今月の水辺 / 砂浜にて

NikonZ7U
NIKKOR Z 24-120mm f/4 S
(撮影機材の話)
24-120mmのズームレンズはよく使用される一般的なレンズだが、僕にはあまり縁がなく、買って本格的に使用したのは、実はニコンZが初めて。使ってみて感じるのは、非常に使い道が多くて、持つに値するスペックだということ。僕の場合、120mm側はほとんど使わないので24-70mmで事足りると思っていた。だが仮に120mm側は不要だとしても、一応ズームしてみることで、少ない手間でその画角を確認できる良さがある。あまり使わない画角だからこそ、ついでに、手軽に確認できるのがありがたい。

撮影後記 

 スナガニが巣穴からでてくるところを撮影するために、遠隔地操作できるカメラを、カニの巣穴の付近にセットした。
 カニを脅さないように、5M離れた場所で、シャッターを押すことにした。
 カメラをセットする際には、当然、カニは僕を怖がり、穴に隠れこむ。
 そのカニの警戒心が解け、再び出てくるまでの時間は、状況やカニの種類によって異なるが、この日はとても長かった。
 こんなに時間がかかるものかな・・・
 カメラを置く前に遠くから双眼鏡でカニの出入りを確認したつもりだったけど、間違えて空き家にカメラをセットしたとか・・・。
 迷いが生じた時の待ち時間は、ひたすらに長く感じられる。
 もしも巣穴が空き家なら待つのは時間の無駄なので、いったんカメラを撤去して、巣穴への出入りの確認からやり直そうか。
 でも、単にカニの警戒心が強くて時間がかかっているだけなら、仕切り直しをすると、全体に時間が遅くなってしまう。その結果、カニが出てきても、太陽の位置が僕の希望の位置を通り過ぎている可能性がある。
 いっそうのこと、また明日の早朝にでも出直そうか?そうすれば、理想の時間帯に撮影ができるのではなかろうか。
 いやいや、今日の空はとてもきれいだし、カニの巣穴〜空までが写り込んだ写真を撮るには絶好のチャンスじゃないか、と一人砂浜で迷い続けた。
 景色がきれいやなぁ。
 ふと、風景の写真を撮りながら、カニを待つことを思いついた。
 写真を撮っていると、時間が過ぎるのが早く感じられるから。
 幸いにも、巣穴の前にカメラをセットする際に、三脚を使用せずに直に砂浜に置くやりかたを選んだので、風景の撮影には不可欠な三脚があまっている。
 僕は、カニを脅さないようにゆっくりとした動きで、そっと三脚を浜に構え、予備として持っていたあと一台のカメラを取り付け、大まかに構図を整えた。
 さて、目の前の景色の中で、僕の心をひきつけているものは何だろう?
 それを確かめるために、浜をテーマにした写真、波をテーマにした写真、雲をテーマにした写真と一通り写真を撮ってみたのだが、どれも違う。
 ならば、と浜や波や雲が入り混じり、何かと何かがぶつかっているイメージを撮影することにした。
 そうした漠然とした写真は、分かりやすいテーマの写真と違って、最初から最後までとにかく写真を撮ってみなければわからないところがあるが、どっちみちカニを待っているのだから、時間はたくさんある。
 むしろ時間がかかってくれた方がありがたい。
 もはや、カニも待ち時間に風景を撮影しているのか、風景の待ち時間にカニを待っているのかがわからなくなってきた。
 そうこうするうちに、カニが、巣穴から少しだけ顔をのぞかせていることに気が付いた。
 ああ、やっぱり空き家じゃなかった。出てきた出てきた。
 カニを横目にみつつ、風景撮影用のカメラの構造を変えようとカメラにそっと手を伸ばしたら、カニは引っ込んでしまった。
 5Mも離れているのに、なかなかに警戒心が強く、長時間穴に隠れていたのがうなずける。
 そこで風景の撮影を中止にして、今度は、カニだけを待ち、無事、カニも撮影することができた。
 カニの撮影だけでも待てないし、風景の撮影だけでも待てないしで、同時に二つの撮影をすることで、どちらも撮影することができた。
 二兎を追う者は一兎をも得ずという言葉があり、僕はこの格言の信者だが、時々その逆もあり、二兎を追うことで、一兎が撮れることがある。
 
 
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2025年9月分


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