撮影日記 2012年9月分 バックナンバーへ今週のスケジュールへTopPageへ
 
 
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2012.9.28〜30(金〜日) 過程



 野鳥がとまりたくなるような場所に杭を立て、そこに止まる鳥を撮影するようなやり方がある。
 そうした手法に対して、マナーが悪いという意見があるのだが、僕には、なぜマナーが悪いのか、まったく理解ができない。
 鳥の生態に悪い影響があるとは思えないし、杭が立っていたくらいで、一般の人が不愉快に感じられるとは思えない。
 その程度の遊び心が認められないような社会がいい社会だとは、僕には思えない。
 そんな手法ではいい写真は撮れないという意見もあるが、そうして撮られた写真が人の心を打つ場合もあるし、その前にいい写真は人によって異なるのであり、一概に言うことなどできるはずもない。いい写真は撮れないと断言できるのなら、あなたは神か?と聞いてみたい気がする。
 だが、
「そうした手法では、私が表現したいものは表現できない。」
 と言われれば、一転して大変に共感させられる。
 ともあれ、自分が表現したいものの問題とマナーの問題をごちゃ混ぜにしたがる偏狭な人が野鳥の写真の世界には多くて、うんざりさせられる。そんな時に、自分が正義だと思い込んでいる人ほどたちが悪く、時に、マナーの問題というよりは、宗教に近いような気がしてならない。
 先日、ある野鳥の写真家のことを思い出し、どうしておられるのかなとホームページを探してみたら、ホームページにマナーに関して巻き込まれたトラブルがたくさん書かれていて、悲しくなってしまった。

 僕の場合、自分が納得できるような写真が撮れればいいという訳ではない。撮る過程も重要であり、自分なりの思いがある。
 空気のタンクを使用した撮影というのは、実は内心抵抗がある。自分が表現したい世界と相容れないのではないか?という思いがある。
 そうした文明の利器なしで存在できる範囲で、僕の場合は撮影をすべきではないのか?という思いもある。
 しかし、食わず嫌いは論外であり、試してみることも大切だと思っている。
 空気のタンクを背負った撮影は、サポートする人もいない状況で個人が行うのは実に大がかりで準備やその他には辟易させられる。また、これを続けるかどうかには迷いがあるから、今使用中の道具についてはたくさんの不満を放置しており不快的だが、タンクを背負った水中は別世界であり、撮影そのものは非常に楽しく、撮影した画像を一枚一枚チェックする時間がこれほど楽しい時間は他にない。 
 
 
 

2012.9.26〜27(水〜木) 目配り



 日本一のカレー屋さんを目指す福ちゃんこと福本さんと、釣堀でコイ釣り対決。
 僕はインド料理が大好きで、チャンスがあれば可能な限りインドカレーを食べるけど、福本さんのお店の料理は、僕が知る範囲では頭一つ抜け出してNO1だ。
 シェフのタパさんの腕と、福本さんの品質管理が素晴らしい。

 食事と言えば、以前はなるべく自宅に帰ってから食べることにしていたのだが、年を取ってきたからなのか、車で20〜30分程の自宅に帰るのが妙に負担に感じられるようになってきた。
 ここ5〜6年くらいの話だ。
 そこで、事務所の周辺のお店をインターネットで検索してみた。その際にお店を知り、福本さんの創作カレーを食べたらおいしかった。
 だがそれだけでなく、カレーが大好きというその目がキラキラしていたのが、大変に印象的だった。
 あとは、お客に対する目配りが凄かった。僕らが生き物を観察するのに通じるものがあった。
 初めてお店に行ってひと月後くらいにもう一度行ったら、前に一度来ましたよねと覚えておられた。
 その後、福本さんのオリジナルカレーの他に、インドカレーが加わった。
 福本さんがあるところで食べたタパシェフのインド料理にほれ込み、スカウトしたのだそうだ。
 駐車場が狭いのが唯一の難点で、車が止められずに仕方なく別のお店に行かなければならないケースがちょくちょくあったが、今年に入ってから広い場所に移転した。
 新しい場所でもあっという間にファンがつき、土曜日や日曜日には、その大きな駐車場にも車を止められない日が出てきた。
 お店の位置は、http://www.86curry.com/  。
 あっ、釣り対決は、抜きつ抜かれつの引き分けだった。

 今日の昼間は、ラーメンを食べた。
 こちらも、事務所の周辺で、と探したお店だった。
 最初は、「冷麺あります。」の看板に惹かれて、冷麺好きの僕としては素通りすることができなかった。
 そしたら店の本棚に、ナショナルジオグラフィック誌がずらりと並んでいたので驚いた。
 ええ?何で?と興味が湧いた。
 2回、3回と通うと、店員のお兄ちゃんがニコッと笑って
「冷麺ですか?」
 と注文を取ってくれるようになった。
 こちらもやはり、お客に対する目配りが実に良った。
 1つ1つの振る舞いから、お店に対する愛情があふれ出ていて、ラーメン屋さんの店員さんのレベルではないと感心させられたのだが、のちに、店員さんと言っても雇われているわけではなく、家族で店を切り盛りしていることを知った。
 目配りの良さというよりは、店に対する愛情と客に対する関心なのかな。
 店の座席の数に対して駐車場は大きいが、人気があってお昼時にはなかなか車を止めることができない。
 お父さんは自然が好きで、山登りが趣味で、本棚のナショナルジオグラフィックは、そのお父さんの愛読書だった。

 ともあれ、心を込めて一生懸命働いている人の仕事は、大変に心地いい。
 
 
(写真展のお知らせ)
野村芳宏西本晋也・武田晋一による3人展
● 北九州市門司の白野江植物公園市民ギャラー
● 9月19日(水)〜30日(日) 火曜日が休園日 9:00〜17:00。
  駐車料300円 入園料200円。
 
 
 

2012.9.23〜25(日〜火) 被写体の大きさ

 被写体の大きさは、写真撮影の難易度を決める大きな要素だ。
 それは被写体が大きければ大きいほど撮影が難しいというような単純なものではなく、大きいから難しい場合もあれば、逆に大きいから簡単になる場合もある。
 


 先日、ミズカマキリを撮影しようとして、はたと困った。
 ミズカマキリが予想以上に大きくて、僕が自作した水生生物の撮影システムの中に納まらないのだ。
 そうした場合に備えて最初から大きなシステムを準備しておけばいいし、陸上の被写体に関してはそうしてあるが、水中のものを撮影する場合は水槽を使用しなければならないし、水を張らなければならないから、容器を大きくすると大変に面倒になる。容器の一片を2倍の長さにすると、体積は縦×横×高さで8倍にもなってしまう。
 また、大きな容器を均一に照明するのも、なかなか骨が折れる。小さな容器なら照明器具が2つで済むところが、大きな容器だと4つくらい欲しくなる。
 背景の白にムラが生じた場合に、画像処理で片付ける手もあるが、時間がかかる。
 或いは背景の白を真っ白に飛ばしてしまう方法もあるが、そうすると写真の用途が限られてしまい、売れ行きが悪くなる。
 そう言えば、もう随分前のことだが、スタジオ撮影を始める際に相談に乗ってもらったスタジオの専門家に、
「大きなものは撮りません。せいぜい幅が60センチの水槽程度です。」
 と言ったら、
「それ、むちゃくちゃ大きいよ。」
 と苦笑いされたことがあった。
 


 逆に、広角レンズを使用して水中カメラで撮影する場合は、被写体が大きければ撮影は易しくなる。
 僕が本格的に水中写真を撮りたいと思ったきっかけの1つは、カワセミの水中での捕食のシーンを撮影する際に見た水の中の景色がとてもきれいだし、撮影が思いの他上手くいったからだが、それと同様の仕組みでより小さなオタマジャクシやサンショウウオを撮影してみたら、どうしても画質が悪くなってしまうので困り果てた。
 画面の周辺の画質がひどく悪くなってしまうのだ。
 だいたい小鳥くらいの大きさがあれば、水中でのそうした機材の問題から解放される。
 まして、オオサンショウウオくらいの大きさがあれば、まったく問題はない。

 ソニーのカメラ・α55で撮影した画像をホームページに掲載しようとして、ふと気が付いた。
 このカメラで撮影された画像には、GPSによる位置情報が加えられている。
 自然写真において、いつどこで撮影されたのかなどの情報は非常に重要なものであり、GPSによる記録は便利ではあるが、反面、希少な生き物の生息地をうっかり公表し、それが野生生物の生態に悪影響を及ぼしてしまう危険性がある。
 GPSの内蔵が普及してくるならば、プロアマ問わず、写真を発表する際には忘れずに情報を削除するか、最初からオフにしておかなければならない。
 GPSを内蔵したカメラを使うのは初めてだが、先ほどそれを利用して地図を表示させてみると、まさにピンポイントで撮影した場所が示された。

(写真展のお知らせ)
野村芳宏西本晋也・武田晋一による3人展
● 北九州市門司の白野江植物公園市民ギャラー
● 9月19日(水)〜30日(日) 火曜日が休園日 9:00〜17:00。
  駐車料300円 入園料200円。
 
 
 

2012.9.22(土) 釣り



 数年前から時々、弟と一緒に釣りに行くようになった。そこに僕らの釣りの師匠であるTさんに加わってもらうようになってからは、今回が3度目の釣行になる。
 前回は、熊本県の緑川の上流部へ出かけた。
 その際に、長く渓流釣りから離れていた師匠が、五家荘と呼ばれる地域の川のことを話してくださった。
「五家荘の川なら、手に取るようにわかるよ。」
「しかし、師匠が渓流釣りをしていたころからは随分時間が・・・。それにあそこは大規模な道路工事をやってますよ。」
「いや、あの川なら完璧に頭に入っとるから、どんなに変わってもよう分かる。」
 そんな会話が交わされた。
 師匠はお酒が大好きなので、聞く際には酔ってないかどうかを確認する必要があるがしらふ。
 よし!ならば、と今回はその五家荘を目指すことになった。
 出かける2週間前、宿を予約するために厳密な場所を決めなければならず、師匠のところへ相談に行き、どこを選んだらいいのか尋ねてみたら、
「いやいや、私が行きよったのは大昔のことやから、今は全然分からん。」
 とおっしゃる。
「えっ?」
 師匠の話に限らず、釣り師の話は、聞き方が実に難しい。釣り師の話は大きいと相場が決まっているのだ。
 嘘をつくと言えば、多くの釣り愛好家に怒られてしまうだろうが、しばしば現実と妄想の区別があいまいになり、嘘をついているのに、嘘をついている自分に気付かなくなるのだ。
「嘘をつくな。」
 と言っても、多くの釣り師は、
「嘘なんかつかん。失礼なことを言うな。」
 と返してくるに違いない。

 ふと振り返ってみれば、もう30年くらい昔、師匠に釣りに連れて行ってもらっていた頃、まともに魚が釣れたことはほとんどなかった。
 ヤマメという渓流魚は、滅多に釣れないものなのだと思い込んだ。
 ところが後に自分で行ってみると、いつもそこそこの数が釣れることには驚かされた。
 僕は師匠を超えたのではないか?という気がしてきた。
 しかし昨年、久々に師匠が釣りをする姿を見てみれば、釣りの技術は僕よりも格段に上だった。今見ても、実に見事なテクニックであった。
 では、もしかしたら師匠は釣果にはこだわらないのではないか?と思い聞いてみたら、
「いや、釣りは釣れんと話にならん。」
 とおっしゃる。
 しかし、当時、あれほどに釣れなかったのはなぜだろう?
 そして今回も、釣果はほぼゼロだった。
 持って帰ることができるような魚は、僕が釣った2匹だけだった。

 五家荘では、川に潜って撮影をしたことがある。
 過去に、30回くらいは出かけたことがある。
 釣りの帰りにふとそれを師匠に話してみたら、
「えっ、そんなに来とるんか!」
 とおっしゃる。
 師匠の話を聞いていると、五家荘に100や200回では足りないくらいに通っておられたのではないかと思えてくるのだが、よくよく考えてみれば、趣味の釣りは普通はせいぜい週に一回。
 20〜30年1つの釣りを続けたとしても、回数はたかが知れている。
 自然写真の仕事をしていると、そうした人たちの数十年分くらいを、1シーズンくらいでこなしてしまう。
 また、写真を撮りながら、無意識の間に釣り場もチェックし、魚だけでなく、水生昆虫や水辺の生き物たちのことも見ていて、いつの間にか生き物が豊かな場所を見出し、そこへ僕は釣りに行くのだから、釣りそのものは下手糞でも、トータルとして魚を釣ってしまうことはあり得るのかもしれない。
 そう言えば、趣味の釣りでも、趣味の写真でも、プロを超えるような名人級の人は、比較的に時間が自由になる職業についていて、それでお金を稼いでいるわけではないものの、生活のほぼすべてをそこに打ち込んでおられる方がほとんどだ。
 何をするにせよ、名人の称号を得ようと思えば、他のことをどれだけ犠牲にし、どれだけ捨てれるかという面がある。

(写真展のお知らせ)
野村芳宏西本晋也・武田晋一による3人展
● 北九州市門司の白野江植物公園市民ギャラー
● 9月19日(水)〜30日(日) 火曜日が休園日 9:00〜17:00。
  駐車料300円 入園料200円。
 
 
 

2012.9.16〜9.21(日〜金) お知らせ

8月分の今月の水辺を更新しました。

(写真展のお知らせ)
野村芳宏西本晋也・武田晋一による3人展
● 北九州市門司の白野江植物公園市民ギャラー
● 9月19日(水)〜30日(日) 火曜日が休園日 9:00〜17:00。
  駐車料300円 入園料200円。
 
 
 

2012.9.13〜9.15(木〜土) 山口〜広島へ


NikonD800 AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR SILKYPIX

NikonD800 AF-S VR Micro-Nikkor ED 105mm F2.8G(IF)SILKYPIX


NikonD800 AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR SILKYPIX

NikonD800 AF-S VR Zoom-Nikkor ED 70-200mm F2.8G(IF) SILKYPIX

NikonD800 AF-S VR Zoom-Nikkor ED 70-200mm F2.8G(IF) SILKYPIX

NikonD3X Ai AF-S Nikkor ED 600mm F4DII(IF) SILKYPIX

 トンボの撮影の合間に水生昆虫を何種類か見かけた。
 すぐ足元で見かけたときは、名前の確認と標本写真を撮るために網ですくう。
 ゲンゴロウが一匹ウロウロしていたのだが、採集することはできなかった。 

 中国自動車道路を走行中、「3キロ先、事故車あり」の表示。3キロと言えば、時速80キロで、2分ちょっとくらいだろうか。
 しばらくすると、路肩に破損した軽自動車が一台。すでに救助の人がかけついていて、発煙筒がたかれていた。
 運転手は若い女性で、路肩の車の前方でうんこ座りをして、携帯電話で話をしている。
 路肩の事故車に他の車が突っ込んでしまう事故がちょいちょい起きているのに、鈍い人やなぁ。
 突然の大雨で、路面が滑りやすくなっていた。

 それから数分、今度は前方300メートルくらいの場所で、爆発物でも破裂したのではないかというほどの激しい煙が上がった。
 またも事故。
 車は2車線の真ん中で大破。
 ここで止まると、後ろから追突される危険性があるから、早くその場を脱したい。
 大破した車の脇を、なんとか通り抜けることができた。
 それにしても、不思議な事故だった。
 カーブでもないし、破損した車も、広範囲にものが飛び散っているわけでもなく、その場で一瞬にして車がバラバラに分解してしまったかのような壊れ方だった。
 コックピットだけがきれいに残っていて、運転手と助手席の人は無事であるように見えた。
 事故車と僕の間を走行していた車は3台だったと思うが、自分も含めて、よくぞ、巻き込まれなかったものだと思う。
 車に乗れば、自分に非がなくても、巻き込まれる危険性がある。
 高速道路は、人の万が一の迷惑をかけないためにも、80キロですな。
 走行距離が20万キロを超えている僕のハイエースは幸いパワーが落ちていて、スピードが出にくくなっている。
 どんなに一生懸命写真を撮っても、死んでしまったり、事故で他人に大きな迷惑をかけてしまっては話にならない。
 今回の取材の行きがけに、ハイエースの後ろのバンパーを少しだけ柱にぶつけてしまった。
 普段乗っている軽自動車に慣れ過ぎてしまい、うっかり軽の感覚で乗ってしまった。
 大した傷ではないけど、人だったなら・・・
 教訓として、修理はせずに、そのまま置いておくことにした。
 
 
 

2012.9.9〜9.12(日〜水) 血をくれ!


NikonD800 AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR SILKYPIX

NikonD800 TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 SILKYPIX

 花の撮影を終え、池から上がってみて驚いた。
「血をくれ、血をくれ!」
 と言わんばかりに、長靴に数十匹のヒルがたかっていたのだった。
 この場所では過去に2度網を入れたことがあるが、その時にはヒルの姿はなかったので、チスイビルは増減の変動が大きな生き物なのかもしれない。
 

NikonD800 TAMRON SP 70-300mm F/4-5.6 Di VC USD SILKYPIX

 遠くに、アカウキクサの仲間が見える。
 多分外来の種類だと思うが、近年少なくなった日本産である可能性もある。
 それを判別するには、採集する必要がある。
 新しく入ってくる外来の生き物に関しては資料が少ないので、写真だけで種名を判別するのは難しいし、物を持っておく必要がある。
 以前、池を干した際に、池の中の地形を見ておいたのだが、それほど深くないし、池の底の形状も単調だったから、水草をかき分けるのには苦労しそうだが、行けない訳ではなかろう。
 が、万が一水草に足を取られて扱けてしまったら、大量のヒルに吸い付かれてしまう。
 想像をしてしまったばかりに気分が悪くなった。
 代わりに、ヒルを採集することにした。
 あの動きは、大変に面白い。


NikonD800 AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR SILKYPIX
 
 反動で気持ちがいい写真を撮りたくなり、栗の実にしばらくレンズを向けてから、帰宅することにした。

 今日はそのヒルをスタジオで撮影する予定だったが、採集した容器を池のほとりに忘れてきてしまったことに気付いた。
 大分県までは、小さなタッパー1つを気軽に取りに行ける距離ではない。そうなると、とても残念に思えてきた。
 ヒルを本格的に撮影してみるか?
 蚊はなぜ煩わしいのか?それは痒いからであり、それさえなければ血を吸われることに大した抵抗はないと語った方がおられるのだそうだが、紹介してもらいたくなった。
 是非、撮影のモデルになってもらいたい。
 池の中に、はだしで足を突っ込んでもらい、吸血するヒルの写真を撮りたいのだ。
 ヒルの場合、血を吸われる際も吸われた後も、何の感触もないのだと確か聞いたことがある。
 足から、タラリと血が垂れてくれれば、申し分ない。
 ヒルジンという物質が分泌され、血を固まりにくくするのだという。
 
 
 

2012.9.7〜9.8(金〜土) テーマと道具

 先日購入したばかりのニコンのレンズ AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR を、従来から使用している AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G ED と撮り比べてみて驚いた。
 2本のレンズの発色が、区別不能なくらいに似ていたのだ。
 趣味の写真の場合はあまり重要なことではないのだろうが、仕事の場合は、できれば写真の調子は揃えておきたい。
 調子が揃うと、印刷の際などの色の調整も、1枚の画像が上手くいけば他の画像も上手くいくことになるなどやり易いし、その他いろいろとありがたい。
 その点、ニコンの製品には以前はややチグハグな面があるように感じていたのだが、ここ数年の新しい製品は、一本の筋が通っていて大変に扱い易い。
 

NikonD800 AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR SILKYPIX

NikonD800 AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G ED SILKYPIX

 写真の調子を揃えるためには、カメラもなるべく同じ機種を使いたい。
 その点、ニコンのD800は大変に良くできたカメラであり、長く使える道具だと感じている。
 そこで、ここ数年何度も先延ばしにしてきた定点撮影を開始することにした。
 同じ場所を何度も撮影する定点撮影の場合は特に、道具を一定にし、描写の傾向を揃えておきたい。



 もちろん写真の仕事と言っても色々とあって、逆に、カメラやレンズごとの違いが重要なケースもあり、「デジタルカメラで撮る海野和男昆虫写真 -wild insects-」などは、まさにそれが面白い。
 古い本なので最新の機材は使用されてないが、この中に掲載された道具では、ニコンのD2Xにシグマの150ミリマクロレンズの組み合わせた際の描写が、今見ても目から鱗が落ちるくらいにシャープで非常に興味深い。
 
 ともあれ、先月から多くのため池を見て回った。
 その中からいくつの池を選んで、月に一度撮影する。
 池の撮影自体は短時間で終わるので、残りは小動物を撮影することができる。
 水辺の場合、定点撮影は案外難しい。
 天気の条件が整うことに加え、風が強い日には水面が乱れてしまうので、無風に近い条件でなければならない。また、年によっては渇水で水がなくなってしまう場合もある。
 そんなマイナスの条件を加味すると、月に一度の撮影の予定を組んでも、実際には二か月に一度の撮影くらい、年に6枚くらい写真が残る程度の結果になるのではないかと思っている。
 
 
 

2012.9.5〜9.6(水〜木) 自然写真と風景写真

 僕が写真を仕事にしたいと思い立った頃は、写真で生活が出来るようになるまで風景なら4年、植物で7年、動物なら10年以上かかると言われていた。
 だいたいみなさんの話は一致していたので事実なのだろうと思った。
 風景は、自然写真とはちょっと違うよ、とも聞かされた。
 確かに、どこで、誰に対して写真を売るのかが、僕ら自然写真の世界で仕事をしている者とは違っているようだ。自然写真の業界の中では、いわゆる一般的な風景写真の売れ行きは、実に悪い。

 風景写真家と自然写真家の違いは幾つかあるが、僕の感覚では、例えば、桜の写真を撮るのは風景写真家。
 一方で自然写真家は、桜に集まる虫や鳥に注目することはあっても、桜そのものにはカメラを向けようとはしない。世間の皆さんが鑑賞している大半の桜は、人が品種改良して植えたものであり、自然ではないと。
 もちろん、風景写真から自然写真までまたがっているような方もおられるが。
 僕にとっても、桜は川に放された錦鯉に近い存在であり、文化とは言えても、自然とは言い難い。

 農業はどうだろう?
 農業の写真も、桜と同様に基本的には風景写真のジャンルだと思う。
「美しい棚田の景色を残して!」などという主張は、田んぼを景色として見ているのだと言える。
 しかし、田んぼを農作物を作る場所だと見れば、常に、より生産効率がいいやり方に改めていくのは当然だと言える。
 唯一、今森光彦さんが撮影する田んぼの景色は、僕には、風景写真と言うよりは、自然写真だという印象が強い。
 だからその今森さんが棚田の景色をどう見ているのか、棚田を残すべきだと考えているのかどうかには、大変に興味があった。
 すると以前、田んぼは、あくまでも農作物を作る場所だと思っているといった風に答えておられた。


NikonD800 AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G ED SILKYPIX

 さて、注文していたレンズが入荷した、というので受取りに行った。
 そのまま車を走らせたら、山口県の土井が浜にたどり着いた。
 土井が浜は、過去に弥生時代の人骨が大量に出土し、それらの特徴は同じ時代の他の地域の骨とは特徴が異なることが分かっていて、博物館がある。
 土井が浜の人骨は、渡来人のものではないかと言われている。
 稲作は、そうした渡来人がもたらしたものだとされている。

 時々、
「田んぼの水路がコンクリートになり、メダカが住めなくなり、自然が損なわれている。」
 といった話を耳にすることがあるが、田んぼやその水路は、人が作ったものであり、元々自然界に存在するものではない。
 稲作以前の日本は、いったいどんな場所だったのだろう?それを見てみたい願望がある。
 もしかしたら、田んぼが次々と作られるようになった当時の日本では、劇的な環境の変化が起き、それによって何かが損なわれ、今で言う、激しい環境破壊のような現象が起きたのかもしれない。
 いや、それだけの変化が起きるのだから、そう考える方が理にかなっていると思う。
 しかし、それも時間が経てば文化に昇華し、どうもそれが人間という生き物であるように感じる。
 ブラックバスは、300年後の日本で、どんな風にみられるのだろうか。
 人間は手前勝手だと批判したいわけでもなく、それが人間なんだと肯定したいのでもなく、人間っていったいどんな存在なのかを知りたい。それが僕の興味であり、自然にカメラを向ける最大の動機だと言える。


NikonD800 AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR SILKYPIX

 ともあれ、ちょうど環境写真の撮影を依頼されたこともあり、それをさらに発展させるために新しいレンズを一本購入した。
 ニコンの AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED 。
 第一印象は、ああ、近代的なレンズだなぁということ。
 オートフォーカスや手ブレ補正が大変に上品で、それらの機能が作動している感じがあまりしないほど。
 静かすぎる車に通じるものがあり、基本的には静かで上品であることを目指すべきなのだけど、上品過ぎない方がどこか安心できる。
 描写は、抜けが良く、くっきり写る感じがする。
 至近距離(28センチ)での描写は、カリカリにシャープとい印象はなく、遠くを写すことが得意なレンズではないか?という第一印象だ。
 
 
 

2012.9.1〜9.4(土〜火) 日本の社会

 芸能人の熱愛発覚の際の会見などで、
「私○○は、××さんとお付き合いさせてもらっています。」
 などというセリフを耳にすることがあるが、「〜させてもらっている」という言い回しが、僕は好きになれない。
 逆に「付き合ってあげている」とか、「〜してあげる」という発想も大嫌いだが、「〜させてもらっている」というのも、同じくらい抵抗がある。
 ごく普通に、「付き合っている」、ではダメなのだろうか?
 日本の社会の中にはその手の謙虚さが実に多い。高校野球の試合などを見ても、いちいち帽子を取って挨拶をし・・・、という謙虚さを表す形式だらけ。
 感謝の気持ちは、そうしてばらまくことで「私はこんなに感謝してますよ」、という自己のアピールに用いるものではなく、もっと心の奥深いところでグッと噛みしめるものであるような気がしてならない。
 写真も同様で、写真展などの際に、「写真を見せてもらった」と言われるとちょっと抵抗がある。ごく普通に、「写真を見にいった」、くらいでいいのではなかろうか?と。
 いや、その人がどんな表現を用いようがその人の勝手であり、厳密に言えば「写真を見せてもらった」でもいいが、そう言わなければダメとか、そういうことが正しいとか素晴らしいという風ではあって欲しくないし、自由でありたい。
 日本的なしきたりをすべて否定するつもりはないし、大切にすべきこともたくさんあると思うが、人と人の心の触れ合いに関して言えば、接客のテクニックよりも、なるべく自然でありたいなと思う。
 

サギソウ
NikonD800 TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 SILKYPIX

サギソウ
NikonD800 TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 SILKYPIX


ヒモヅル
NikonD800 TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 SILKYPIX

ヒモヅル
NikonD800 TAMRON SP 70-300mm F/4-5.6 Di VC USD SILKYPIX
 
 サギソウはきれいだな、と思うけど・・・・
 僕はそうではない、一般的に言えば訳の分からないものの撮影の方に、つい力が入ってしまう傾向がある。

 ただその前に、日本の社会の中で自然写真を仕事として続けていくためには、やはり分かりやすい写真を撮り、まずは社会に受け入れてもらい自分の足場を気付くことが先決。
 下積みをすることの大切さ、と言ってもいいのかもしれないが、僕がまだ学生だった頃にそれを教えてくださったのは、昆虫写真家の海野先生だった。
 僕が著作を読んで知っていた海野先生は、日本人的な発想ではない、日本人には少ないタイプの人だったので、海野先生に初めて会いに行った日、この実に日本人的なアドバイスには実は驚かされた。
 だが逆に、日本人的ではない人のアドバイスだったから、僕のようなタイプの人間が日本の社会の中で仕事をしていく上でそれがいかに大切なのかの説得力があった。
 こう書くと、そうでなければならないと受け止められる方もおられようから補足すると、海野先生は他の選択肢も教えてくださった。社会の中に受け入れてもらうやり方もあれば、もしも自分にずば抜けた才能があると思うのなら、力勝負するやり方もあると。

 僕が築いた足場は、実に小さくて不安定なものではあるけど、今度はしばらく社会のことなど考えずに、自分にひたすらに正直に、素直に写真を撮ってみるかという気持ちが、ここのところ強くなってきた。
 
 
   
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自然写真家・武田晋一のHP 「水の贈り物」 毎日の撮影を紹介する撮影日記 2012年9月分


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