撮影日記 2017年9月分 バックナンバーへ今週のスケジュールへTopPageへ
 
 
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● 2017.9.23〜26 新兵器?旧兵器?



 一眼レフは、その構造上、シャッターを押した際に、カメラ内部で振動が生じやすく、それがぶれに結びつくことがある。
 一方でミラーレスカメラでは、そうした振動が生じにくく、ぶれにくい。
 そこで、ニコンのレンズに、キヤノンのミラーレスカメラ・EOSMシリーズを取り付けるためのアダプターを購入してみた。超望遠レンズでスローシャッターを切る際など、ぶれやすい状況で使用する予定だ。
 ニコンのレンズにキヤノンのカメラの組み合わせなので、ピントはオートフォーカスではなく手動になる。
 だが、ミラーレスカメラにはMFピーキングと呼ばれる機能があり、ピントが合っている箇所の輪郭に赤い色を付けて教えてくれるので、手動でのピント合わせで問題なし。
 むしろあまり動かない被写体を撮影する際には、MFピーキングはオートフォーカスよりも威力があるし、被写界深度がある程度分かるという利点もある。あるいは動体の撮影でも、あらかじめ一定の距離にピントを合わせておいて、被写体がそこを通過する際にシャッターを押す「置きピン」と呼ばれる方法で撮影する場合には、MFピーキングが非常に有効。




 こちらは、キヤノンのEOSMシリーズに、フィルム時代のオリンパスの高倍率レンズ・ZUIKO AUTO-MACRO 20mm F2を組み合わせたもので、これもなかなか有効。
 オリンパスのレンズに、キヤノンのEOSマウントに変換するアダプターを取り付け、そこにさらにEOSマウントをEOSMマウントに変換するアダプターを使用する。
 キヤノンのカメラにオリンパス(しかも大昔の)のレンズの組み合わせなので自動絞りが働かず、絞りを絞るとファインダー内の像が暗くなってしまうはずなのだが、ミラーレズカメラの場合は、暗い状況でもファインダー像を明るく表示させることが可能なので、全く問題はない。
 それ以前に、高倍率の撮影では、今や深度合成が当たり前になり、絞りを絞る必要がなくなっているのだが。
 このレンズは、随分前に、トンボ愛好家の西本晋也さんが「差し上げますよ。」と言ってくださったもの。
 西本さんが購入しようとした時にはすでに製造中止になっており、どこにも売られていなかったらしいのだが、オリンパスに電話をしてみたら、工場に一本だけ組み立てられる材料があるとのことで、組み立ててもらったのだそうだ。つまり、僕が持っているレンズが、名作と呼ばれたZUIKO AUTO-MACRO 20mm F2の最後の一本ということになる。
 高倍率撮影では、顕微鏡用のレンズを写真用のレンズの前にフィルターのように取り付ける方法が知られているが、それに対してZUIKO AUTO-MACRO 20mm F2を使用する最大のメリットは、この組み合わせは見た目がとてもカッコいいことで、
「ああ、かっこええ、かっこええ。」
 とつぶやきながら写真を撮ることができる。



● 2017.9.21〜22 フレンズ


EOSM5 EF-M11-22mm F4-5.6 IS STM

 レベッカのフレンズを聞くと、瀬戸内の磯の景色が思い出される。
 大学3年の時に、確か一週間くらいの期間だったと思うのだが、海の生き物の発生の実験が組まれていて、広島大学の臨海実習所で実験をしたことがあった。
 よその大学の施設を借りるということで、風呂は3日に一回だったかな?そんなのやってられねぇ、と、たまたま付近に叔母が住んでいたこともあり、その間迎えに来てもらって風呂を借りた。
 僕一人1〜2時間くらいいなくなったところで、誰も気付かないのではと思ってはみたものの、さすがに無許可はまずいだろうと、無法者の僕が先生の許可を取った。その年は、引率の先生が、厳しくて融通が利かないI先生ではなく、いい意味で適当なY先生だったことが、毎晩施設の外に出ることに幸いした。
 僕を迎えに来てくれた叔母の車のラジオから、ちょうど流れてきた音楽が、フレンズだった。
 
 あれから25年以上の月日が流れ、叔母は痴呆が進み施設に入所した。尾道の向島にあった風呂に入れてもらったそのお宅も、多分今はないのではないかと思う。
 僕は海の生き物も撮影するようになり、あの磯にもう一度行ってみたいなという思いが込み上げ抑えられなくなりつつあったのが、縁あって訪れた山口県周防大島の磯がとても良く似た雰囲気で、その思いがすべて満たされる感じがした。
 そうそう、こんな感じだったよな。

 言葉で表すなら、磯と干潟と砂浜の中間くらい。
 岩が古くて風化が進んでいて、小岩がたくさん転がっていて、平らで傾斜が穏やか。岩にはたくさんの生き物たちが付着している。
 転がっている岩をめくれば、あり得ないくらいにたくさんの生き物が見つかる。
 瀬戸内って凄いなぁ。
 北九州の磯に比べると瀬戸内の波はとても穏やかで、波で岩が崩れたというよりは、時間をかけて少しずつ崩れている感じがする。
 北九州の磯は、岩が比較的新しい場所が多く、ひっくり返すことができるような岩の数が少なく、岩は波で磨かれていて付着している生き物は少ない。



● 2017.9.17 床

 小さな生き物の生態を撮影して本を作るような職人的な撮影は、そう遠くないうちに、仕事としては成り立たなくなるのかな?という感じがしてきた。
 理由は、写真業界の価格破壊が進み、経済的に成り立ちにくくなっているから。
 恐らくそうした生き物の本は、博物館の学芸員や学者さんのような人で、かつ写真の心得がある人が作るものになっていくのではなかろうか。
 ただし、定職がある人は生活の心配がないため、撮りたくない被写体の撮影を引き受ける必要はなく、依頼されれば何でも撮るプロはやはり必要であり完全にいなくなるわけではないと思うけど・・・。



 薄利多売というその言葉の通り、価格破壊が進むと、以前よりもたくさんの量を撮影しなければならなくなる。
 1つの撮影に費やすことができる時間はより短く。
 同時進行で進めなければならない撮影は、より多く。
 まだ大学生の時に、初めて昆虫写真家の海野先生の事務所を訪ねた際に、写真で生活をするためには一年間に何枚くらい写真を売らなければならないかを教えてもらったのだが、あまりの量の多さに、「嘘やろう!」と口から出そうになったものだった。
 しかし今では、当時が甘かったのではないかと思えるほどに、もっともっとたくさん撮影しなければならなくなった。
 ともあれ、幾つもの撮影が同時進行で進むのだから、撮影用の照明器具などは、スタジオ内であっちへ持っていったり、こっちへ持ってきたりで、タイヤ付きのドーリーと呼ばれるタイプのものがとても重宝するようになった。
 画像のドーリーは、フォトショップ・パルを経営するトンボ愛好家の西本晋也さんからもらったもの。あと1つ、より巨大で、超望遠レンズでも楽に支えられそうなものもあったのだが、当時僕の仕事場は床がボロボロで重たいものを置くことができず、そちらは、自然写真家の新開さんの元へ。
 他に、天井に固定するタイプの照明器具なども、差し上げますよと言ってもらえたのだが、床がボロイということは天井もボロイということで、それなりの重さのものをうちの天井に固定できるとはとても思えなかった。
 ドリーは、あと1つ2つ欲しいのだが、新品を買うようなものではないだろう。オークションなどで、1つ2000円とか3.000円とかで出てくる処分品を待つことになる。
 その後、仕事場が鉄筋コンクリートの建物に移ったので、今では重たいものを置けるようになった。



 ボール盤は、やはり以前の仕事場では床が怪しいということで、しばらく使ったものの直方の実家へ持ち帰り放置してあったのだが、建物が変わったので、また使うことになった。
 カメラを三脚に取り付ける際に使用されるネジ穴は、インチネジと言って、一般的なネジの規格とは違うので、自分でネジ穴を好きな場所に開けることができればとても便利なのだが、その際に必要な下穴を開ける際には、ボール盤があった方がいいのだ。



● 2017.9.9〜16 ミラーレスカメラ





 小さなカメラが一台に、ワイドズーム・マクロ・望遠ズームとこれまた小型のレンズが3本と、小さなストロボ2つ。ウエストポーチサイズのカメラバッグに収まる機材で8割方の仕事ができるのだから、ミラーレスカメラって凄い。
 ほぼ手ぶらに近い重量なので、生き物を探す際の邪魔にならない。

 インターネットの普及で、誰もが、ある程度の情報を入手可能になった。その結果、情報は、以前ほどは価値を持たなくなった。
 以前ならマル秘のスポットだった場所が、今では誰でもが知り得る場所になり、そこでは差が付きにくくなった。
 その分、自分でどれだけの被写体を見つけられるか、つまりどれだけ自然を知っているかが肝心で、機材が被写体探しの邪魔をしないことは、より重要になった。
 同じことは写真撮影にも言える。
 フィルムの時代なら、一部の訓練を積んだ人にしか撮れなかった写真が、デジタルカメラの登場で簡単に撮影できるようになった。
 その結果、今や写真がちゃんと写っているのは当たり前。その分、どれだけ被写体を知っているかの見識や知識が重要で、近年の傾向として、博物館の学芸員の方や研究者が自然写真の世界で大活躍をするようになった。

 大体新しい道具は大部分の同業者よりも先に導入してきた方だけど、ミラーレスカメラはやや遅くなった。
 理由は、ミラーレスのカメラはたくさん存在しても、自分の目的に合うシステムが存在しなかったから。
 ソニーにはたくさんのミラーレスカメラがラインアップされているけど、小さな生き物の撮影に使用できるような接写可能なワイドズームがない。
 ソニーのカメラには、アダプターを介して他社の一眼レフ用のレンズを取り付けることが可能で、そうしてしのぐ手もあるが、一眼レフ用のレンズは大きく重たい。
 オリンパスやパナソニックはセンサーのサイズが小さくて、小さな生き物を撮影するには最高に適しているものの、その分風景など大きな被写体には画質面で物足りず、別に風景用のカメラを持たなければならなくなる。
 僕が写真を撮る最大の動機は、川や海が欲しいというものなので、生き物を、川や海ごと持ちかえるためのカメラには、風景の質感までもを記録できることを求めるのだ。風景を重視する場合、カメラのセンサーサイズは、最小でもAPS-Cの大きさは欲しい。
 ソニーもオリンパスもパナソニックも、いずれも所有しており、そのカメラにしかできない特徴があって重宝しているのだが、代打の切り札的な使い方であり、メインのシステムにはならなかった。
 その点、キヤノンのEOSMシリーズは、僕のニーズに適っていた。
 キヤノンのEOSMシリーズ用のEF-M11-22mm F4-5.6 IS STMは最短撮影距離が短く、小さな生き物の撮影にも使用できるし、APS-Cサイズのセンサーを搭載し、風景の撮影にもギリギリ使える。
 さらに言えば、お手頃価格で買いやすく、感心してしまうくらいによくまとまっている。
 オリンパスやパナソニックのように得意技を有するワクワクさせてくれる道具ではないが、例えるなら、チェーン店のよくできた食べ物みたいなもので、究極に美味いわけではないが、結局またあれ食べたよねとなる。

 今僕が主に使用しているデジタル一眼レフはニコンだが、ニコンもそう遠くないうちにミラーレスカメラを発表するのだろう。
 だがその時に、キヤノンのEF-M11-22mm F4-5.6 IS STMのようなレンズを最初からラインアップしてくる可能性は低く、使い慣れたニコンのシステムをミラーレスで使用できるのはかなり先になるのではないかと判断し、EOSMを買ってみるかとなった次第。



● 2017.9.3〜8 さかなのヒレと撮影の話


NikonD7200 AF-S DX Micro NIKKOR 85mm f/3.5G ED VR

 ひれに色がついた魚に関しては、飼育水槽の中に白い板を入れて、その前を横切った時にシャッターを押せば、白バック写真が撮れる。
 上の写真などはまさにそうして撮影したものであり、画面右下に水槽にレイアウトした岩が見える。
 より完璧な写真が撮れる白バック写真専用水槽に移すと、魚は色が変わったり特徴的なポーズをとらなくなるケースが多々あるけど、その魚が落ち着くように隠れる場所なども含めて作られていて、普段から馴染んでいる飼育水槽の中ならそれがない。

 問題は、ヒレに色がついていない魚だ。
 ヒレに色がついていない魚は、白い板を水槽に入れると、白いバックにヒレが溶け込み、見えなくなる。
 そんな場合一般的には、背景の白をより明るく、魚のヒレがより暗くなるように照明し、明暗差を利用してヒレを描写する。
 しかし、背景と魚の明るさを違うということは、魚と背景とがそれなりに離れている必要があり、飼育水槽の中に板を入れるようなやり方では難しい。
 飼育水槽の中に板を入れるのではなく、水槽の奥に白い板を置くという手もあり、その場合は、白い板と魚とを、別々のライトで白い板の方がより明るくなるように照らせばいい。
 が、一般的には水槽は壁に接するように設置するものなので、水槽から距離を取りつつ白い板を置くことができるスペースはない。
 したがって、ヒレが白に溶け込みがちな魚に関しては、撮影専用水槽に移することが多い。


NikonD7200 AF-S DX Micro NIKKOR 85mm f/3.5G ED VR

 さて、ギンユゴイは、撮影がなかなかやっかいな魚。というのは、二段に分かれている背びれのうち、より頭側のヒレをなかなか広げないのだ。
 飼育水槽の中でさえ、時々しか見せてくれないのだから、撮影用の専用水槽ではほぼ無理だろう。
 そこで、飼育水槽の中に白い板を入れて、いつも通りの気分で泳いでもらい、2段になった背びれを両方見せてくれた瞬間にシャッターを押したが、数時間撮影して、一枚しか撮影できなかった。
 飼育水槽の中で撮影した結果、尻びれがやや背景に溶け込んだ。
 これを完璧に見せようとするならば、殺して標本写真を撮るしかない。
 
 殺してまで写真を撮るなんて、と感じる方もおられるだろうが、魚のヒレの形はその生き物を知る上で非常に大切なものであり、その魚をきちんと紹介したいと思えば思うほど、つまりその魚に愛情を持っている人であればあるほど、ヒレが見えていることは重要。
 ヒレを見せたいと思うのも愛情。
 殺したくないというのも愛情。
 一言で生き物に対する愛情と言ってもいろいろある。



● 2017.9.3〜6 更新のお知らせ

 今月の水辺を更新しました。



● 2017.9.2 生き物が好きにもいろいろある

「研究者は漁師さんのようにたくさん生き物を捕まえることはできないけど、漁師さんは研究者のような論文を書くことができない。生き物に詳しいと言っても、いろいろな詳しいがある。」
 と僕が子供の頃に、父が話してくれたことがあった。
 前後の話の流れは思い出せない。割と唐突な話で、なぜそんな話をするのだろう?と話の中身よりも動機の方が気になった思い出がある。

 生き物が好き、にもいろいろな好きがある。
 かわいがるのも好き。
 殺して調べるのも好き。
 絵に描くのも好き。
 写真に撮るのも好き。
 食べるのも好き。
 社会の中にいろいろな好きが存在することが大切なのであり、どの好きが正しいわけでも誰が偉いわけでもないが、自分の好きしか認めず、それを人に当てはめようとする人は危険な人だ。

 さて、7月末から続いていた植物の撮影のゴールが、ようやく見えてきた。まだ薄暗いうちに家を出て、帰宅後は寝るだけという暮らしから抜け出せそうだ。
 本来の予定では悪くても8月15日までには終わるだろうと思っていたので、予想以上に時間がかかってしまったが、植物撮影の基礎を体に覚えさせるいい機会になったような気がする。
 自分が好きに写真を撮るのと仕事をするのとでは大違いであり、写真の技術の中には、まとまった量の仕事をこなさなければ身につかない部分もある。スポーツの選手が、1シーズンレギュラーとして試合に出続けて、初めて身につけられるものがあるのと同じこと。
 それから、その間ゆっくりインターネットを見る時間はないし、SNSなどもチラッと眺める程度だが、そういう意味でも案外いい機会だったのではないかと思う。



● 2017.9.1 経験、慣れ、見識の部分


EOSM5 EF-M11-22mm F4-5.6 IS STM

 福岡のラーメンといえば豚骨。
 子供の頃から食べ慣れているので、これは美味いとかイマイチとか、豚骨の味についてはそれなりに分かると自負している。
 ところが醤油ラーメンを食べてみると、自分にとって美味いかどうかなら分かっても、それが客観的に美味しいかどうかは僕にはわからない。どこか、入っていけないところがある。
 福岡のラーメン事情をご存じない方もたくさんおられるだろうからちょっと付け加えておこう。
 福岡県内では、ほぼすべてのラーメン屋さんが豚骨。
 味噌に関しては全国チェーンのお店が少しあるので多少馴染みがあるが、醤油を主に食べさせるお店は、これだけ物流が発達して世間が狭くなった現在でもほぼ皆無だ。
 したがって、僕が醤油ラーメンを初めて食べたのは、大人になってからのことだ。

  写真も同じで、撮り慣れない被写体が写った写真に対して、自分の好き嫌いなら語れても、客観的な良し悪しまでは分からないことが多い。
 例えば僕が人物の写真を見ても、ピントとか露出とか構図みたいな簡単なことならわかっても、それがどれくらいスゴイ写真なのかは分からない。
 自然写真の中では、植物の写真に関しては、僕には良く分からない部分がある。
 仕事の現場では、そこまで分かることは求められない場合が大半なので、何か当たり前かさえ理解できればいいのだが、もっと分かれば植物の撮影が面白くなるのは間違いないし、楽しくなるために分かりたいなと思う。
 植物の写真を、少々練習してみようか。

 そうした目的で写真を撮る場合、じっくり構えたらまずダメ。
 構えれば構えるほど分からなくなるし、パッと見て、パッと写真を撮ることが大切。
 じっくり構えることで修正できるのは、露出とかぶれとか構図とかピントみたいな重箱の隅的な細かな部分であり、写真のより本質的であるイメージの部分は、もっと前の段階で、もっと瞬間的にパッと決まっている場合が多い。


   
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