撮影日記 2016年3月分 バックナンバーへ今週のスケジュールへTopPageへ
 
 
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● 2016.3.25〜30 シマアメンボ


NikonD7100 AF-S VR Micro-Nikkor ED 105mm F2.8G(IF) ストロボ

 目的のものを見つけ出すことができず、そのまま引き上げるのは面白くないので、何か被写体はないかと見渡して、シマアメンボを撮影しておくことにした。
 シマアメンボは以前フィルムで撮影したことがあるが、今となってはさすがにそれをスキャンして使う気にはなれない。
 デジタルでも多少撮影したことがあるが、写真はあまり良くなかった。というのは、水面をよく動く生き物だし、小さい上に多少流れがある場所に生息するアメンボなのでなかなかピントが合わず、時間をかければいずれ撮影できる生き物ではあるものの、根負けしてしまったのだった。
 水流が弱い場所で撮影すれば多少簡単になるが、流れがあって川底がきれいな場所で撮影した方が気持ちのいい写真が撮れる。
 今回は、本来撮影したかったものを見つけられず時間がたっぷりあるので、とにかく写るまで撮り続けたのだが、例えるなら、退屈な時には、普段なら読みたくないような本でも妙に面白いのに近い感覚だ。
 そういう意味では、外れの日には外れの日なりの楽しみがある。


NikonD7100 AF-S VR Micro-Nikkor ED 105mm F2.8G(IF) ストロボ

 ついでに一匹持ってかえってスタジオで写真を撮り、翌日、また本命探しで川に行く時に元の場所へと放す。



● 2016.3.23〜24 感覚の話

 プロのカメラマンを目指して修行中だった頃のことを書こうとしたら、当時のことが芋づる式に次々と思い出されて、原稿は結局、最初に書こうと思っていたものとは全く違うものになった。
 当時僕は、写真の「感覚」の部分に苦しんでいた。
 写真には、そこに何が写っているかといった理屈や知識や情報の部分と、パッと見た時に、人がその写真からどんな印象を受けるのかの感覚の部分とがあり、自然科学出身の僕にとっては、感覚の部分は非常に難しくやっかいだった。
 ある時、ある方が僕の水鳥の写真を見て、主役である鳥のことには何も触れずに、
「水のきらめきが感じられない。」
 と指摘をしてくださったのは、ああ、そんな風に考えたらいいのか!と大変に教えられたし、感覚ということを理解しようとする際に非常に大きなヒントになった。
 教えてくださった方は、当時高校生。
 虫やさまざまな文化に対して興味を持っておられたが、写真には特別な興味はなく、写真に興味がない人だからこその、非常に素直で率直な指摘だったと思う。
 何かに興味を持つというのは諸刃の剣であり、科学に興味を持つと、そんな見方しかできなくなりがちだし、写真に興味を持つと、構図がとか、露出がとか、ピントがとか、シャッターチャンスがとか、そうした見方しかできなくなりがち。だけど写真は、説明するための写真は別にして、人に見てもらい喜んでもらいたいと思うのなら、パッと見た時に、ワクワクするとか、明るい印象を受けるとか、楽しい気持ちになれるといった理屈を超えた何かが何よりも大切。

【 恒例の4人展のお知らせです 】
会場    北九州市小倉北区 山田緑地公園
開催期間 3月10日(木)〜30日(水)
開園時間 9:00〜17:00
休園日  毎週火曜日
入場料  無料 ただし駐車料300円(普通車)
出品    武田晋一(水辺の生き物)
       西本晋也(トンボ)
       大田利教(天体)
       野村芳宏(野鳥)
展示点数 34点



● 2016.3.21〜22 うまれたよ!ヤドカリ



 カタツムリは、今では仕事というよりは、趣味になった感がある。僕が、「撮れ」と求められて、仕事としてのストレスをあまり感じないですむ数少ない生き物だ。
 けれども、元々好きだったわけではなく、きっかけは、撮影の依頼だった。
 カタツムリは身近でありながら写真を撮る人が少なく、僕に撮影の依頼が回ってきた。
 最初は、依頼された分だけ撮影しようと思った。
 ところがカタツムリを勉強して写真を撮るうちに、カタツムリが進化の研究の材料として非常に面白いことが分かり、生き物好きとして好きになったのだった。

 そして、カタツムリの撮影と言えば武田。ならば、殻を背負った生き物の撮影は武田にやらせよう、と声がかかったのが、近々発売される『うまれたよ!ヤドカリ』だ。



 実は、海の生き物にまともにカメラを向けるのは初めてだったのだから、カタツムリから始まった何とも不思議な縁。
 ヤドカリの撮影を進めるうちに、当然、ヤドカリが背負っている貝に関してしても、
「これ何貝かな?」
 などと興味が湧いてきた。
 すると先日、海の貝を研究しておられる方から磯の貝の採集を依頼され、指定通りにやってみたら、磯の貝にグッと親しみが湧いてきて、磯の生き物が面白くなってきた。

 そう言えば昔、初めて昆虫写真家の海野先生に会いに行った時に、
「プロになるのであれば、好きではないものも撮らなければならないし、その覚悟はできてますか?」
 と聞かれたことがあった。
 これは、好きではないものを我慢して撮るという意味ではないので、注意しなければならない。
 今はまだ好きではないものに何らかの興味を見出して、まるですでに好きなものを撮るかのように夢中になって撮れるかということであり、僕はそれが仕事であり、仕事の面白さではないかと考える。
 海野先生が問うたのは、それを理解しているか?ということだったのだと思う。



● 2016.3.20 アリをのぞき込む男。

 もう数年前の話。
 某所でアリの写真を撮っていたら、話しかけられた。
 アリの写真を撮るなどというのは見るからに不思議な行為であり、話しかけられること自体は珍しくないのだが、その時は雰囲気が違った。
「何やってるの?」
 というよりは、僕を見る目が好意的であり、まるで同業者か同類の人間を見るかのようで、あそこまで好意的に誰かに見てもらったのは過去にもその後もなかったと思う。
 それから数年が経過して、次第に、あんなに僕らの振る舞いを好意的に見れもらえるはずはない。あれは僕の気のせいか、空想か妄想だったのではないか?と自分の記憶が疑わしく感じられるようになった。
 とにかく、はっきりしない記憶として、心の中にそっとしまっておくことにした。

 ところが、なんと!
 先日、あの時のその人が、
「あの時話しかけたのは私です」
 、と名乗り出てくださった。
 場所は、山口県の豊田ホタルの里ミュージアム。湿地帯の貴公子・中島淳さんの講演会の会場だった。
 ああ、空想じゃなかった〜。
 下関の水族館のスタッフの方だった。なるほどねぇ。



● 2016.3.15〜19 道具・物の話



 20年くらい前に読んだ写真雑誌か何かに、誰だったか忘れてしまったのだが、道具は現場で3回欲しいと感じたら初めて購入を検討すると書いておられたのを、最近ちょくちょく思い出すようになった。前後の流れから、簡単には物を買わないという話だった。
 僕は、元々高コストな体質で、一回でも欲しいと思ったら、買ってしまうところがあった。ある場所に行ってたった一冊の本を作るためだけに、そこへ行くための自動車を買ったりもした。
 だが近年は、物が増えすぎて管理ができなくなってきて、なるべく物を持ちたくないと望むようになった。そういう意味で、道具の購入を検討する際には、それが当面の目的以外にも複数の用途に使えるかどうかを重視するようになった。

 

 水中撮影用のストロボ、イノンのD-2000は、水中以外に、スタジオで撮影する際にも大変重宝している。
 このストロボは撮影者がカメラのシャッターを押した瞬間にピカッと一瞬光るだけでなく、LEDライトを内蔵していて、事前に被写体にどんな風に光が当たるのかを予測することができる。
 そうしたLEDライトの問題点は、被写体にストロボとLEDライトの性質の異なる2種類の光が当たってしまうことで、一番困る例は、夜間の撮影などでLEDライトが生き物を脅さないように赤のフィルターをライトにかぶせた場合に、その赤の光が写り込んでしまうこと。あるいは赤のフィルターを使わなくても、通常のLEDの明かりが混じることで、ちょっと質が違う光が混じっているなと違和感を感じることがある。
 だがD-2000は、ストロボが光る直前にLEDライトを自動的に消灯してくれるので実にありがたい。
 D-2000のLEDライトは、特に、スヌートと呼ばれる光を細くするアクセサリーを組み合わせる場合に威力を発揮する。
 スヌートを使用すると光が細くなる分、どこが照らされるかがデリケートになり、ピカッと一瞬光ストロボではそのわずかな角度の違いを微調整をするのには時間がかかる。その点、LEDライトが内蔵されていると、ああ、だいたいこの辺りにライトが当たるんだなとストロボを光らせる前に、結果を目視できる。
 スタジオでは、このスヌートの光が欲しくなることがちょくちょくあって、本来は水中用のD-2000が活躍してくれる。



 こちらはイノンのスヌートを、自作のアクセサリーを介してニコンの接写用のストロボSB-R200にも取り付けたもの。SB-R200は、小型のストロボであるにも関わらずLEDライトを内蔵しており、スヌートとの組み合わせには相性がいい。
 スヌートはスヌートで、いろいろと流用する。



● 2016.3.14 続・サイエンス

 生物学の学生時代、研究室に所属して一番最初にやらされたことは金属加工だった。長さ2センチ程度の細い真鍮の棒の両端から2種類の太さの穴を開けた。
 作ったものは、蚊の日周活動を自動的に記録する記録装置の中のパーツとして組み込まれた。それからガラス加工やアクリル加工や木工もやらされた。
 当時僕は、自分は生き物を扱いたいのであり、そんなことがしたいんじゃない、と正直不満に思った。
 だが今になってみると、大変に尊い教育だったと思う。
 自分はこれが好きとか嫌いとか、得意とか苦手と口にした時点で、その人に出せる結果の上限が見えてしまう。
 特に自然写真みたいに他人を喜ばせてなんぼの活動に限って言うと、今の自分がパッと考えてできそうなことをしても、それはそこらに無数に転がっているものと大差はなく、なかなか深いところで人の心を動かすことは難しい。
 人の想像や常識を超えたこと、今の自分にできないことをするからこそ、誰かの心を打てるという面が多分にある。
 闇雲に苦手なことに取り組む必要はないけど、1つの作品を完成させる上でそうした方がいいに決まっていることを、苦手だからとパスするならば、その時点である意味おしまい。
 同じテーマで、それを避けずに取り組んだ人にはかなわない。
 人を喜ばせることは、しばしば痩せ我慢だと思う。
 
 そういう意味で、自然科学の研究は徹底した合理主義であり、自分がそれを得意かどうかや好きかどうかよりも、調べたいことを調べるために何が必要かという観点から逆算して物を見る。
 自然科学に進学すると、それを当たり前に実践している研究者たちが目の前にいて、毎日その姿を目にすることで、自分もそうすることが次第に当たり前になっていく。
 あるいはそこまでいかなくても、見本としてイメージすることができる。
 もちろん、人は万能ではないのでどんなことでも習得できるわけではなく、時に外注する必要もあるけど。



● 2016.3.13 CRI95+

 写真専用のストロボと呼ばれるピカッと光る照明器具は、発色がいいという特徴があるが、一瞬しか光らないので、被写体に対してどんな風にライトが当たるのかを確認できず、ライトの位置を決めるのが難しい。
 特に、ほんのわずかなライトの位置の違いで、結果が大きく違る場合には、ストロボは難しい。
 その点、懐中電灯のように光り続ける定常光と呼ばれる照明なら、ライトの当たり方を自分の目で確認しながら、ベストな位置を探ることができる。
 定常光の中でも、LEDライトは扱いやすい。
 まずは、明るさに対して電池の消耗が少ないので、長時間使用できる。それから、熱を持たない。
 ただし、LEDには演色性が悪く発色が悪いという問題があった。
 LEDで豊かな色が出るのは、ごくごく一部の製品だけで、しかも目玉が飛び出るくらいに高価だった。
 ところが、発色がいいLEDライトが、ここのところ、びっくりするような低価格で発売されるようになった。
 本当やろうか?記載された仕様はでたらめやなかろうか・・・
 高価な時代に欲しくて欲しくてたまらないのに、買えなかった者としては、にわかに信じることはできにくい。
 そこで、1つだけ買って確認してみることにした。
 購入したのは↓



 仕様を見ると、色の豊かさを表すCRIが95+とほぼ完ぺき。
 果たして、これまで使用していたものと比較テストをすると、テストしたすべてのケースで、今回購入したものがいい結果を出した。
 実はライトの比較テストはなかなか難しい。
 演色性以前に、ライトの色味自体が異なるので比べにくいのだ。
 最初のテストでは、今回購入したものの方がいいと思えた。
 ただし、ちょっとした具合でそう見えただけである可能性も否定できず、2つ目のテスト、3つ目のテストと回を重ねたが、すべてのテストで同じ結論が出た。 
 具体的には、赤や黄色が暗く沈まず明るく感じられて抜けがいい。
 光量も十分あるし、色温度も変えられるし、単三電池でもソニー製のバッテリーでも動くし、確かにイイ。
 あとは、故障の有無のみが関心事。
 


 あと1つ買おうと思ったら、値段が上がっていたのでガッカリした。
 僕が購入した時は5000円だったが、今は6990円。なんじゃそりゃあ〜。

 これは全くの想像だが、僕が買ったものは、在庫品を売りつくすために安売りしていたもの。
 買った時には、在庫が残り3となっていた。
 その後、在庫の3つを売りつくし、新しいロットの製品が入ってきたんじゃないかなぁ。今は、ただの在庫ありになっている。



● 2016.3.11〜12 サイエンス

 過去に何度か、
「生き物のカメラマンに興味があるのだけど、その前に進学をして生物学を勉強した方がいいのか?」
 と聞かれたことがあるが、人によって違うとしか答えようがない。
 世界的な自然写真家である岩合光昭は、サイエンスは不要と断言しておられる。
 その前後の文章を読むと、岩合さんにとっての写真はエンターテインメントであることが分かるのだが、エンターテインメントをサイエンスがしばしば邪魔をするのは確かだと思う。
 だがドキュメントとしての写真の場合は、サイエンスの知識や物の考え方は、勉強する価値があると思う。

 自然科学出身者として、自然科学の魅力を1つ書いておこうと思う。
 生き物に興味があると言っても、誰しもすべての生き物を見ているわけではなく、好き嫌いや得意不得意がある。
 虫が好きな人、魚が好きな人、獣が好きな人、植物が好きな人、微生物が好きな人・・・
 そして、虫が好きな人が、
「みんな身近な虫を全然見てない。無関心過ぎる。」
 と嘆いたとしても、その人も魚のことになると全く見ていなかったり無関心に近いケースは珍しくない。 
 逆に獣を得意とする人に虫のことを語らせても、大抵同じことになる。
 人によって関心は異なるのであり、それが当たり前なのだと思う。
 ところが、自然科学を勉強していると、そうした生き物のジャンルに関係なく中身のある話ができやすい。
 これが、サイエンスの力だと思う。
 それが自然写真を撮ることに寄与するか?と言われれば、僕には分からないのだけど。



● 2016.3.9〜10 ネイチャーフォー


Nikon1 V3 1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6 PD-ZOOM Capture NX-D

Nikon1 V3 1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6 PD-ZOOM Capture NX-D

Nikon1 V3 1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6 PD-ZOOM Capture NX-D

 恒例の4人展(ネイチャーフォー)の展示作業で山田緑地へ。
 今回僕は、全国で撮影した水鳥の写真を選んだ。
 ↓ネイチャーフォーのフェイスブックページはこちら
 https://www.facebook.com/Naturefour4/

【 恒例の4人展のお知らせです 】
会場    北九州市小倉北区 山田緑地公園
開催期間 3月10日(木)〜30日(水)
開園時間 9:00〜17:00
休園日  毎週火曜日
入場料  無料 ただし駐車料300円(普通車)
出品    武田晋一(水辺の生き物)
       西本晋也(トンボ)
       大田利教(天体)
       野村芳宏(野鳥)
展示点数 34点



● 2016.3.8 ヒドラ、食べかすを吐き出す



糸のように細い体のヒドラが、カイミジンコを飲み込んだ。



細かった体を風船のように膨らませ、その中で食べ物を消化する。



風船のように膨らんでいた体は水草に止まった足元の方からまたキュッと細くなり、まるで歯磨き粉のチューブから内容物を押し出すときのように、食べかすを押し出す。



食べかすをプイッと捨て去った。

 野生生物の写真は、ほとんどすべての人が考えるよりも、遥かに遥かに売れにくい。自然写真家などという存在は、決して大げさではなく、霞を食っているに近いところがある。
 それが特に理解できないのが、趣味で生き物の写真を撮っている人で、生き物に何の興味もない人の方がよっぽど正確に現実を把握できる傾向がある。
 趣味で写真を撮る人たちにとってそれらの写真は素晴らしいものだから、人も同じように価値を感じるものだと思い込んでしまいがちだが、それは大間違い。
 基本的に、野生生物の写真にはほとんど需要がないと思ってもいい。

 ほとんど売れないというのは、どれくらい売れないかと言えば、ある生き物の写真を撮っても、その写真がそのカメラマンの一生の間に一度も使われない可能性の方が高いということ。
 昔、昆虫写真家の海野先生の事務所に遊びに行って写真を見せてもらった時に(見せてもらうというよりは、勝手に引き出しを開けてみるのだが・・・)、特殊なセミの写真があったので、こういう生き物って、何枚くらい写真を持っておけばいいのですか?と聞いたことがあった。
 海野先生は、
「5枚あれば十分でしょう。」
 と教えてくださったのだが、確かにその通りであった。

 ただ中には、何らかの特別な事情があって、ポツポツ売れるような写真もあり、そうした写真を売れ筋と呼ぶ。
 例えばヒドラという生き物なら、その出芽と呼ばれる殖え方が高校の教科書の中で取り上げられるものだから、教材関係を作る際に写真の需要が生じる。
 そこで、ヒドラの出芽の写真を撮る。
 ヒドラの写真が使用される場面をよく考えて、とにかく使う人が使いやすいような写真を撮るし、そうして撮られた写真が、使える写真ということになる。

 でもそれだけでは面白くないので、実際に自分でヒドラを見て面白いなぁ〜と感じたシーンがあれば写真に撮る。ヒドラなら、食べ物を食べる〜食べかすを吐き出すのシーンは、僕にとってなかなか興味深かった。
 売れ筋である出芽のシーンなら、待っていてもいずれ写真が使用される機会は訪れるが、ヒドラ食べるのように社会の需要から一歩でも外れた写真は、待っていたところでまず声はかからないから、自分でそれらの写真を使った本を企画してその中で発表することを目論む。
 僕にとって本を作る意味は、まさにそこにある。
 これは、僕が普段撮影しているような水辺の生き物に限ったことではなく、鳥でも植物でも同じこと。
 そう言えばまだ学生時代に、旅先で出会った野鳥写真の第一人者が、
「鳥の写真で仕事をするのなら、夏鳥は、オオルリ、キビタキ、カッコウがあれば十分だよ。」
 と教えてくださったことがあったっけ。



● 2016.3.4〜7 船に乗る、飛行機になる


ikon1 V3 1 NIKKOR VR 70-300mm f/4.5-5.6

 一昨年、カタツムリ図鑑の取材で訪れた石垣島で、蛍の幼虫がカタツムリを食べているのを見つけて熱くなった。真っ暗闇の中で、蛍がカタツムリの殻に頭を突っ込んだまま光っていた。
 こいつは是非とも図鑑に載せたい!と思った。
 生き物の食う食われるのシーンは押さえておきたいシーンではあるけど、グロテスクになりがちな問題がある。その点、蛍の発光なら、ビジュアルの面でも言うことなし。
 ところがよく考えてみたら、三脚がないことに気が付いた。
 蛍の光のような微弱なものを撮影するためには、数秒間シャッターを開いたままにしておかなければならず、三脚は必須だった。
 僕は普段車で移動をして車に寝泊りをする取材スタイルだが、石垣島へは飛行機を使ったのですべての機材を持っていくことができず、三脚を置いていってしまった。
 そうした経験を積みながら、何を捨て、何を持っていくかの自分なりのリストを作っていくわけだが、普段、滅多に取材に飛行機を使わない僕は、その点に関してはど素人。海外取材が多い人などは、必要最低限の道具とは何なのか、洗練されているんだろうなぁ。

 さて、今日は、ある生き物を採集するために、船で島に渡った。
 採集のための道具やその他があるので、当然、撮影機材を絞らなければならない。
 今後に備えて、軽量コンパクトになるミラーレスのシステムを揃えておきたいなぁ。
 今回はニコン1というレンズ交換可能なコンパクトカメラを選んだが、ニコン1の場合、光の条件さえ良ければ十分に仕事につかえる写真が撮れるけど、光が悪いと急に画質が悪くなってしまう。
 となると、もうちょっと本格的なカメラが欲しくなる。
 オリンパス、ソニー、キヤノン、フジとホームページを開いて一通り眺めてみる。
 が、ミラーレスのカメラの場合、アングルファインダーというカメラのファインダーを上からのぞき込むための道具がないので結局ダメ。最近のカメラは液晶が可動式になっているので、アングルファインダーなどというアクセサリーは準備されないようになった。
 カメラのファインダーが可動式になっていて、上からのぞき込めるタイプのものも少数ながら存在するけど、それらはストロボが取り付けられなかったり、操作性が悪い。
 残念やなぁ。
 小さな生き物を撮影するプロの仕事の現場では、アングルファインダーは依然として必要な道具だと思う。



● 2016.3.3 仕事の喜び

 人の喜びには、大きく分けると2種類ある。
 1つは、おおざっぱに言うと自分が好きなことをする喜びであり、癒し。
 そしてあとの1つは、仕事の喜び。
 仕事は、癒しと違って必ずしも自分が好きなことだけをできるわけではないが、だからこそ面白いという面がある。
 例えば僕にだってあまり興味を感じない生き物がいるし、海の生き物などは得意ではない。
 ところが、写真が仕事なら、その海の生き物の撮影を依頼されることだってある。
 最初は、不安から始まる。苦手なことをはじめる時には、誰しも不安を感じる。
 だがやってみて次第に結果が伴い出すと、面白くなってくる。最初の不安が大きければ大きいほど、乗り越えることができた時に得られるものも大きいし、それがより一層自然や写真の世界に深く導いてくれる。
 もうしばらくすると、一昨年〜去年にかけて撮影したヤドカリの本が出るが、磯のヤドカリの撮影はそういう意味で、仕事ならばでの非常にいい経験になった。

 さて、顕微鏡写真は、僕としては守備範囲から完全に外していたジャンルなのだが、ちょっとやってみよう、とヒドラの触手を撮影してみた。
 ヒドラは刺胞生物の仲間で、毒液を注入する針を備えた細胞を持ち、獲物を触手で捕まえて麻痺させた上で飲み込んでしまう。


Nikon1 V3 AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED

 ちょっと前に顕微鏡写真の撮影を依頼され、やってみようかぁと思ってはいたものの、実は、顕微鏡のことは、光学的なことも、正しい使い方も、全く分からないのが問題だ。
 生物学の学生時代に当然扱った経験はあるが、何かを観察するのと人に見せる写真を撮るのは別次元のことで、前者では自分が分かりたい箇所さえ分かればいいが、後者では、きちんとした形に残さなければならず、形に残す場合は、間違えた使い方をしているとその間違いまでも形に残ってしまうから困る。
 とにかく、顕微鏡に備わっているつまみを一つずつ動かして、どんな働きをするのかを確かめながら撮影してみたが、はて、これでいいのか?
 また、顕微鏡写真の世界は金が物を言う世界だが、自分が思い通りに撮影できないのは機材が安物だからなのか、技術や使い方の問題なのかも、今は判断することができない。
 ともあれ、のべで3日ほどそうして適当にいじくりながらもがいてみて、今日は顕微鏡の使い方の本を一冊注文してみた。





● 2016.3.1〜2 写真展開催のお知らせ

恒例の4人展のお知らせです。

会場    北九州市小倉北区 山田緑地公園
開催期間 3月10日(木)〜30日(水)
開園時間 9:00〜17:00
休園日  毎週火曜日
入場料  無料 ただし駐車料300円(普通車)
出品    武田晋一(水辺の生き物)
       西本晋也(トンボ)
       大田利教(天体)
       野村芳宏(野鳥)
展示点数 32点から35点

因みに僕は、今回はカモの仲間の写真を出品します。
写真に添えるキャプションは、半分はそれらの鳥の撮影について。半分は、その時使用していたデジタルカメラに関してです。

4人でフェイスブックページを作成していますので、ご覧ください。フェイスブックは、フェイスブックのアカウントを持っている人しか見ることができませんが、フェイスブックページはどなたでも見ることができます。
ネイチャーフォーのフェイスブックページ


   
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自然写真家・武田晋一のHP 「水の贈り物」 毎日の撮影を紹介する撮影日記 2016年3月分


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