撮影日記 2010年2月分 バックナンバーへ今週のスケジュールへTopPageへ
 
 

2010.2.25〜28(木〜日) 大詰め


NikonD700 SIGMA15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE SILKYPIX

 事務所の改築もいよいよ大詰め。今日は、これまでスタジオとして使用してきたスペースに壁紙を貼ってもらう。
 思い返せば、壁紙は、そのスタジオのスペースを最初に作った際に貼ってもらえば良かったのだが、僕は一秒でも早く仕事がしたかったので焦っていた。
「壁紙と床のシートははらなくて結構です。」
「え?このままでいいのですか?」
「はい、あとで暇な時にでも自分ではっておきます。」
「・・・・」
 と壁紙貼りを僕は拒否してしまったのだ。
 そして、仕事が一段落したところでホームセンターで床に貼るシートと壁紙を購入し、自分で貼ってみたのだが、これが非常に難しかった。
 床は、汚いながらも何とか貼れたが、壁紙は悲惨な結末になり、途中でギブアップ。その結果、スタジオのスペースでは、壁に貼られた断熱ボードがむき出しになったままの状態になった。
 すると今度は、石膏で出来ているその断熱ボードの端っこがボロボロに砕け始めた。
 あの時ちゃんと壁紙をはっておいてもらえば良かった・・・、と僕はここ数年後悔を続けることになった。
 今回、プロの職人さんが壁紙をはるのをみて大変に納得させられた。壁紙は、ホームセンターで売っているようなものを、そのようなシステムできれいに貼ることは、ほぼ不可能だろう。必ず職人さんにお願いをした方がいい。

 一方下の画像は、事務所のスペースである。パソコンを使用する部屋なので、それ用に壁紙の色を灰色にした。


NikonD700 SIGMA15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE SILKYPIX


 

2010.2.23〜24(火〜水) 物の置き場


NikonD700 AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G ED SILKYPIX

 うちの事務所の建物は築50年以上と古い。そして建物が古いからだろうが大変に埃っぽいく、スタジオでの撮影の際にはそれらの埃が被写体に付着し、撮影後にパソコンで画像を大きく拡大してみると埃が気になるケースがしばしばある。
 特に、カエルやカタツムリなど表面が粘膜で覆われている生き物では、粘膜に埃が付きやすく、それが顕著になる。
 そこで今回の事務所のリフォームでは、とにかく掃除がしやすくなるように、物の置き場や置き方などに注意を払っている。物は可能な限り宙に浮かせておくことにした。以前はとにかく地面にたくさんの物が置いてあったので床を掃除しにくかった。パソコンのコードなどは、パソコンデスクの裏側にフックで一本ずつ引っ掛け、宙づりにしておくことにした。
 これまでは、パソコンがあり事務所として使用する部屋に、撮影機材もいっしょに置いてあったので、部屋は狭くてゴチャゴチャしていて快適ではなかった。大変に圧迫感があったし、打ち合わせにお越しになった出版社の方々には、くつろげない空間で申し訳ない、といつも感じていた。
 そこで今回のリフォームでは、部屋を増やし、パソコンと撮影機材を分けることにした。
 昨日は、事務所として使用する予定の部屋がほぼ完成し、元々パソコンを置いてあった部屋から新しい部屋へと機器を移動させた。
 うちの事務所には今4台のパソコンがあるが、まあ、なんとコード類の多いことよ!頭がおかしくなりそうだ。


NikonD700 AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G ED SILKYPIX

 当然、電源もたくさん必要になる。コンセントは6口のものを1つの壁に3つ設置し、合計18個の電源を取れるようにした。また壁の色は、パソコンのモニターが見やすくなるようにグレーを選んだ。

 そしてやっかいなのは、パソコンデスクだった。僕は、長いテーブルが好きで、幅140センチと幅180センチのテーブルをパソコン用に置いてあるが、長いテーブルは移動の際には大変なお荷物になる。部屋の入口の位置によっては、テーブルがそのままでは入らず、一度分解しなければならならない。
 だが、ノロノロする時間はない。翌日には、今度はこれまでパソコンが置かれていた部屋のリフォームが始まるので、とにかくその部屋に置かれていた大量の荷物を移動させなければならない。
 見かねた大工さんが、
「俺たちが運んじゃるよ。」
 と言ってくださったのだが、パソコンのコード類を元通りに設置するためには、それらを注意深く一本ずつ自分の手で外し、束ね、ラベルを付けておく必要があり、その間大工さんを待たせることが心苦しかったので、自分ですべての荷物を運んだ。
 作業は結局深夜に及んだ。 


NikonD700 AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G ED SILKYPIX

 普通、部屋の屋外と面している側にはガラス窓があり、廊下側には壁がある。ところがうちの事務所の場合、廊下側にもガラス窓がある妙な作りになっている。
 今回のリフォームでは、その廊下側の妙なガラス窓を潰してしまおうか、とも考えたが、場合によっては大きな荷物を出し入れすることを考え、窓を潰さずに残すことにした。 


 

2010.2.21〜22(日〜月) 古いもの


NikonD700 AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G ED SILKYPIX

 事務所をリフォームする機会に、貯め込んでいた不要な荷物を大量に廃棄した。ダンプ数台分にもなったそれらの不要物は、捨てるのが面倒で空き部屋に貯め込んだわけではなく、もしかしたらまた使うかもと取っておいたものだ。
 だが今になって思えば、早めに捨てておくべきだった。
 捨てるためには、それが本当に必要かどうかを考えなければならない。そしてそれを考えるためには、自分の従来の仕事のスタイルやこの先のことをしっかりと検討する必要がある。
 つまり物を捨てること=心の中を整理し、新たな計画を立てることであり、それを先延ばしにしてはならなかったのかな、と思うのだ。
 人は、時には古いものを捨てなければならないことがある。
 新しいものがいい、といいたいのではない。古いものでも何かの役割を果たせばいいと思うが、忘れ去られ、埃をかぶってしまうような保存の仕方なら意味がない。

 僕の地元の直方市には、古い駅舎をどうするか、という議論があり、ある人は新しい駅を立てろと主張し、またある人は古い駅舎を残すべきと主張する。
 僕は?と言えば、古い駅舎が使えるのなら、それで十分ではないかと思う。伝統がある駅舎の建物には趣があり、それは市の個性にもなるだろう。バリアフリーの観点から古過ぎるというのなら、上手にリフォームしたらいいと思う。
 だがもしも新しい駅舎を作るのなら、古い駅舎をどこかに移動し、保持するようなことは愚策中の愚策だと感じる。それは、別れた恋人の思い出の品を額に入れて飾っておくようなものだ。
 昔の恋人の思い出その物には価値があるが、それを額装した物には、そのうちほとんど何の価値もなくなる。
 もしも直方市が古いものを保存し、それを売りにして発展できる見通しがあるのなら、駅舎の保存もありだと思うのだが、地元の人間としての思い入れを排除し、クールに客観的に物事を判断すれば、それは極めて難しいだろう。
 人は、思い入れを捨てなければならないこともある。
 
 本作りの際にも、作者が自分の思い入れを全面に打ち出すと、それは最悪の本になる。
 思い入れを否定するわけではないし、思い入れはとても大切なものだが、それはあくまでも自分だけのものに過ぎない。
 もしもどうしてもその思い入れを主張したいのなら、何か工夫をして、その思い入れを人さまにも理解してもらえるパッケージに詰めた上で、人前に提示しなければならない。僕の場合なら、生き物に対する自分の個人的な思い入れを、広く一般の人に分かってもらえるような形にした上で、表わさなければならない。
 自分の思いを大切にすることとは、自分の思いを人に押し付けることではなく、それをどんなパッケージに詰めたら多くの人に理解されるのかを考えることではないのだろうか?
 
 
 

2010.2.20(土) 本

 数えたわけではないが、うちの事務所には、いわゆる写真集だけで100冊以上の本があると思う。
 そして、事務所のリフォームに伴い、それらの本を移動させることのなんと大変なことか!
 結局、2/3ほどを安全地帯に避難させたところでギブアップ。残りは、工事中の部屋のすぐ外の廊下に積み、埃がかぶらないように布で覆いをして、工事が終わるまでの期間をしのぐことにした。
 本離れが進む理由の一端を垣間見るようだった。本はとにかく場所を取るし、時によっては邪魔になる。
 僕は本作りにこだわりたい、と以前に書いたことがあるが、今回のリフォームに伴う本に関する煩わしかったことは、よく頭に入れておく必要があるだろうと思う。
 それでも買う価値がある本とはどんな本なのか。何が本向きで、何がCDやDVDやWEB向きなのか。
 フィルムにも、同じようなことが言える。
 つい先日、古いフィルムを捨ててしまったのだが、その際に廃棄したゴミは、他のゴミも含めて小型のダンプ1台分にもなった。

【お知らせ】
白野江(しらのえ)植物公園にて、写真展を開催します。是非、御覧ください。
期間  〜2月21日( 日) 
内容  野村芳宏 西本晋也 武田晋一による3人展

 

2010.2.17〜19(水〜金) お知らせ

【お知らせ1】
 事務所改築中に付き、数日間、すべての対応が滞る可能性があります。 

【お知らせ2】
白野江(しらのえ)植物公園にて、写真展を開催します。是非、御覧ください。
期間  〜2月21日( 日) 
内容  野村芳宏 西本晋也 武田晋一による3人展

 

2010.2.16(火) アイディア

 夜な夜な、森の中の水たまりに出かけては、サンショウウオやアカガエルを観察する。
 そして、明け方に帰宅をしてしばらく仮眠を取ったあとは、今度は明るい時間帯に前夜の出来事の結果を見たくなり、また出かけてみる。
 昨晩産み落とされたカエルの卵はどんな感じになっているだろうか?僕が引上げた後に、新たに産み落とされた卵はあるだろうか?
 そして何よりも、本作りをする上で必要な写真を撮るためにはどうしたらいいのか、そのアイディアを空想の中で絞り出しては現場で検証をし、思い描いたような撮影が本当に可能かどうかを確かめる。
 水辺の場合は、しばしば水が撮影の妨げになる。カメラは防水しなければならないし、岸から遠い場所にある被写体を撮影するためには、水辺に足場をかけ、その上から撮影するなど、何らかの特殊な工夫が求められる。
 そしてそれらの妨げを乗り越えるために、大道具、小道具を準備するための時間も必要になるから、他の自然写真よりも時間がかかる傾向がある。
 一方で、生き物たちは季節に合わせて行動をするのだから、その時期を逃すと次の撮影のチャンスは1年後になってしまうし、いいアイディアが思い浮かび技術的にそれを実現できるのがが先か、それとも季節が終わってしまうのか、いつも時間との勝負なのだ。
 シーズンが終わった後にいいアイディアが思い浮かんだ時は、とても悔しい。

 さて、真夜中に、森の中の水溜りに出かけることは怖くないのか?とよく聞かれるが、待ち時間が長いと怖くなるし、逆に生き物が姿を見せると、全く怖くない。
 つまり、怖さは夜の森の中にあるのではなくて、僕の心の中にあるということになる。
 同じ人間が同じ場所にいるのに、状況によってこんなに恐怖感が違うのか、と自分でも不思議になるが、それが、好きということなのだろう。
 生き物の姿が見えれば、僕は大概のことは忘れてしまう。 

【お知らせ】
白野江(しらのえ)植物公園にて、写真展を開催します。是非、御覧ください。
期間  〜2月21日( 日) 
内容  野村芳宏 西本晋也 武田晋一による3人展

 

2010.2.14〜15(日〜月) 悪役


CanonEOS5D EF20mm F2.8 USM(改)

 先日、イノシシを撮影するための自動撮影カメラを点検していたら、
「すいませ〜ん。」
 と声をかけられた。聞けば、数年前からカスミサンショウウオを調べているのだという。
 そして、年々その場所のカスミサンショウウオの数が減っているが、それはイノシシのせいではないか?という。
 最近、そうした話をよく耳にする。何かと温暖化の影響だとか、増え過ぎたイノシシの悪さだとか、外来種のせいだとか・・・。
 自然が思いがけず変化した時にその原因を探ることは大切なことだと思うが、報道などでよく取り上げられる悪者を、自分でよく調べもせずにそのままその原因にしてしまうことには、僕は大変な違和感を感じる。
 その方は、付近を通った散歩中の方に、今度は、
「工事の影響で水が少なくなりサンショウウオが激減してしまった。」
 と大々的に語っておられた。
 だがはたして、それは本当に工事やイノシシの影響なのだろうか?

 そう言えば昨年の秋、イノシシが泥を浴びる湿地に小岩がたくさん投げ込んであるのを見つけた。
 遊びに来た子供が石を拾っては投げ込んだろうか?それにしては子供では抱えられないような大きなものもあるので、僕にはその小岩の由来が分からなかった。
 ところがその後、
「それはイノシシの仕業ですよ。」 
 と獣に詳しい友人に教わった。石の転がり具合から見ると、獣の痕跡というよりは人間のしわざのようで、遊び心さえ感じられた。
 その時投げ込まれていた小岩の影に、今は、サンショウウオの卵がたくさん産みつけられている。卵は岩陰や木の杭に産みつけられていることが多い。
 さらに、サンショウウオの卵は、イノシシが泥を浴びた結果、掘られて深くなった場所に多い。
 産みつけられている卵の下には親が隠れており、時々姿を見せる。

 その方がサンショウウオを調べている湿地は、僕が水中撮影をしている場所から歩いて1〜2分の場所にあるが、そちらは湧水があるわけでも、水の通り道になっているわけでもなく単なる水たまりなので、もしもイノシシがそこを掘らなくなってしまったら、やがて埋まってしまい、水はなくなり、サンショウウオの産卵もなくなってしまうことだろう。
 悪役を見つけ出し、寄ってたかって徹底的にその悪役を世間が責めるようなケースが、最近多過ぎるような気がしてならない。

【お知らせ】
白野江(しらのえ)植物公園にて、写真展を開催します。是非、御覧ください。
期間  〜2月21日( 日) 
内容  野村芳宏 西本晋也 武田晋一による3人展

 

2010.2.12〜13(金〜土) 野外


OLYMPUS E-620 ED 9-18mm F4.0-5.6(改造)

 アカガエルの卵を撮影していると、時々水中の落ち葉がゴソゴソと動き、カスミサンショウウオが姿をみせる。
 ところがサンショウウオは、すぐにまた姿を隠してしまうので、なかなか写真を撮ることができない。
 この画像は、水に沈んだ木の枝の下に隠れていたサンショウウオの尾っぽをチョンチョンとつつき、慌てたサンショウウオが姿を現したところを撮影したものだ。


OLYMPUS E-620 ED 9-18mm F4.0-5.6(改造)

 以前は、カエルの卵の撮影と言えば、水槽の中に自然を再現し、そこに卵を入れて撮影する水槽撮影だった。
 だがある時、カメラを水中に沈めてニホンアカガエルの卵を撮影してみたら、その景色の虜になった。
 水槽を否定するつもりはまったくないし、それどころか、卵の中でオタマジャクシの体が出来上がっていく細かな様子などの中には水槽でしか撮れないシーンもあるのだが、その日以降、僕は水槽撮影をする気になれずにいる。
 ここのところは人によって好みが分かれるところだが、野外での撮影の場合、姿勢がきつくて体が疲れたり、今の時期なら手が冷たかったり、寒かったり・・・、と撮影に肉体的な苦労が伴うが、それでも僕にとっては、野外での撮影の方がスタジオでの撮影よりも全体としては苦痛が少ない。例えば、金魚の産卵の様子を撮影するために真っ暗なスタジオで待機するのは結構堪えるのだが、野外でカエルが産卵をするのを待つのは、さほど苦ではない。

【お知らせ】
白野江(しらのえ)植物公園にて、写真展を開催します。是非、御覧ください。
期間  〜2月21日( 日) 
内容  野村芳宏 西本晋也 武田晋一による3人展

 

2010.2.11(木) 泥まみれ


NikonD700 AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G ED SILKYPIX

NikonD700 AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G ED SILKYPIX

 ぬかるんだ場所での撮影の際にカメラが泥まみれになってしまう一番の原因は、カメラが直接湿地に触れてしまうことよりも、まず衣服に泥が付き、そこにカメラが接触してしまうことだ。
 そんな時、僕はいつも、生活防水程度の防水処理が施されたカメラやレンズやストロボがあったらなぁと思う。そうすれば、機材は後でシャワーで水洗いをすればいい。
 今市販されているカメラでは、オリンパスのE-3を含めたシステムがそれに近い。
 そんなカメラを欲しているのは、報道の人と一部のネイチャーフォトグラファーくらいだろうから、注文時に追加料金をすれば市販の機材に防水を施して出荷してもられるようなシステムでもいい。
 僕が使用しているカメラのメーカーでは、おそらくキヤノンは体質的にそんなことはしないだろうから、もしもニコンがそれを可能にしてくれたなら、カメラ一台につき10万円余分にお金がかかっても、迷わずにお願いするだろう。
 自動車がそうであるように、カメラも発注時に注文するオプションをいろいろと準備すればいいのに、と思う。


NikonD700 AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G ED SILKYPIX

 撮影や写真の仕事に関して、
「マメですね!」
 と人に言われることがある。
 だが僕は決してマメではないし、それどころか、実は恐ろしいほどの無精者だ。
 そんな極めつけの無精者が、自己責任のフリーの写真家の世界でちゃんと仕事をこなすためには、いったいどうしたらいいのだろうか?
 その答えは、面倒ではないやり方を考えること。
 たとえば僕の場合、カメラやレンズは、いつもすべてカメラバッグに入れたまま。だから、写真を撮るからといって特別に何か準備をすることはないし、そのバッグさえ持てば、すぐに撮影にでかけられるようになっている。
 だが、バッグに機材を入れたままにするとカビが生えることがある。そこで今度は除湿器をかけ、一部屋丸ごとを除湿する。除湿器は常時運転にして、排水は、壁に穴をあけて屋外に捨てるようになっている。。
 機材をいちいち棚に収納するようなやり方をしていると、僕クラスの無精者の場合、機材をバッグに詰めることが面倒で、ならば出かけるのをやめるか、となりかねない。

 さて、ニホンアカガエルが産卵にやってくる水辺の中に立ち入ると、水が濁って写真が撮れなくなる。だから、池の上に足場をかけて、そこからカメラを構える。
 だが、足場を車に積んだり下したりするような作業は大変に面倒だから、今シーズンはその池での一通りの撮影が終わるまでは、足場は、車に積んだままにすることにした。
 がしかし、それをすると今度は走行中に足場が落ち、他人を傷つけたりする危険性もあるから、今日は足場をいかに上手くくくり付けるか、いろいろと試行錯誤をした。
 ポイントは、「簡単にくくり付けることができ、しかも落ちにくい」である。
 不思議なことに、そうして横着をするための手間は、僕には全く面倒ではないし、それどころか、楽しくさえある。
 
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期間  〜2月21日( 日) 
内容  野村芳宏 西本晋也 武田晋一による3人展

 

2010.2.10(水) 今年最初の産卵

 生ぬるい雨。今日は、2月とは思えないほど温かい。
 僕は前日の夜から、森の中の水たまりでカエルたちが現れるのを待った。恐らく今日が、今年最初に、そこにニホンアカガエルの卵が産み落とされる日になる。
 カエルたちがやってくる水辺には、ちょうど今、真新しいイノシシの痕跡がある。蹄の跡や泥を浴びた跡・・・
 水辺でカエルを眺めていたら、対岸の森からゴソゴソという音とともにイノシシが近づいてきたが、人の存在に気付いた彼は、「ブー」と一声鳴き、また森の中へと消え去った。

 撮影は、産卵行動が始まる深夜に及ぶ。
 そして撮影を終え、くたくたになって帰宅をしたあとは、本当ならそのままベッドに直行したいところだが、道具の手入れが待っている。
 湿地に這いつくばって写真を撮ると、全身が泥だらけになるし、カメラもいつの間にか、泥を浴びる。僕のカメラは、湿地での撮影のたびに、恐らくほとんどすべての人が、「カメラっって、こんなに泥を浴びても大丈夫なの?」と仰天するくらいにひどく汚れることになる。



NikonD700 AF-S VR Micro-Nikkor ED 105mm F2.8G(IF)
SILKYPIXにてRAW現像

 ニホンアカガエルのオスは、ちょうどこの季節、温かい雨が降るような日に、日暮れと同時に姿を現す。オスはだいたい陸の方を向き、森から遅れて水辺にやってくるメスを待っている。
 時々、ククククと小さな声でないたり、オス同士がじゃれ合うような姿もみられる。


NikonD700 AF-S VR Micro-Nikkor ED 105mm F2.8G(IF)
SILKYPIXにてRAW現像

 深夜になると一回り大きなメスが姿を現す。オスはメスにすぐに気が付き、抱きつく。


NikonD700 AF-S VR Micro-Nikkor ED 105mm F2.8G(IF)
SILKYPIXにてRAW現像

 水に沈んだ落ち葉の裏側から、カスミサンショウウオが姿を現した。

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期間  〜2月21日( 日) 
内容  野村芳宏 西本晋也 武田晋一による3人展

 

2010.2.8〜9(月〜火) 急がばまわれ

 大学院を修了する年、僕は、「プロの自然写真家になりたい」、と昆虫写真家の海野和男先生に相談をしたのだが、先生は、
「まずは、仕事になりやすい売れ筋の写真があるから、それを撮ってたくさんの仕事をして自分の地位を確立し、次にそこを足掛かりに今度は自分らしさを表現した作品を発表していくようなやり方が、おそらく一番早いと思うよ。」 
 とアドバイスをしてくださった。
 そしてそのアドバイスは、僕にとって、大変にありがたいものだったと近頃しみじみ思う。
 というのも、僕は大学院に2年間通ったため、大卒の人に比べると写真家としてのそれだけスタートが遅いことになるし、高卒の人と比べれば、さらに遅れてプロへの道を歩みだしたことになる。
 一方で写真の世界では、学歴などはあまり関係がない。
 だから僕は当初はその遅れに対して大変な焦りを感じていたし、その焦りから、やり方を間違える可能性が大いにあったと思うのである。
 だが先生が教えてくださったことは、目先のことにとらわれず長い目で見た時に一番近道になるやり方であり、急がば回れといったことだった。
 そしてやがてこの世界で仕事をする機会を与えられ、仕事をすればするほど、やっぱり急がば回れだなぁと痛感させられることが多い。
 いや、それは仕事に限った話ではなく、生活全般について言えることなのだ。


NikonD700 Ai Nikkor 20mm F2.8S  SILKYPIXにてRAW現像

 さて、うちの事務所の建物は2階建てなのだが、2階はボロボロで床が抜ける可能性が高いため、使用していない。
 だが今回、その2階を使用できるように、床を張り替えることになり、ついにその工事が始まった。
 というのも、現在使用している一階の床が、あちこちのかなり広い範囲で抜け始めているのだ。
 かといって、1階を修理するためには、物を退けなければならないし、すると、仕事ができなくなってしまう。そこで、まずは先に2階をリフォームし、2階も使えるようにした上で、次に1階に手を入れることにした。
 建物は元々は長期間放置された空家だったので、最初は1階も使えない状態だったから、そこに手を入れて使えるようにしたのだが、その時に安上がりにすることばかりを考え、目先のことに捉われたのが、恐らくこんなに早く床が抜ける原因になったのだろうと思う。
 また、僕の関与の仕方も悪かった。だいたい使えればいい、と業者の人に任せてしまったのだ。
 とにかく、ちょっした横着が、結局面倒な結果になった。

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白野江(しらのえ)植物公園にて、写真展を開催します。是非、御覧ください。
期間  〜2月21日( 日) 
内容  野村芳宏 西本晋也 武田晋一による3人展

 

2010.2.7(日) 子供たちの感想

  白野江(しらのえ)植物公園での写真展を、小学生の子供たちが見に来てくださり、僕のカモの写真は、
「かわいい。」
 ととても人気があったそうだ。一方で、西本さんのトンボの写真の一部は、
「気持ちが悪い。」
 と子供たちには不評だったらしい。
 そうした子供たちの意見が書かれた感想文が残されている、と先日伝え聞いた。
「いかんなぁ〜」
 と思う。
 出版やテレビの報道などを見ていていつも思うのは、自然のある一面だけを極端にとらえているということ。たとえばスズメバチなら、ただひたすらに凶暴な昆虫として取り上げられるし、逆に美しい生き物のなら、その美しさの部分だけが取り上げられている。
 出版や報道がそうしたくなる気持ちは、僕も出版にたずさわっているのだから分かる。何かを言い表す時には言いたいことをはっきりさせ、これはこうだ!と言い切ってしまった方が受けやすい。
 だが、自然界はいろいろなものが集まって一つになり成り立っているのだから、気持ちが悪いものもあれば、怖いものも、美しいものもあるのが真実であり、そのある一面だけを極端に取り上げすぎるとそれは人をミスリードするし、有害でさえある。
 かわいいカモの写真なら良くて、気持悪いトンボの写真はダメ、というのも、そうした傾向の悪影響ではないのか、と心配に思う。
 そう言うと、
「そうですとも、私も同感です!きれいなだけの写真やかわいいだけの写真なんてつまらないと思います。」
 とよく言われるのだが、僕はそんなことが言いたいのではない。何かを見て、きれいだとかかわいいと感じる心も、人間にとってとても大切なものだと思うのである。その人は、詩歌や絵画を否定するつもりなのだろうか。
 詩歌や絵画を味わうことができない人に、自然を語ることなどできないような気がする。
 かわいい写真を見て、
「わぁ、かわいいね。生き物って素敵だね」
 と。
 そして今度は生き物の食う食われるなどのシーンを見て、
「ああ、これが自然なんだね。」
 と言ってもらうためには、いったいどうしたらいいのだろうか?

 今は、子供たちに対してはテレビが圧倒的に大きな影響力を持っているのだから、報道に携わる人の中に本格的な自然愛好家がもっと増えて欲しい、と僕は望む。
 自然写真家は、もしかしたら努力不足なのかもしれない。 
「自然界はきれいなものだけではない」
 と主張する写真家は多いが、大半の人がそこで立ち止まっており、きれいなもの以外のものをどうしたら人に見てもらえるのか、それを考え、実践している人には、滅多にお目にかかれない。
 僕はこれから、何とかして今の自分のそんな状態を打ち破りたい。
 
【お知らせ】
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期間  〜2月21日( 日) 
内容  野村芳宏 西本晋也 武田晋一による3人展

 

2010.2.3〜6(水〜土) 組織

 仕事として生き物の写真を撮る、といっても色々なスタイルがある。フリーの写真家というスタイルもあれば、生き物の調査の仕事をしながら写真を撮っている人や、中には生き物を紹介するような公の施設に勤めながら写真を撮っているような方もおられるようだ。
 そして僕の場合はフリーの写真家を選択したが、それにはただ単に生き物が好きということだけではなく、組織が嫌いということが大変に大きな動機になっている。
 僕の組織や団体嫌いは、生半可なものではないのだ。

 そんな僕が、野村芳宏さん西本晋也さんと一緒に写真展を開催することを不思議がる方もおられるが、確かに、組織や団体が嫌いだといってフリーの写真家を選んだ者が、好き好んで3人でイベントを開催するなど、矛盾しているように感じられるかもしれない。
 だが3人と言っても、僕ら3人はみんなで1つというわけではなくそこにはちゃんと一人一人の独立した人間がいて、1対1の人間関係があり、役割分担や分業はないから、いわゆる組織や団体ではない。
 いや厳密に言えば、展示作業などの際にはたまには作業の内容上3人で分業をすることもあるが、仮に分業をしても、野村さんは自分の分担の部分だけでなく展示作業全体のことを考えてくださるし、西本さんも僕も同様に全体のことを考える。
 僕は、人と付き合うのであれば、1対1の関係が成立し、自分の目で全体を見渡せる範囲内で付き合いたい気持が強い。
 また、仮に何かの仕事で歯車の一枚になるとしても、一枚の歯車の役割を果たしながら、やっぱり仕事全体を眺め、仕事全体に興味を持ちながら参加をしたい。
 仕事は、自分が本当に心をこめて取り組める範囲内に留めておきたい気持ちが強い。仮に、僕が飲食の仕事をして店がヒットし繁盛しても、その店をチェーン展開することは考えないだろう。
 チェーン展開を否定するつもりはないし、むしろ、人は組織を作り分業をすることで作業効率を高め、今の豊かな生活を手に入れたのだと言える。
 だから、自分はそうしたい、とただ単なる好みを主張しているに過ぎない。
 もちろん僕だってたまに組織にかかわることもあるが、どんなに頑張ってみても、僕はそこで人と接しているという実感が持てずに、どこかむなしいのだ。

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期間  〜2月21日( 日) 
内容  野村芳宏 西本晋也 武田晋一による3人展

 

2010.2.1〜2(月〜火) 雨の日

 ここ数年、僕は写真仲間のみなさんと一緒に小さな写真展を開催していることは、この日記の中でも時々紹介しているが、今朝はその写真展の準備に行ってきた。昨年の夏から、北九州市の平尾台自然観察センター山田緑地グリーンパークと巡回中の写真展は、次回白野江(しらのえ)植物公園での開催になる。メンバーは野村芳宏さん西本晋也さんと僕の3人だ。

 さて、写真展の準備の日が雨降りになったものだから、僕は気が気ではなかった。
 これが昆虫の写真家なら、雨降りの日は撮影はお休みなのかもしれないが、水辺の生き物には雨をきっかけに動き出すものが多いから、雨の日にはどうしても現場に行きたい。
 また、今僕が試みているように環境という視点で自然を見つめようとすると、雨は非常に重要な存在であり、雨を抜きにして日本の環境を語ることなど、あり得ないとさえ言える。
 ところが、雨の日に体を空けておくことは、やってみると結構難しい。というのも、雨の日は晴れや曇りの日ほどは多くないし、しかもいつ降るのかが分からないから。
 天気予報があるじゃないかって。
「最近は天気予報がよく当たるようになった。」
 、という人が結構おられるが、それは恐らく大雑把な話であり、僕のように、何時にどれくらいの雨が降るのかまでもを細かく予測したい者にとっては、天気予報は本当に当たらない、僕を振り回す悪女のような、実に怪しからん予報なのだ。
 そもそも雨は写真に写りくく、僕が思い描くような雨の写真が撮れるのは雨降りの日の中でも限定され、年に数日しかないだろう。
 僕は日ごろ、なるべく人と約束をしないようにしているのだが、それは、その数日を絶対に逃したくないからなのだ。
 写真展の準備終了後、雨降りの水辺へとすっ飛んで行ったことは言うまでもない。


NikonD700 AF-S VR Micro-Nikkor ED 105mm F2.8G(IF)

NikonD700 AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G ED

 この水辺は、秋〜冬にかけて水がほとんどなくなり、水辺というよりは湿地になる。そしてその湿地には、イノシシが泥を浴びるためにやってくる。
 イノシシが泥を浴びると、そこがまるでブルドーザーでえぐったかのように深くなる。下の画像の水が特に濃く濁っている部分は、イノシシが泥を浴びる際に深く掘られた場所だ。恐らくイノシシは、画面の右奥から湿地に入り込み、泥を浴びながら、土を掘りながら、画面手前の方向に進むのに違いない。
 こうした湿地は放っておけば泥が流入し、どんどん浅くなっていくが、イノシシが底を掘ることにって水深が保たれる。
 そしてちょうど今の季節、まとまった雨が降った日に、その一日を境にして湿地は水辺へと逆戻りし、そこにニホンアカガエルやカスミサンショウウオが卵を産み落とす。
 この場所では雨のタイミング・量は大変に重要なものであり、僕は自分の生活をそれに合わせなければならないのだ。
 いや、合わせたいのである。

   
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自然写真家・武田晋一のHP 「水の贈り物」 毎日の撮影を紹介する撮影日記 2010年2月分


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