今月の水辺 / 洞山

NikonZ7U
NIKKOR Z 17-28mm f/2.8
(撮影機材の話)
カメラやレンズが少々高価だったとしても、そんなものだろうとお金を出してしまいがちだけど、三脚が高価だと、購入の際に迷うことが多い。そこまで高価なものを買わなくても・・・と考えがちだ。だが撮影現場で「ああこれはいい!やっぱりいい物を持つべきだ」と感じることが多いのは、僕の場合、三脚である場合が多い。固定器具の品質が悪いと落ち着かないのだ。おまけに三脚は、非常に長く使える撮影機材なので、本当に気に入ったものを使うべきだと思う。今僕が使用しているのはレオフォトのLS-284CLin。風景写真家の林(りん)明輝さんプロデュースの製品で、風景の撮影には抜群に使いやすい。

撮影後記 

 北九州市の海辺にある小さな山・洞山に行ってみた。
 今月の写真には写ってないけど、洞山の土手っ腹にはトンネル状の穴が開いていて、その景色は観光地になっている。
 人がわんさかやってくる場所ではない。
 けれども誰かがポツポツやってくる。僕が撮影をした日にも、トンネルを見に来た人が何人か通りかかった。
 実は、去年まで北九州市に住んでいたにもかかわらず、洞山に行ったのは今回が始めてのことだ。
 写真では何度か見たことがあり、魅力的な景色だと思ってはいたものの、周囲に綱が張ってある点で写真の被写体としての魅力を感じず、足が向かなかった。
 綱が張ってあるのは、おそらくトンネルが崩落する恐れがあるのだと思う。
 ところが最近、Aiを駆使した画像処理をいろいろ試している最中に、綱が張ってある洞山の写真あえて撮り、綱を画像処理で消してみようか、という気持ちになった。
 綱を消した写真をどこかに発表するつもりはないけど、綱がない、より自然に近い景色を自分自身が見たいと思った。
 今月はそんなきっかけで洞山に行き、トンネルを中心に、しばらく写真を撮った。

 撮影の最中に、ふと、綱が張ってある以外にも、トンネルには人手が加わっていることに気が付いた。表面を舗装するかのように何かが塗られていて、固められていた。
 山肌に近い色に塗られているので、よく見なければわからないのだけど。
 そうなってくると、もはや洞山のトンネルは、僕が写真で表現したい何かではなかった。
 何だか騙されたような気がして、もやもやしてきた。
 もやもやしたままだと損をした感じがするので、色々と考えた挙句、それはそれで現実を記録しておくことも大切だ、と思い直して写真を撮り続けた。
 だがそれでも、払拭できない満たされない気持ちが残った。
 ところが帰りがけに、少し離れた場所から洞山を振り返ったら、何だこの不思議な景色は!と驚かされた。
 そもそも、こんなところになぜ、小さいとは言え山があるのか?名物であるトンネルは、この角度からは全く見えないけど、無性に写真を撮りたくなった。

 さて、トンネルに近づけないように綱が張られているのは、トンネルが崩落する恐れがあり、その際に事故が起きないようにであろう。
 僕は綱がない景色を見たいけど、人命にかかわる事故を防ぐために、綱は必要だと思う。
 では、トンネルの表面を舗装しているのは、何の目的だろうか?
 綱が張ってあるのだから崩落しても問題はないはずだとすると、普通に考えれば、トンネルの形を維持するためだろう。
 自然に対して人がすることを見ていると、人の社会は変化を嫌う。それまでの生活や権利関係などが壊れてしまうことを嫌う。
 中でも行政は、それが凝集された場所だと言える。
 今月の水辺をまとめていると、洞山が僕にとっての写真の対象ではないのは、単に綱とか舗装といつた物の問題や絵画性・美術性の問題ではなく、変化を極端なまでに許さない人の社会の対応を見たくないからだと気が付いた。
  
  
 
戻る≫
 

自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2025年7月分


のサイトに掲載されている文章・画像の無断転用を禁じます
Copyright Shinichi Takeda All rights reserved.
- since 2001/5/26 -

Top Page