今月の水辺 / 御輿来海岸

NikonZ7U
NIKKOR Z 24-120mm f/4 S
(撮影機材の話)
最近、風景の撮影で、角型のレンズフィルター、特にハーフNDフィルターを使用する人を、よく見かけるようになった。ハーフNDフィルターは画面の上部だけを暗くしたい場合に使用することが多く、具体的には今月の写真の場合、干潟を程よい明るさに写すと、空が明るくなりすぎて真っ白になるので、それを防ぐために空だけを暗くして、干潟も空も適切な明るさで写したいような時に使う。だが僕は、それらのフィルターは使用せずに、すべてを画像処理で対応している。今のところ、ハーフNDフィルターがあったらな・・・と感じたケースは過去に一度もない。ただし、その場合、画像処理の技術が求められる。

撮影後記 

 熊本県の御輿来海岸は、夕焼けの景色が大人気の場所だ。夕暮れの時間帯と干潮の時間帯とが重なる日は、不思議な紋様の干潟が赤く染まり、大変に美しく、『絶景日』と呼ばれる。
 絶景日には、たくさんのカメラマンがやってくる。
 その絶景日に、僕は、大の苦手の人ごみに絶えながら写真を撮ったものの、帰宅をしてしばらくすると、「違ったな」という感情がこみ上げてきた。
 その日僕が撮影した写真は、夕景の写真であり、干潟の写真ではなかったと。
 僕は、夕日を駆使して絵画としての写真を撮りたいのではなく、生き物がたくさん住んでいる干潟を表したいと思った。
 干潟そのものを表したい場合、夕方のドラマチックな光は、むしろ邪魔になる。もっとオーソドックスな光で写真を撮りたい。
 そこで夕刻よりも前のまだ日が高い時間帯に御輿来海岸が干潮を迎える日、つまり絶景日ではない日をあえて選んで、再度出直した。
 すると、カメラマンは僕一人。
 あくまでも僕の感覚ではあるが、海釣りをする人でもなければ、多くの日本人は潮の満ち引きなどほとんど気にせずに暮らしている。
 したがって、海のことを知らずに、絶景日ではない御輿来海岸にやってくる人が多少はいるに違いないと思い込んでいた。
 ところが、そうした人が見事なくらいに一人もいないということは、御輿来海岸にやってくるほとんどの人が、市の観光協会が発信している絶景日のお知らせを見て海岸に来るのだろう。
 特にスマートフォンが普及して以降、インターネットを使った発信の威力は、目を見張るものがある。
 ともあれ、風景写真の場合、どこに三脚を立てるかがとても重要な要素だが、瞬時にいい場所を見つけ出せるわけではなく、写真を撮りながら少しずつ修正していくことが多い。
 その際に、他に写真を撮っている人が大勢いると、試行錯誤が出来にくい。
 例えば、試し撮りの結果、ちょっと違うような気がするから少し移動してみようかと動いたものの、やっぱり元の場所の方が良かったと思っても、元の場所にはすでに人がいる、みたいなケースが、人が大勢いると起きてしまう。
 その点、僕一人なら、存分に試すことができる。
 言うまでもなく、あくまでも干潟が紛れもない主役になるように。そして、木の位置、山の位置は、主役を決して妨げないけど、その場の雰囲気を伝える上でいい味を出すような立ち位置を探してみた。

 撮影中に、近くで草刈りをしていたおじさんは、おそらく、管理人さんだ。
 あたりは海に面した畑、あるいは元畑で、立ち入りは許されているものの、畑の石垣を壊さないように通ってはならない箇所がある。また、絶景日にはたくさんの人がやってくるので、管理をする人が必要になる。
 そのおじさんか、
「今の時間帯はあっちの方がいいよ。」
 と声をかけてくださったのだが、すでに三脚を立てていた場所に不満はなく、どうしたものかと迷った。
 せっかく声をかけてくれたのに試さないのは申し訳ない。
 かといって、自分の撮影のペースを乱したくもない。
 結局、昔、昆虫写真家の海野さんが、
「いいカメラマンはみんな頑固で、僕の言うことを聞かない。」
 と嘆いておられたのを思い出し、僕も頑固にいこうと、そのままの位置で撮影を続ける判断をした。
 ただし、おじさんには、
「ありがとうございます!あとで試してみます。」
 と自分なりに100%の笑顔で返事をした上で。
 
 
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺・2026年4月分


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