今月の水辺 / 湧水池

NikonZ7U
NIKKOR Z 17-28mm f/2.8
(撮影機材の話)
ちょっと前に購入したレオフォトの三脚・LS-284CLinが実に使いやすい。風景の場合、三脚は高さが欲しい。また、ある程度以上の強度も欲しい。一方で、山道を長距離を歩くこともあるので、重たすぎるのは困る。そのバランスが、実にいい。この三脚は、長く使うことになる予感がする。レオフォトの三脚は、フランスのジッツオの三脚をお手本にしつつ、そこに日本製の三脚の手触りの良さを加えた感じがする。日本の三脚メーカーは大きく衰退してしまった感があるが、なぜレオフォトのような製品を作れなかったのだろう?

撮影後記 

 山口県のため池で水中写真を撮った帰り道に、あと一ヶ所、別の池にも寄ってみた。
 場所は、山口県の美祢市。別府弁天池と呼ばれる名の知れた湧水池だ。
 ちょうど暑さの盛りということもあり、冷たい水を求めて涼みに来た人の姿が、僕が撮影をしている間中途切れることがなかった。
 あくまでも僕の印象だけど、自然系の観光地で自然そのものを見ようとする日本人は少ない。多くの人が、自然を見に来ているというよりは、イベントの一種として非日常を楽しもうとしているように感じられる。
 その傾向が、みんなあまり自然には興味がないのかなぁと思えて、さみしくなることがある。
 日本人に限ったことではなく、中国や韓国からのお客さんにも同じ印象を受ける。
 一方で、欧米から来たと思われる白人の観光客のみなさんは、地形を見てみたり、水を見てみたりと自然を見ようとする傾向が強い。
 ただ別府弁天池に関しては、日本の観光客のみなさんにも、ひたすらに青い水を見つめ続ける人が多い。
 弁天池で撮影をしつつ人間観察をしていると、ああ、みんなやっぱり自然に興味があるんやね、と希望のような何かを感じる。

 この日は、撮影中に、一匹のカラスアゲハが近づいてきた。
 羽化をしてずいぶん時間がたっているようで、羽はカラスアゲハ特有の金属っぽい光沢を失い、茶色い蛾のような色合いだった。
 蝶は、池の水面すれすれを飛び始めた。そして何度か、水浴びをするかのように、体を水にこすらせた。
 面白いな、と夢中になってみていたら、蝶を目で追いかけていたのは僕だけではなかった。
 あたりの観光客のみなさん全員が、蝶を注視していた。
 そもそも、池を見に来るような人だからかもしれないけど、みんなが蝶に関心を示したことがうれしかった。
 取り留めのない出来事だった。それは、僕以外の蝶を見ていたみなさんも、同じだったと思う。
 その証拠に、蝶が飛び去った後で、例えば「今見た?」みたいな感じで同行者と会話をする人は、一人もいなかった。
 けれども、妙に心に残った。
 意味があるような、意味がないような、まるで小説の中の1シーンのようだった。
 青み水も蝶も、見たことがなければ、多くの人にとって、二の次、三の次の存在である可能性が高い。
 でももしも目にすることができたなら、見れてよかったねと感じる人もたくさんおられるのではなかろうか。
 仮に取り留めがなく、会話のネタになるようなものではなかったとしても。

 生き物を実際に見たいとは思わないけど、本の中で見るのなら楽しいといった『本の中の世界』も、僕はありだとは思う。
 また、実際にそういう人がそれなりの割合いて、出版がビジネスとして成立している側面もあると思う。
 けれどもやっぱり、僕は、自分の目で見て欲しいと思う。見てはじめて感じられることがたくさんある。
 そういう意味で僕は、自分が撮った写真を自分で見て、さらにみたくなるだけでなく実際に自分が見に行ってしまうかどうかを、自分の写真を評価する際の1つの指標にしている。
  
  
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2025年8月分


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