今月の水辺 / ため池

EOSR7
RF-S10-18mm F4.5-6.3 IS STM
(撮影機材の話)
最近のキヤノンのワイドレンズの中には、最短撮影距離が極めて短いものがあり、小さな生き物の撮影に重宝する。RF-S10-18mm F4.5-6.3 IS STM もそんなレンズの一例で、メーカーの仕様書によると最短撮影距離は、「 AF時:0.14m (10mm〜18mm時)、MF時:0.086m(10mm時) 」となっている。キヤノンの他にはパナソニックのレンズが同様の傾向だ。そうしたレンズで小さな被写体をワイド接写すると、スマートフォンのカメラで撮影する時の感覚に近いと感じる。おそらくスマホでよく写真を撮る人がカメラを持った時に、スマホに近い感覚で、でもより高画質に撮影できるのを狙っているのではないかと思う。

撮影後記 

「ミサゴが、外来種であるブラックバスを捕まえているような写真が見たい。」
 と言ったようなことを、自然写真家の宮崎学さんが書いておられるのを読んだことがある。
 正確な文言を覚えているわけではないので、ミサゴとブラックバスは、もしかしたらカワセミとブルーギルだったかもしれない。
 ただきれいとかただかわいい生き物の写真ではなく、今自然界で起きていることに目を向けよという主張は、その通りだと思う。
 一方で僕には、そうではない写真を撮りたい気持ちもある。
 たとえばもしも風景を撮影するのなら、僕は、その画面の中に外来種は写っていて欲しくない。
 外来種がいるのが現実だ、というのはよく分かる。
 けどれども僕は、写真で現実を見せること以外に、日本の景色はこうであって欲しいという思いを発信したい気持ちがある。
 外来種の有無は一例に過ぎず、他にも風景を撮影する際には、人手の入り方などが気になり、
「ああ、ここいいな!ここお手本やな」
 と自分が感じた場所を見せたい気持ちが強い。
 中でも水辺にカメラを向けると、特にその気持ちが強くなる。水辺の場合、水による浸食があるのでどうしても人手を入れることが必要で、人手の入り方次第で、生き物が集まってくる水辺にも、生き物が住みにくい水辺にもなるから。
 さて、今月は、ヒキガエルの繁殖地でもあるため池の、水中風景の写真を選んでみた。

 写真を撮る時に僕が気にすることの1つに、一枚の写真の中の情報量がある。
 情報量が多すぎると、自分が伝えたいことが埋もれてしまい伝わりにくくなるし、情報量が少ない写真は、おもしろくない。
 したがって僕は、自分の主張が十分に伝わる範囲で、なるべく情報量が多くなるように写真を撮る。
 今月の写真の場合は、画面上部に陸上の景色を入れるべきか、あるいは水中の風景だけにするべきかを考えた。
 水中だけにすれば、カエルの卵が産み落とされた水中風景がより力強くなる。
 一方で陸上の景色を入れれば、このため池がどんな場所なのか、多少は感じられるようになる。
 これが水中撮影でなければ、多分僕は、2つの撮り方で迷ったら2つとも撮影してみると思う。
 ところが水中の場合、微妙な波や光の屈折の影響などで、陸上よりも撮影に時間がかかる傾向がある。
 したがって2つのパターンを撮影しようとするとどっちつかずになりがちなので、水中では、これぞ!という1つのアングルに的を絞り、それを一点突破することが多い。
 果たして今月の水辺では、陸の景色を多少入れてみることにした。

 陸の景色を入れた動機は、ため池の周りには木々やくさむらがあって欲しい、という僕の思いだった。
 カエルは水の中にいる印象が強いが、日本のカエルの多くは、普段は水辺の周りの陸地で暮らし、繁殖の時に水辺に集まってくる。
 したがって、水辺の周囲の陸地は生息地としてとても重要で、陸から水辺までが寸断されることなくきちんと連続しているような環境が好ましい。
 せっかくそんな条件が整った池で撮影するのだから、主役はあくまでも水中の風景だけど、池の周辺についても触れたいと思った。
 ただ、池の周辺の風景を入れすぎると、今度は何が主題か分からなくなる。
 ともあれ、僕の場合、個別の生き物にも興味があるけど、最も関心があるのは、『場』なのだ。
 
 
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2025年3月分


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