今月の水辺 / ボラの群れ

NikonZ7U
NIKKOR Z 24-120mm f/4 S
PL
(撮影機材の話)
24-120mm のズームレンズは、最近よく使うようになったレンズだ。以前は、ズーム比がより小さなレンズの方が設計に無理がない分画質がいいに違いないと 24-70mm を選んでいたのだが、もはやそんな時代ではなくなったらしい。最近の高倍率ズームの画質は実に見事。NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sに強いて不満を言うなら、最短撮影距離がもう少し短くなれば、と思う。

撮影後記 

 夜寝る前にインターネットのニュースをチェックしたら、ボラの大群が海から水路へと遡上している記事を見かけた。
 場所は、山口県の防府市。行けない距離ではないし、見てみたいなと思った。
 だが残念なことに、ちょうどスタジオで継続している重要な撮影があり、数日間は動くことができなかった。
 ところが翌朝、アクシデントがおきていて、継続してきたスタジオでの撮影がもう続けられない状況になった。
 そこで、これは神の思し召しに違いない、とスタジオでの撮影を立て直すより先に、ボラの大群を見に行くことにした。

 ニュースから一日たっているので、もう魚がいなくなっている可能性もあるけど、こればかりは行ってみなければわからないと車を走らせた。
 果たして、現場に到着して水路をのぞき込んでみたら、ボラの大群が目に飛び込んできた。
 やった!
 問題は、カメラマンにとって状況がとても難しいことだった。
 第一感でパッと撮影してみたところ、水路の川底が黒っぽい写真が撮れるものの、それが魚の大群であることが分からなかった。
 仮に100点満点のテストで合格点を70点だとすると、僕が試し撮りした写真は10点以下の話にならない写真だった。
 大学受験で言うなら、模試でE判定をくらったようなものだ。
 最終的に合格ラインに達するためには、経験的には、試し撮りの段階で50点くらいは欲しいところであり、非常に難しい撮影になることが予想された。
 仮に写真が撮れるとするなれば、それはどんなケースだろうと考えてみた。
 例えば、潮の満ち引きに伴い水路の水深が浅くなり、今は深い場所にいて見にくいボラが見やすくなれば、ある程度の写真が撮れる可能性がある。
 あるいは、今はまだ低い太陽が高くなり、水路の底までよく光が当たるようになれば、ボラが見やすくなる可能性は考えられる。
 いずれにせよ、状況が変わるには2〜3時間の待ち時間が必要になり、その間、ボラが海に下らず水路に滞在してくれることが条件になる。

 しかししばらくすると、これといった写真がまだ撮れていないというのに、ボラの大群は、水路を下り始めた。
 到着時にはもっと上流まで見られたボラが河口付近でのみみられるようになり、群れの密度もグングン低くなった。
 僕は内心諦めた。スタジオ撮影は失敗するし、交通費を使った挙句ボラは写らないし、やっぱり神の思し召しなんてないよね、と思い直した。
 往復の高速道路の料金とガソリン代を足せば、結構豪華なステーキが食べられるのに・・・
 まあ、悔いてもしかたがない、と終わりの挨拶のつもりで、水路にカメラを向け適当に数枚写真を撮った。
 すると、ボラの数がずいぶん少なくなっているにもかかわらず、写真の中のボラは、最初に試し撮りをした時よりもずっと存在感を増していることに気が付いた。
 おや?気のせいかな?
 いやいや、ボラの密度が低くなった結果、それまでは黒い何かの塊として写っていた群れが、魚だとわかるようになったんだ!
 諦めて帰宅をするはずが、一転して、その日の撮影の始まりになった。
 帰宅後にパソコンの大きな画面で画像を確認してみたところ、少なくとも「写った」と思える程度には、魚の群れが写っていた。
 スタジオ撮影の失敗は、やっぱり神の思し召しだったのかな。
 何の神様かは知らないけど。
  
  
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2025年1月分


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