今月の水辺 / 紅葉の谷と霧

NikonZ7U
NIKKOR Z 24-120mm f/4 S
(撮影機材の話)
僕は風景の撮影にはワイドズームを使用することが多く、以前所有していた標準ズームの24-70mmは滅多に使わなかった。ところが24-120mmを入手して以降は、標準ズームを使用する機会が増えた。とは言え、70mm〜120mmのあたりはほとんど使っていないので、僕の場合は、24-70mmでも十分だったはず。それを思うと、NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sは、なぜかつい手に取ってしまうレンズということになる。道具の選択には、合理性では説明できない、撮影者の気分としかいいようがない何かが付きまとう。

撮影後記 

 今年の秋は、生き物の瞬間を撮影するための遠征が立て続いた。
 生き物の瞬間を撮影するためには、まず最初にその生き物を見つけ出し、さらに撮影したい行動の瞬間に自分が立ち会わなければならない。
 そのためには、日時や場所が重要であり、気軽に見に行ける近所ならともかく、遠方でそれらを的中させるのは、なかなか難しい。
 特に近年は、秋に気温が下がる時期が以前よりもずっと遅く、過去のデータが役に立たないケースが多くなってきた。
 計画や準備の段階で、判断に苦しむケースが増えた。
 そんな時に大切なことが2つある。
 1つは、どんなに準備をしたところで、所詮なるようにしかならないと諦める潔さで、あとの1つは、逆に最後まで粘る粘り強さだ。
 その相反する2つを同居させようとすると、気持ちが、諦めたり頑張ったりと行ったり来たりするはめになり、大変に疲れる。
 疲れる取材が続くと、やがて、撮影は難しいと身構えるようになる。
 身構えると、撮影に出かける時に、まるで学生が受験にでも向かうかのような緊張感と悲壮感がただよい始める。
 こうなると、楽しいことまでが苦痛になり、悪い流れになる。
 そこで今月は、難しい撮影で染みついた緊張感を取り除くために、気軽な撮影も計画してみた。
 具体的には、中国地方の優美な滝をいくつかリストアップして、のんびりと車内泊をしながら写真を撮ることにした。
 風景の場合、生き物と違って逃げないので、行ってみたものの被写体が見つからなかったケースは滅多にない。したがってカメラを構えることくらいはできるだろうから、その気楽さが緊張を取り除くと考えた。
 まずは手堅く、過去に気に入った写真を撮った滝に行ってみた。
 ところが到着すると、水量がとても少なくて、撮影どころではない。さらに、以前に比べると滝の周辺の木々が大きくなっていて藪の様相を呈していた。
 楽に撮影するどころか、手も足もカメラも出すことができなかった。
 とにかく写真は撮れると楽観していた反動で、ひどくくじかれる感じがした。
 仕方がないので、別の、これまた実績がある滝に行ってみたら、今度は遊歩道が立ち入り禁止になっていた。
 近年多くなった豪雨の際の氾濫で道が崩れてしまったのだろうか?
 相手が生き物なら、状況が悪くても、どこかに撮影可能な個体がいるんじゃないかと頑張ることができるけど、滝の撮影では、立ち入り禁止と言われたなら、頑張ることさえ許されない。
 滝の入り口は大きな公園の中にあり、公園の駐車場に車を止める際にはお金を支払わなければならなかった。
 わずかな金額ではあったが、腹立たしいようなむなしいような気持ちがこみ上げてきた。

 滝でケチがついたので、残りの滝の撮影はすべてキャンセルすることにした。
 翌日は予定外の渓谷へと向かい、高いところから谷を見下ろしてみることにした。
 天気の予報は晴れ。
 ということは、早朝に霧がでる可能性が高いので、霧を生かした写真を撮ろう、とまだ薄暗いうちに現場に到着した。
 はたして、お日様が山を越え、その日最初の光が差し込むと、光が当たった箇所にふわっと霧が出た。
 明るくなってみると木々の色合いも悪くないし、つきが巡ってきたに違いないと胸が高まる。
 ところが、霧はあっという間に過度に濃くなり、一帯は真っ白で、撮影どころではない。
 これまたくじかれる感じがしてガッカリ感がこみ上げてくるので、今回は何も撮れなかったとしていいじゃないか!と諦めることにした。
 どうせ他に行くところもないし、行き先の候補を思いついたとしても運転は疲れるし、日が高くなるまでぼんやり過ごそうか、とただ待った。
 するとやがて、一時的に雲がかかる時間帯があり、日が当たらなくなくなると霧が消え去った。
 そこで、谷の風景を数枚撮影してみたのだが、今度は平凡で面白くない。
 最後の希望は、また太陽が顔をのぞかせた時に、今度は濃すぎない程度の霧がでて、谷の景色に一味加えてくれることだった。
 果たして、雲が通り過ぎると、短時間ではあったがほどよい霧が出て、一枚の写真を完成させてくれた。
 それにしても、写真撮影って難しいものですね。
 
 
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2025年11月分


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