撮影日記 2016年8月分 バックナンバーへ今週のスケジュールへTopPageへ
 
 
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● 2016.8.20〜30 水生昆虫の世界







 北九州市山田緑地で開催中の水生昆虫の展示を見て、簑島先生のガムシの話を聞いて帰った。
 いずれも、北九州魚部が企画したイベント。
 魚部のメンバーは、一流の研究者から、大人になって生き物に興味を持った人から少年少女までさまざまだが、みんなとにかく面白い。
 何でこんな面白い人ばかり、集まるんやろう? 
 魚部はいつも、健気なくらいに一生懸命だからかな?力をセーブするなどという発想は、最初から備わってない。

 僕は、そうした環境に身を置くことを、とにかく非常に重視している。
 自分をセーブする悪癖がつくことが何よりも怖いし、そうならないように日頃から心掛ける。
 それがすべての職種に当てはまるとは毛頭思ってないし、セーブが必要な仕事だってあると思う。
 だが写真をはじめとして人の心を動かそうとする活動の場合、セーブをしたらその時点でおしまい。
 人の心を打つためには、その前にまず自分で自分を驚かせることが必要。そして自分が普通に考えてできそうなことをしても、自分を驚かせることはできない。
 自分が驚かないような写真を見て、目が肥えた人が驚くだろうか?
 セーブをするのと、楽に構えるのはまた別のことで、楽に構えるのは有りだと思う。いやいや、楽に構えれたらなぁと思う。
 だが楽に構えるのは、健気なくらいに一生懸命取り組むことよりもさらに難しいし、それは多分、健気なくらいに一生懸命にやったその先にしかないような気がする。



● 2016.8.13〜19 魚部仲間



 投網の投げ方を指導しているのは、水環境館の川原二郎さん。教わっている少年は、通称ゲンモ君。
 ゲンモ君はまだ中学を卒業して間もない年だけど、ちゃんと自分の意見を持った、なかなか大したやつ。
 意見を持っている分、恐らく誰にでも従うわけではないであろうその彼が、ある種の憧れの表情で実に神妙に話を聞いていたことから、師匠の川原さんが大した人であることも伝わってくる。
 川原さんは、教えるのが上手い。
 口が達者というのではなくて、必要最低限のことだけ、まっすぐに教えてくれる。
 生き物を採集する際の道具も、スタイルも、必要最低限のものだけでゴチャゴチャしてない。生き物を採集する際の技術は技術で面白いと思うけど、僕は、そういうところに滲み出る、その人の人間性が面白いと感じる。
 先日、ある方に、蝶の採集に同行してもらった。
 少々季節が悪かったものの1匹確保できていたし、自力で解決可能だったのだけど、その方が撮影する虫たちの動画に僕は実にひかれるものがあり、どうしたら、あんな楽しい動画が撮影できるのかの秘密に迫りたい下心もあり、お願いした部分もあった。
 すると、とにかく明るくて優しく前向きで、物事を不要に難しく考えないし、変に構えない。
 なるほどなぁ。ああいう動画は、前向きな人が前向きな気持ちでパッと楽しくカメラを向けなければ、テクニックだけでは撮れんよなぁ。
 
 さて、今年は何だか分からないのだが、追い詰められた感じがする。1人になりたいな、と思う。
 そんな時って、どうしたらいいのかな?
 逆説的だけど、僕の場合、撮影や採集に人に同行してもらうのは、なかなか有効。
 人は、1人で過ごせば1人になれるわけではないし、逆に誰かと一緒にいることによって1人になれる場合もある。
 矛盾するようだけど決して矛盾しているわけではなくて、その場合の1人になりたいとは物理的に一人になることではなく、客観的でありたいということであり、冷静になりたいということ。
 一人になって身の回りのさまざまな雑音から自分を隔離すれば、その分客観的になれるが、それだけでは足りない場合もあって、より自分を客観的に見るために、時に自分と比較ができる人が必要。
 したがって、誰とでもいっしょにいればいい訳ではないし、さらに言えば、そうした存在になり得る人はなかなか得難い。



● 2016.8.11〜12 更新のお知らせ

今月の水辺を更新しました。



● 2016.8.3〜8.10 アカテガニ

 海があって、すぐ近くまで山が迫っているような場所なら、7〜8月の大潮で満潮の夜、アカテガニが子供を放つ様子を観察できる可能性が高い。
 昼間に行ってもダメ。波打ち際には見事なくらいにアカテガニの影も形もない。だが日が暮れると、森や草むらの中から続々と水辺にやってきて次々と幼生を放つ。



 夜に幼生を放つ様子を撮影したついでに、そうした写真が今すぐに必要というわけではなかったのだけど、卵を持ったメスを2匹持ち帰り、帰宅後すぐにスタジオで白バック写真を撮った。
 写真を撮り終えた後の卵を抱えたメスは、恐らく容器に陸地と水場とを作っておけば、その晩のうちに幼生を放つんじゃないかな?
 僕にとって大切なのは、実はそこ。
 それを確認するために一匹のメスを水を張ったバケツの中に入れておいたら、翌朝大量の幼生が泳いでいた。
 ということは、アカテガニが幼生を放つ様子はスタジオでも撮影ができる。
 スタジオで撮影することのメリットは、波や風の影響を受けないのと完璧なライティングができるのとで現象を極めて鮮明に写すことができること。
 一方で野外で写真を撮ることの良さは、波や風の影響が、写真にムードと臨場感を生み出すこと。逆に言うと、野外で撮影する場合は、波や風が生み出すムードをいかに生かすかが命であり、ただ鮮明に写そうとしても、それではスタジオで撮影した写真に負けてしまう。
 天才肌の人なら、そんなことを気にするのではなく自分の感性に任せて写真を撮るべきだろうと思う。だが僕のような凡才肌の人間は、ある程度論理的に狙いを絞っておいた方がいい。
 一方で卵を抱えたメスは、水を入れずにおいたら多分幼生を放つことはないだろう。ということで、持ち帰ったメスのうちの残りの一匹は水なしのタッパーの中に入れておいたら、そちらは卵を抱えたままだった。
 では、そのまま何日くらい卵って耐えられるのかな。
 いろいろな生き物を扱った経験から言うと、多分2〜3日なら大丈夫。
 そうしたことが分かっていれば、幾つもの仕事が重なるこの時期、何を先に撮影しなければならないかなどの判断ができる。



 バケツの中に放たれた幼生も、ついでに撮影しておくことにした。
 このサイズの生き物は、スライドガラスの上の少量の水の中で広範囲を動き回れないようにして顕微鏡的なやり方で撮影するのが一般的なのだろうが、僕が撮りたいのはそうした像ではなくて、広い水の中を自由にピョンピョン泳ぎ回っている姿。
 ただし、幼生は小さいし動きも早いので、そうしたやり方での撮影は非常に難しい。
 まずカメラのファインダーの中に幼生の姿を入れることが難しい。
 それから、ピントがなかなか合わない。
 写真を撮る、というよりは、延々と幼生たちをレンズで追いかけ続けているうちに、たまたま写真が撮れる感じや、写るまで撮り続けるに近い。
 撮影終了後は、幼生を飼育してみることにした。

 最近しみじみ思うのは、心の底から「面白れぇ〜」と思ってやったことしか、結局、後には残らないということ。
 そして心の底から面白いと感じるには、ある程度掘り下げる必要がある。
 写真を撮って当面のギャラをもらうくらい程度の話なら、そこまで入れ込まなくてもそれなりの技術力があればできる。だがその仕事が、例えば10年後なら10年後にまだ生きていて、そこから次の新しい局面が開けてくるか?と言えば、NO.
 もちろん、目先のお金をもらう必要がある場合もあり、それだって大切なことではあるしそれを馬鹿にするのは嫌いだけど。



● 2016.8.1〜8.2 年を取ること

 今でも割と鮮明な記憶がある。直方第三中学校の下駄箱のところで、
「相撲なんて、おもしろいん?」
 とつぶやいたら、同級生の安達くんが、
「面白いよ。」
 と答え、見どころを教えてくれた。
 もう少ししたらスゴイのが出てくる。これはムチャクチャに強いと名前が上がったのは小錦。それから才能が抜群と教わったのは当時まだ関脇だった北天佑。
 安達くんの予言通り間もなく番付上位に上がってきた小錦関は、四股名から僕が受けた小さくて雅な印象とはあまりにかけ離れていて、全然「小」じゃねぇやん。それに外人やんとガッカリだった。
 ともあれ、その日をきっかけに大相撲の中継をテレビで見て、場所中には新聞で取り組み表を見るのが楽しみになった。
 僕が好きだったのは大関・若嶋津。
 体が小さくていつ大関の座からいつ転がり落ちるのかとハラハラし、逆に応援したくなった。同じ小兵の千代の富士には全く歯が立たなかったのと、横綱大関以外の力士では出羽の花を苦手とし、ここぞというところで負けてしまうことには諦めに近いものを感じた。
 大関朝潮、琴風、のちに横綱になった隆の里とタレント満載で、群雄割拠という感じが、僕としてはのちの若貴ブームの時よりも面白かった。
 千代の富士は、なかでも圧倒的な存在感だった。
 ただ強いのではなくて、相撲が面白かったし、発言やその際の表情にも心に残るものが多くて、亡くなられて当時の映像が流れる際に、「あ、このシーン見た。」と今でも記憶にあるものが多い。
 年を取るって時に凄く寂しいことなんやなぁ、と最近感じるようになった。


   
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自然写真家・武田晋一のHP 「水の贈り物」 毎日の撮影を紹介する撮影日記 2016年8月分


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