撮影日記 2016年10月分 バックナンバーへ今週のスケジュールへTopPageへ
 
 
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● 2016.10.18〜27 天トレ



 カニは、種類によって甲羅に照明器具の形が写り込みやすく、それを回避しようとすれば大がかりになるから、案外撮影がめんどくさい。
 そんな場合は、対処方法がいくつかある。
 まず真っ先に考えるのが、カメラから見た時に映らないような位置にライトを置くことだが、この方法は真平なものには通用しても、カニの甲羅のような複雑な起伏があるものには通用しにくい。
 ライトを小さくすれば映り込みも小さくなるから、小さくしておいて、画像処理で消してしまう手もある。だが、一般にライトが小さくなれば、被写体自体の描写は悪くなる。
 そこで、ライトを小さくするのとは逆に、大きくしてしまう手がある。カニをライトで覆い、カニの背中全体にライトが映っているような状況を作れば、もはやどこがライトかが分からなくなる。
 ただカニの場合、背中側から撮影する際にハサミがなかなかきれいに見えず、それが見えるポーズを偶然取ってくれるまである程度動いてもらわなければならず、その過程でたまには頭をチョンと突っついてみたりもするので、ライトの映り込み防止のためにガチガチに物を置くのではなく、サッと手を入れられるようなシンプルなやり方で撮影したい。
 僕は、俗に「天トレ」と呼ばれるやり方が好きだ。
 カニのすぐ真上に、乳白色で半透明の大きな板やトレーシングペーパーなどを張り、それ越しに光を当てることで、カニからみて天井全体を光っているような状態を作る。
 それでも照明器具の反射が気になる場合は、天トレの上に小さな黒い紙などを置くといい。
 その黒い紙を動かしてみて、カニに写り込んでいるライトを影にするような位置に置けば、つまり、ライトの中のカニに映っている問題の部分だけを黒い紙でなくしてしまえば、映り込みが回避される。
 厳密に言うと、本格的な天トレはそれぞれの物を保持し固定するのが大掛かりになるので、僕のやり方はその簡易版なのだけど。
 もっと完璧にすることもできるし限られたものしか撮影しない人ならそれを目指した方が楽しいだろうと思うが、僕の場合は、いろいろな被写体を撮影するので、汎用性の高さを重視している。



 さて、鹿児島県でサワガニを採集する際に、ちょっと違うカニを見つけた。
 多分、ミカゲサワガニだと思う。
 現場では、目の黒目の部分が小さいなとだけ思ったのだが、スタジオで撮影してみると、質感も微妙に異なる。
 色も、サワガニには赤〜茶〜青まで変異がありその中の茶色に近いけど、サワガニの茶色とは雰囲気が異なる。
 それらをキチンと表したいが故の、撮影技術だと言える。



● 2016.10.14〜17 ちょっとしたお話し

 3種類の撮影が重なってしまった。
 魚の産卵、亀の孵化、クラゲの変態。
 いずれも、しっかり予定をして準備をしてきたものばかりだが、どんなに準備をしても、こんなことが起きる。

 判断が難しいのは亀だ。
 卵に小さな穴があき、そろそろ出てくるというのは分かるが、そこから案外時間がかかる場合もあれば、一気に出てくる場合もある。
 だから100%亀待ちでのぞむと、孵化を終えるまでに時間がかかった場合に、他の生き物の撮影ができなくなる。
 そんな時にう〜んと考え込むと、判断を間違えることが多い。
 だから、まずはカメを待ちつつ、その片手間にでもできる撮影を片づけながら様子見をする。
 今日は、カニの撮影をしておこうか。
 今回撮影したいカニの写真は何か特殊な生態ではなく単なる姿なので、天候さえ整えば、この日でなければならないというような条件はないし、空き時間でできる。

 カニの撮影に先立って、先日、カニの達人の指導を受けた。
 まず面白れぇなぁと思ったのが、カニのすみ分けだった。
 河口の一番低いぬかるんだ場所にはヤマトオサガニ。
 そこからほんの数センチ高い場所にチゴガニ。
 さらにほんのわずかに高い場所にハクセンシオマネキやコメツブガニ。
 距離にして1メートル違うと、住んでいるカニの種類が違う。
 なるほどなぁ。こうした場所に迂闊に人が手を入れてしまうと、どれかの種類が見られなくなる可能性は大いにあるよなぁ。
 そこから少しより河口側に下ると、達人が泥の中にスコップを突き刺して一匹のカニを掘り出した。
「オサガニはこれといった特徴がないです。大抵泥の中に潜っていて、たまに水たまりにいることがありますが、目だけを出しているので普通に写真を撮ってもオサガニだと分からないし・・・」
 ということは、撮影は白バックが重要になるよな。


 白バックで撮影してみると、すっとぼけたかのように見える顔が魅力的。
 この顔は忘れられない。



 画像を整理しようと思ったら、名前が分からないカニが。
 これ何だっけ?ああ、そうそう。ヒメアシハラガニ。
「このヒメアシハラガニは、他のカニを襲って食べるんですよ。そう思ってみると、ちょっと悪いやつの顔をしているような気がするんですよね。」
 という達人の言葉が思い出された。
 そうしたお話がとても大切で、そのちょっとしたお話しが、人をより深いところまで導くことがある。



● 2016.10.11〜13 編集者が著者になる

 以前、マネーの虎に「虎」として出演しておられた南原竜樹さんを、先日テレビの番組で見かけ、興味深く見入ってしまった。
 マネーの虎は、虎と呼ばれる経営の達人に、これから何かを始めたい人が「金を出してくれ」と求めるテレビ番組だった(ユーチュブに動画あり)。
 自分が技術を持って何かを作るのではなく、それができる人を使って経営をする「経営者」という職業が大変に興味深かった。
 僕は、その経営者タイプの人よりも、技術屋さんが好きだ。
 お店に行くにしても、経営者が得意な人が運営している店よりも、技術屋さんが経営をしている店を選ぶ。
 料理を食べるのなら、料理の道を究めたいと思っている人のお店に行きたいし、車を整備するのだって、社長自らが車が好きで好きでたまらない整備士で、作業着を着て、指先を真っ黒にして整備をしている自動車屋さんで整備する。
 経営者という仕事を否定したいのではないし、それどころか、経営の重要性は、日々ひしひしと思い知る。
 あくまでも、僕の好みの話に過ぎない。


飯田猛さんの 森のたからもの探検帳

 さて、「森のたからもの探検帳」の著者である飯田猛さんは、某社の編集者でもある。
 なぜか時々話を聞きたくなるから、僕は毎年一度、飯田さんに会いに行く。
 何で会いたくなるのかな?と考えてみると、編集者として他人の作品をまとめ世に出すだけじゃなく、自らが著者となり、本を作ってしまうような一面を持っておられるからかな。
 作り手の気持ちをよくわかってくれる。
 これは、僕が経営者自らが料理を作ることに執念を燃やしているような料理店に行きたい、という感覚に通じるものがある。

「会社では、全部自分たちの言い分が通るわけではないけど、一つ言えるのは、仮に言い分が最終的に通らなかったとしても、俺は戦うことだけはするよ。」
 と飯田さんが以前話してくださったことが、時々思い出される。



 普段、僕が一番がっかりくるのは、
「このページの内容は会議で決まったものなので、あなたがどう感じようと、仮に間違えがあろうとも、この絵の通りの撮ってくれればそれでいいんです。」
 と言った仕事。
 そこには、こっちはギャラを払っているのだから、という思いが心のどこかにあるのだろう。
 口を出すな。君はただ言われた通りに写真を撮ればいい、という仕事だってあり得ると思う。その場合は、絵コンテを描く人が、これから撮影しようとするシーンについて見て、知り尽くそうとする努力が必要ではないかと考える。
 それが、仕事ではないのかなと思う。
 ともあれ、全部自分の言い分が通るわけではないけど、お互いに意見を言って真剣に考えて納得し合うことを、僕は重視する。



● 2016.10.9〜10.10 辛い瞬間

 生き物も自然写真も大好きだけど、仕事となると辛いこともある。
 今晩から数日間は、車内泊での取材を予定しているのだが、気になるのは今撮影用にキープしてあるイシガメの卵だ。
 卵は1つしかない。そして時期から判断すると、間違いなく今シーズン最後の卵。
 なので、出かけている間にそれが孵化をしてしまえば、おしまいになる。
 そんな懸念を抱えた状態で、他の撮影に臨むのは少々辛い。
 当初の予定では、どんなに遅くても、今回の取材までには孵化を終えているはずだった。がしかし、僕の見立てがあてにならないのはいつものこと。
 万が一にも取材までに孵化が始まらない場合は、車に積んで持っていこうと思っていたのだが、ここ数日急激に朝は冷え込んでおり、日中との温度差が悪影響を与える可能性もある。

 なかなか孵化をしないので、最初は、卵は死んでしまったかな?と思った。
 これは、取材に出かけている間に孵化を終えてしまうよりもさらに悪いケースだが、生き物には付き物のアクシデントであり、ある部分諦めもつく。
 ところが今日ライトで殻を透かして見たら、動きがあった。
 さて、どうしたものか?
 取材の方は取材の方で、シーズンがあり、今の時期を外したくない。
 随分前にフィルムカメラで撮影した時の経験から言うと、亀の場合、孵化が始まってから子供が出てくるまでには結構な時間がかかるので、家族に朝と夜の一日2度、卵の画像を送ってもらい、いよいよ孵化となれば、いったん帰宅をするしかないのかな。
 その場合、どうしても急いてしまうので車の事故などが怖いが、分かっていてもなかなか自分をコントロールできないものだから、家族が自宅にいる時間帯なら撮影しておいてもらうという手もある。撮影しておいてもらいその報告を受けながら落ち着いた心で帰宅をして、一番重要な部分は自分で撮影し、また取材先にとんぼ返りかなぁ。
 その場合、相当な強行軍になる。
 カメラの孵化が撮影できようができまいが、他人からすれば、きわめて他愛ないこと。でも、当人にしてみれば重大なことであり、僕の場合、この手の撮影は大学受験くらいの重みかなぁ。
 他人からしてみれば他愛ないという事実は、とても大切なことだと思う。
 そして、自分にとっては重大なことという側面も、とても大切なこと。
 たかが写真、されど写真。
 ともあれ、何の懸念もなく1つのことに集中したい!



● 2016.9.30〜10.8 一悶着、二悶着、三悶着



 9月の日記で見せた飼育室兼撮影スタジオの画像を、再び載せてみる。
 画面左手の手前は、俗に90センチ水槽と呼ばれるもので、この水槽に関してはクーラーを使用して2ヶ月くらい早めに冬の条件を与え、季節を2ヶ月くらい先行させた上で、来年、本来よりも早めに魚に産卵をしてもらう予定だ。
 そんなことを試みる理由は、締め切りが存在するから。
 そして締め切りに応えるために、本来なら今年の初夏から夏の、その魚の産卵の時期の間に撮影しておきたかったシーンだが、他の幾つかの撮影が長引き、その結果、設備が不足をして手が付けられなかったのだ。

 さて、この水槽にクーラーを取り付けて、動かしてみた。
 あとは、果報は寝て待てと待つのみ・・・?
 いやいや、世の中そんなに甘くはない。
 まずはクーラーの熱で室温が上昇し、他の水槽の水温が上下して、それらの水槽の魚に病気が発生してしまった。
 クーラーを使用すれば、その水槽の水温は下がるが、排気で室温は上がる。涼しくなってくる時期なので大丈夫だろうと判断したのだけど、甘かった。
 そこでクーラーの熱を排気する排気ダクトを作ることを検討したのだが、ファンなどを買わなければならずお金がかかるし、プレハブとは言え、壁に穴を開ける工作も必要。
 一番いいのは、クーラーを外に出すことだよなぁ。
 幸い、プレハブには窓があり、窓の外には屋根があって雨に降られることはない。
 ただし、窓があるのは画面右手なので、水槽の置き場を変更する必要があり、90センチ水槽にもなるとそれなりの重量なので動かすのは大変だし、90センチ水槽にギリギリ隣接してあと1つの水槽もあるので、まずそれを移動させて・・・と考えると、あまり気が乗らない。
 無理をして動かし、水漏れ・・・などというパターンは、目も当てられない。
 さらにこのプレハブは床が劣化しており、今水槽を置いてある位置が一番丈夫なのだが・・・
 排気ダクトと散々迷った挙句、クーラーを屋外に出すのが理想である、という点にこだわり、人に手伝ってもらって水槽を引っ越した。
 無事窓側に移動させた水槽の水はホースで屋外に排出され、屋外に置いてあるろ過装置を通り、さらにクーラーの中を通って冷やされたうえで、また水槽に戻る。


窓際に90センチ水槽を移動させる

屋外の様子。クーラーは黒っぽい箱のような物体

 これでおしまい思ったら、甘かった。
 購入したクーラーのパワーが不足をして、理想の水温まで下がらない。
 そこで、大容量のものを1つ追加で購入すると、余裕で水温が下がる。
 スゲーなぁ。やっぱり、カタログデータよりも、1サイズか2サイズ大きいものが欲しいね。ヨッシャー、これで完璧。あとは、数日に一度ずつくらい、水温を下げていこうか。

 しかし、またも問題が発生した。
 水温を20度、19度、18度と下げて、17度に設定しようとして初めて気づいたのだが、新たに購入した大容量のクーラーにはリミッターが設定されており、低温側は18度までしか下がらなかったのだ。
 ハ〜。腹立たしいねぇ・・・
 調べてみると、ゼンスイというメーカーの製品なら、一桁台まで水温を下げられる。
 ゼンスイの評価が高いのはよく知っていたのだが、なるほどねぇ。
 そこで、ゼンスイのクーラーをさらに購入。
 何をやってるんだろうねぇ。最初から一発でビシッとやれれば、大した手間じゃないのに・・・・頼むから、これで終わってくれよ〜。

 それにしても、クーラーの購入は、中古のものにしておいて良かった。
 今回購入した3つ合わせても、新品1つの値段の半額くらい。
 その3つのクーラーは、偶然にも、何か事情があったのか、同じ人が放出したものだった。


   
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