こんな感じ。このストロボをカメラに取り付け、何の配慮もなしに無造作に光らせたテスト撮影の結果です。
 大きな傘の効果で影は柔らかいのだけど、一方で光自体は直進性が強く、立体感があり強い写り方になります。
 つまり、柔らかいと強いという本来は相反する2つの性質をもつ光で、それが僕の好みに合い、最近はスタジオでも、同様のアクセサリーを多用しています。
 また、一般的なストロボをディフューズしたものよりも奥まで明るくなり、ストロボ独特の手前が明るく奥が暗いむらが少なくなるのも特徴です。



 こんないい物を引退させていた理由は、スレーブが反応しないような明るい屋外で複数のストロボをワイヤレス発光させる際に、GODOXのワイヤレスシステムの方が確実だからでした。
 GODOX製品では、AD200を選べば、似たような使い方が可能です。
 AD200はより重たいので、野外で生き物を撮影する際には、発光部のみを取り外して使用する専用の延長コードを使います。
 本体の方は専用ケースに入れた上でベルト等で身に付けておいて、発光部のみをカメラに取り付けるのです。
 イメージとしては、ストロボに、携帯式の外部バッテリーを取り付けているようなイメージで、やったことがある人ならわかると思うのですが、ややスマートではありません。
 また、AD200には専用充電池が必要で、充電にはそこそこの時間がかかるので、車内泊の取材などには向かない面があります。
 それはともあれ、GODOXのレシーバーを使用すれば、NEEWERのNW-180をGODOXと混ぜて、GODOXのワイヤレスシステムで使えることが分かり、現場復帰させた次第です。


● 22/5/1 ここがこう写ってないとダメ



 ヘビの写真を撮り終えいったんカメラをバッグに仕舞ったあとで、そう言えば舌が写ってなかったなと再度カメラを取り出して、舌が写るまで撮影を続けました。
 仕事で
「この被写体は、ここがこう写ってないとダメなんですよ」
 とダメだしされ撮影をやり直すことが年に何度かあります。今シーズンも、3月上旬くらいから撮影が本格的になり、わずか二か月の間に、3度そんなことがありました。
 ヘビなら「舌が写ってないとダメなんですよ」なんて言われそうです。

「この被写体は、ここがこう写ってないとダメ」
 は、言われてみれば、ああその通りというケースもありますが、えっ何で?それが慣習なの?何か合理的な理由があるの?というケースも多々あり、仕事をしながらダメ出しをされて覚えること。
 今は自称の時代なのでSNS上にはプロを名乗る人がたくさんいますが、他人が撮影した写真のそういう箇所、つまり実際に仕事をしている人にしか分からない箇所を見ると、その人がどの程度の仕事を経験しているかがだいたいわかります。
 ただ稀に、まだ写真で生活するには程遠い段階なのに、実にいいところを突いている人もいます。
 そういう人のことをセンスがいい人というのでしょう。


   
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自然写真家・武田晋一のHP 「水の贈り物」 毎日の撮影を紹介する撮影日記 2022年5月分


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