今月の水辺 / 七重の滝

NikonZ7U
NIKKOR Z 17-28mm f/2.8
PL
(撮影機材の話)
水辺の撮影では、足回りがとても重要だ。よく見かけるのはただの長靴を履いている人だけど、歩きにくいのと滑りやすいのとでとても危ない。僕は必ず、釣り用の、俗にウェーダーと呼ばれる長靴を着用する。ウェーダーには、靴底がゴムになっているものとフェルトになっているものとがあり、渓流を歩く場合は、格段に滑りにくいフェルトを選ぶ。

撮影後記 

 七重の滝は、僕が住む直方市から山脈を越えた反対側の北九州市にあり、その名の通り、いくつもの滝が連続している。
 地元ではそれなりに名を知られた場所だが、撮影中に通りかかるのはもっぱら福智山に登る山登りの人たちであり、僕はまだ、カメラマンに出会ったことはない。
 車を止める場所から登山道の入り口までわりと距離があるのと、登山道の入り口から先が完全な山道になっているのは、カメラマンに好まれない理由になるだろう。
 だがそれ以上に大きいのは、七つの滝が、いずれも絵になる滝ではないことだ。
 ただ僕にとっては、子供の頃に何度も連れて行ってもらった場所であり、思い入れがある。
 また、子供の頃に夢中になった渓流釣りの対象魚であるヤマメ(アマゴ)が、数は少ないけど釣れる可能性があったのも、七重の滝をより一層特別な場所にした。
 そこで、何とかして幼少期のあの憧れを、ほんの少しでもいいから写真に込められないかと、カメラを持って七重の滝に行ってみることにした。
 思い入れ以外にも、僕の写真撮影の技術は年々向上しているはずだ。だから、以前はこれといった写真が撮れなかった場所でも、今なら何か形にできる可能性があるじゃないか、という期待もあった。
 時期は、もともと絵になりにくい場所だけに、緑が一番きれいな5月を選んだ。
 果たして、久しぶりの七重の滝は、やっぱり難しかった。
 一の滝から丁寧に丁寧に見ていっても、写真で表現するにはあまりにも平凡なのだ。
「いい写真を撮るコツは、一場所、ニ物、三技術だ。」
 というある方の言葉が思い出される。
 写真撮影においては技術よりも機材が、機材よりもいい場所が物を言うという意味の言葉だ。
 僕は人が集中するような場所には撮影に行かないけど、多くのカメラマンが絵になる人気の撮影スポットに行きたかる理由は、よくわかる。

 七重の滝には、鎖を使って岩場を登る箇所がある。
 そこでは両手をあけるために、手に持っている三脚をリックに固定しなければならないのがちょっとだけめんどくさい。
 そこで今回は、鎖場を回避するう回路を選択した。すると、う回路にある、七つの滝には含まれない名無しの滝が妙に気になったので、カメラを向けてみた。
 いつもなら水量不足で撮影を試みたことさえない流れが、数日前の雨で変化のある流れと化していた。
 ただそれでも、絵になる撮影スポットとは、やっぱり勝手が違う。
 写真がなかなかまとまらないので、ああでもない、こうでもないと調整や修正に、やたらに時間がかかる。
 実は写真撮影で時間がかかるのは、しばしば、写真が撮れる時ではなく、何も撮れない時だ。
 何とかならないかと試行錯誤する時間が長くなるから。
 だが、それを理解してくれる人は多くない。
 仕事で写真を撮る場合は、基本的に成功報酬なので、思い通りの写真が撮れずに試行錯誤に時間や交通費がかかると、厳しいものになる。
 そんな時は、
「ああ、写真撮影の仕事が日当だったらなぁ。」
 などと思うことがある。
 それはともあれ、七重の滝での今月の一枚は、これがベストだった。
 
 
 
戻る≫
 

自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2025年5月分


のサイトに掲載されている文章・画像の無断転用を禁じます
Copyright Shinichi Takeda All rights reserved.
- since 2001/5/26 -

Top Page