撮影日記 2017年8月分 バックナンバーへ今週のスケジュールへTopPageへ
 
 
・今現在の最新の情報は、トップページに表示されるツイッターをご覧ください。
 


● 2017.8.25〜31 続・花曇り

 花が実になるまでを、連続写真で撮る。
 そうした植物の生態写真を得意にしておられたのが、亡くなられた埴沙萠(はに・しゃぼう)さんだ。
 埴さんと似たタイプの写真を撮るプロのカメラマンは、僕が知る範囲では存在しないし、現に、
「埴さんの後継者が欲しい。」
 という編集者たちの声を、何度も聞いたことがある。
 ある時、ある場所で、その埴さんの後継者の話になったという。
「埴さんが撮っておられたような写真が必要なのですが、後継者がいないので困っているんですよね。仕方がないから、そうした写真が必要になった場合は、何でも撮れる器用なタイプの人にお願いしています。武田さんとか・・・」
 と僕の名前があがったのだと伝え聞きで聞いたことがある。
 へぇ、僕って器用なタイプに分類されるんだ。
 たまに、「水辺の生き物をテーマにしておられるのに、なぜ植物の撮影などを引き受けるのですか?」と聞かれることがあるのだが、人の目に僕が何でも撮れるという風に映るのなら、そう生きてみようかと思ったのは、動機として大きい。
 プロのスポーツなどの世界で、
「おい、お前はピッチャーよりバッターの方が向いているんじゃないか」
 などという人のアドバイスで新しい道が開ける選手がたまにおられるが、そんな話を聞くと、「面白いなぁ」 と感じるのだ。

 植物に限らず、連続写真の難しいところは、1つの被写体を連続して撮ることよりも、撮った写真が連続して見える必要があることだろうと思う。
 写真が連続して見えるためには、写真の調子を揃える、具体的には撮影の際の光の条件を揃える必要があるが、ある花が実になるまで仮に3週間くらいの期間で10回撮影したとすると、それらすべての撮影の気象条件を揃えるのは至難の業だ。
 ではどうするのか?と言えば、一番手堅い曇りの日の光で撮影する。
 曇りなら、一日のいつ撮影しても割と似た写真になるし、仮に晴れの日でも、たまたま雲がお日様を隠しているタイミングで撮影すれば、曇りっぽく写るから。
 ところがこの夏の九州北部はほぼ連日、ほぼ快晴。撮影中の実の前にカメラをセットして、早朝からひたすらにお日様が雲に隠れるのを待っているのに、ついに一度もそんな条件にならなかった日も数日あった。
 なるほど、これは、なかなか大変。
 改めて、埴さんの凄さを思い知る。

 ではどうしたらいいのかな?
 もしも住まいが山里にあり、野外スタジオとも言えるような広い庭やそれに隣接した環境で撮影できればなぁ。
 そんな環境があれば、気象条件が整わない時は、空が見える部屋で原稿を書いたり、画像の整理をしながら待ち、ここぞ!というタイミングで飛び出してきて写真を撮れば、割に合うのではなかろうか?
 埴さんんは、実際にそんな環境で撮影しておられるたようだ。
 キャンピングカーみたいなものがあれば、車の中で仕事をすることもできる。その場合は、細い道でも入っていけるように軽自動車がいいし、軽のキャンピングカーはさほど高価ではないけど、おそらく、燃費が恐ろしく悪いだろう。



● 2017.8.12〜24 花曇り

 植物の撮影は、気象条件がほぼすべてを決めると言っても言い過ぎではない。
 動物なら、被写体が動いたり移動をする結果、向こうから、撮影に適した光線状態になってくれることがあり、たとえ気象条件が適さない日でもたくさん写真を撮るうちにそれなりの写真が撮れたりもするのだが、動かない植物の場合は、ダメな日はダメ。
 何枚撮影しようが同じようにダメな写真を量産するのみで、手も足も出ない。
 その植物の撮影で曇りの日の光が欲しいのだが、福岡県北部は、7月末から8月中旬まで連日ほぼ快晴で、どうにもならない。たまに雨が降ったりするとその前後は曇りになるのだが、そんな時には風が強い。
 仕方がないので先日、飛んでいる野鳥でも写しとめられるような高速シャッターで、風に揺れる植物を無理矢理に撮影してみたのだが、花は風で引きつっており、やはりダメ。
 8月も下旬に入ってようやく午後は雲が出るようになり、現場でじっと待っていると、時々お日様が陰るようになった。
 問題は、その植物が午前中の比較的早い時間にしか、きれいな花を広げないことだ。
 天気は決して僕のせいではないのだけど、それでも写真の世界は結果がすべて。気象条件の難しさを改めて痛感する。

 自分の作品を撮影すればいいのなら、晴れの日には晴れを生かした写真を撮るし、曇りの日には曇りを生かした写真を撮ろうとする。
 だが絵コンテをもらって写真を撮る場合は、絵コンテ通りに撮影する必要があり、それを可能にする天気は非常に重要になる。
 当然、天気予報を見ることは必須だし、ついには習慣になり、その時に必要があろうがなかろうが、天気予報にはつい目が行ってしまう。
 そして、気象条件に苦しめられた経験は僕にとってすでにトラウマレベルであり、天気予報を見ると予報の内容に関係なく気分が沈んでしまうのだから、困る。

 現在進行中の植物撮影とは無関係の、別の出版社の方に、先日植物の撮影に付き合ってもらい、多少手伝ってもらった。
 本来は、涼しい部屋でゆっく話をする予定だったし、無関係の人に手伝ってもらうなんて実に変な話だなと思いつつ、とにかく植物の撮影を何とかしなければと気が気ではない。
 すると、
「武田さんには悪いけど・・・、いやぁ、気楽で楽しいです。」
 と一言。
「自分が担当している仕事だったら、気が気じゃないし、その場合どうするのかを決めなければならないし、辛いんですよね。」
 と。
 そうそう、撮影が辛いのではなくて、責任を負い、決断しなければならないことが辛いのだ。
 責任を負うって、やっぱり大変ですね。


● 2017.8.8〜11 レスキューソフト

 試しにちょっと撮影してみて、これはそんなに難しくなさそうだしすんなり行けるに違いないと楽観していた仕事が、実はその先に小さなノーハウを必要な箇所がいくつか待ち構えていて、案外厄介だと分かった。
 撮影の失敗〜やり直しが何度か続き、これは油断したらやばいぞ!と気合を入れ直してスクランブル体制を取る。
 しかしそのタイミングで台風がやってきて撮影を中断せざるを得ずもどかしいし、季節を逃してはならないと焦りを感じる。
 さらに台風後に気象条件が変わってしまい、天気が非常に読みにくく、楽勝ムードが一転して、下手をしたら負け戦になるぞという悪〜いムードに。
 仕事って、やっぱりつらいな。
 写真撮影にプロもアマもないという意見があるが、これは、その写真撮影の内容次第で、プロもアマもない場合もあれば、プロとアマとが全く別物である場合もある。
 絵コンテを渡されてその通りに撮影するというのは、正直に言えば辛くて、趣味の写真とは全く別物だと感じる。

 そうして焦ると、悪い流れを呼び込んでしまいがちだ。
 昨日、8月上旬に撮影した画像が、ハードディスクにも記録メディア内にもどこにもないことに気付いて、冷や汗が噴き出した。
 なぜだ?
 なぜデータがないんだ?
 一番可能性が高いのは、撮影した画像をハードディスクに移す前に、記録メディアをフォーマットしてしまったケースだろう。
 ということは、レスキューソフトでのデータの復活を試してみようか。
 一縷の望みは、その撮影に関しては、ここのところ良く使用しているニコンのD7200ではなく、滅多に使わないD610で撮影してあったことだ。
 実は、記録メディアは初期化しても撮影したデータが消去されるわけではなく、データが本当に消去されるのは、その上から新たなデータが記録された時なので、初期化をしても、新たに撮影したデータで記録メディアを埋め尽くさない限り、カードの中には古いデータが残っているのだ。
 果たして復旧を試してみたら、探していたデータが出てきた。
 そもそも、8月の上旬に撮影した画像を今まで整理していなかったことに問題があるのだが、撮影がうまくいかないと、そのゆとりがなくなってしまうのだ。
 自然を相手にすることって、難しい。

 焦っていたんだろうな。データの普及に際して、ソフトの設定を間違えてしまい、3度ほど、復旧をやり直す羽目になった。
 そんな時ほど、小憎らしいくらいに冷静な人間になりたいんやけどな。
 因みに、僕が普段心に留めている言葉は、将棋の大山十五世名人の
「助からないと思っても、助かっている。」
 という言葉だ。
 大山名人は、ただ強かっただけではなくて、強い時期が異常なほど長かった。将棋界では40代前半は明らかに落ち目で、50代になってもA級と呼ばれる上位10人の枠をキープできるのは1人くらい(つまり、10年に一人くらいの存在)なのだが、大山名人は69歳でなくなるまでA級の座を守り通した。



● 2017.8.5〜7 更新のお知らせ

7月分の今月の水辺を更新しました。
今回は、定点撮影の話です。



● 2017.7.29〜8.4 風邪

 何で夏に風邪なんかひく人がおるんよ?と思っていた僕が、先日、ひどい風邪にやられてしまった。
 炎天下で撮影の際に、汗で衣服がびしょ濡れになったにも関わらず着替えなかったため、体を冷やしてしまったのが原因だろう。
 その日、濡れた服が冷たかった。
 まさかそれで風邪をひくなど思いもしない僕は、「気化熱ってすごなぁ。汗には確かに体を冷ます効果がある。」などと、呑気に、汗の効果について感心していたのだ。
 体調がおかしくなったのは、その日の夕刻。
 普段体験したことがないような疲れを感じ、夕食も食べずに翌日まで眠り続けた。
 翌日は、喉の痛みと頭痛と鼻水。
 翌々日は、くしゃみ。
 今日はようやく、少し回復傾向。
 次回からは必ず着替えを持っていき、まめに着替えるようにしよう。
 油断大敵ですね。


   
先月の日記へ≫

自然写真家・武田晋一のHP 「水の贈り物」 毎日の撮影を紹介する撮影日記 2017年8月分


このサイトに掲載されている文章・画像の無断転用を禁じます
Copyright Shinichi Takeda All rights reserved.
- since 2001/5/26 -

TopPageへ