今月の水辺 / 冬の景色

NikonZ7U
NIKKOR Z 17-28mm f/2.8
(撮影機材の話)
寒い日の撮影では、防寒具は、もはや撮影機材の一部だと言える。寒さに耐えられなくて、これからというタイミングなのに引き上げるのは、他に例えるなら、カメラの電池がなくなったとか記録メディアが満タンで撮影ができなくなったのに匹敵する「残念」な準備不足だと言える。自然写真の場合難しいのは、「歩く」と「長時間待機する」の両方があること。待機する時には十分暖かい衣類が欲しいけど、それに合わせると歩くときに暑い。僕は薄手の化繊のつなぎを一番外側に着用し、なるべく少ない衣料で体の熱を逃がさないようにしている。

撮影後記 

 学生時代に初めて冬の北日本で撮影した際に、山の木という木がすべて葉を落としていて、そこに雪が積もっている景色に圧倒された。
 写真が撮れそうなスペースを見つけるたびに車を止め、何度も何度もその景色にカメラを向けるものだから、なかなか本来の目的地にたどり着けなかった。
 当時山口県に住んでいた僕は、山口〜九州で冬の写真を撮ろうとすることが、あほらしくなった。北日本の冬景色を見てしまうと、全く勝負にならないと思った。
 そのあほらしいという思いが覆されたのは、それからおよそ10年後に出版社で写真を見てもらった時だった。
 福岡県内の渓流沿いで撮影した、氷に閉じ込められたツバキの葉っぱの写真を
「こんな写真は初めて見ました。いい写真です。」
 と褒めてもらったのだ。 
 福岡県では多くても年に2〜3回しか降らない大雪の後、雪の重みで垂れ下がったツバキの葉に渓流の流れの水しぶきがかかり、ツバキの枝の一本が氷漬けになっている様子を撮影したものだった。
 褒めてくださったのは、小学館の島本脩二さん。
 島本さんと言えば、矢沢永吉さんの「成りあがり」や「日本国憲法」の企画〜編集が有名だが、自然物の写真集も多数手がけておられ、僕の憧れの編集者だった。
 確かに、冬の景色といえば北日本が圧倒的だけど、西日本には西日本の景色があるという当たり前のことに気付かされた。
 それからあと1つ、僕が、誰かが発表した冬の写真のイメージを後追いしていたことにも。
 憧れのイメージがあること自体は、決して悪いことではないと思う。また、憧れの地を踏むことは、とても素敵な時間だと思う。
 でも、写真を職業にする人間が自分の作品として発表する写真に関しては、誰かが見たものの後追いでは、物足りないと思う。
 
 さて、大雪から数日後、そろそろ雪による道路の麻痺が解消されて目的地付近まで車が走れるのではないか、と山口県内のため池に行ってみた。
 さすがにいつも車を止める池のほとりには積雪で近づけなかったので、ちょっと離れた場所にある道路沿いの休憩エリアに車をおいて、そこから歩いた。
 本来の目的地は、今月の写真に写っているため池のさらに奥にある小さな湿地だが、今回は、全面凍結したため池を、最も優先する被写体とした。
 カメラを向けてみると、わずかではあるけど緑が存在するのが、温かみがあっていいと思った。
 そう感じた途端にもっと色が欲しくなり、曇りだった空が青空に変わるまで待つことにした。
 三脚を立ててじっとしていると、小鳥の姿が目に飛び込んできた。ルリビタキだ。
 一層のことルリビタキの撮影に切り替えようと思ったけど、平地に近い大きなため池が全面凍結する機会は、山口〜九州ではあまりないし、景色の撮影に集中することにした。
 しばらくするとカメラのファインダーをのぞく僕の背中側から青空が近づいてきた。
 たのむ!このままため池の真上を通ってくれ!と心の中でいのった。
 果たして、青空はため池の真上を通過し、ついに山の端まで到達し、僕はカメラのシャッターを押した。
 すぐに、空はまた雲に覆われた。
 今度は、カメラバッグから望遠レンズを取り出して、野鳥にレンズを向けようとした。が、突然に空腹で我慢ができなくなり、その日の撮影を終え、車に戻って弁当を食べた。
 バッグに入る荷物の量の関係で、池に向かう際に、望遠レンズを取るか、弁当を取るか悩んだあげく望遠レンズを選んだのが、やっぱりどちらも必要だったようだ。
  
  
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2025年2月分


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