今月の水辺 / 水中の地形

NikonZ7
NIKKOR Z 17-28mm f/2.8
水中ハウジング
(撮影機材の話)
広角レンズを水中で使用する際に使うドームポートは、大きい方が描写がいいと言われていて、僕は以前は、大きなものを使っていた。ところが大きなものは、岩にぶつけやすかったりカメラバッグに入りにくかったりで、どうにも煩わしかった。そこである時、イノン製のミニドームポートを買ってみたら、水中撮影に付きまとっていた煩わしさが軽減され、かつ十分な性能だった。理論的に高画質だとされているものにはついひかれるけど、過ぎたるは及ばざるが如し。自分が必要としているギリギリの機材を選ぶことができるのもまた、その人の腕前の一部なんだと思い知る機会になった。

撮影後記 

 秋にイワナの産卵行動を撮影するために、遠隔地操作用のカメラを産卵床の近くに置いておくと、流れてきた落ち葉がカメラにどんどん積り、やがてレンズ部分を覆い、撮影ができなくなる日がある。
 毎回必ずそうなるわけではなく、落ち葉がたくさん積もるのは、決まって風が強い日だ。
 強風で木から飛ばされた葉が渓流に着水すると、しばらく水流で運ばれたあげく、水が巻いているような箇所にたまり、やがて沈む。
 イワナが産卵をするのは、しばしば反転流があり水が巻いているような箇所であり、流れてきた落ち葉がカメラのレンズ部分を覆うと、イワナの撮影ができなくなる。
 それは困る、と落ち葉を取り除くために水辺に近づくと、イワナは警戒をして、数時間隠れこんでしまう。
 したがってそんな日は、撮影をあきらめることになる。
 撮影ができないのは、言ううまでもなく僕にとってがっかりなこと。
 だが、水中では風のことを頭に入れる必要はないと思い込んでいた僕にとって、風の影響は初めて知ることであり、面白いことでもあった。
 やがて僕は、水中の落ち葉を、狙って撮影するようになった。

 やってみると、僕の好みに合った。
 なんと言っても、同様のことをやっている人がほぼいないのがいい。
 近年は情報網が発達した結果、同じ場所や同じ被写体にカメラマンが集中する傾向がある。
 情報を駆使して撮影することがダメだとは思わないけど、僕は、それを自分の代表作として発表されると、もやっとする。
 その点、水中の落ち葉の撮影なら、人と被ることはほぼない。
 また仮に誰かと被ったとしても、その写真は、おそらく全く別のものになるだろう。
 市販の機材でそのまんま撮影することができないシーンの場合、何か自分で道具を工夫することになり、道具の選択には、その人が積んできたキャリアや好みがにじみ出て、それが独自の写真に結びつくから。
 昔、ある先輩が、
「もしも写真にこだわると言うのなら、被写体は自分の足で探すべきであり、有名な場所には行かないくらいの気概が欲しい。」
 と言っておられたのを時々思い出すことがある。
 インターネットが発達した今は、人と被らないのはさらに難しくなったことを思うと、「有名な場所には行かない」は極論かもしれないけど、自分の足で、自分の目で探すべし、という意見には、強く共感する。
 
 さて、水中の落ち葉にカメラを向けてみると、今度は水中の地形が気になるようになった。
 渓流というと、岩や石のイメージが強いけど、中には砂がたまっている箇所もあり、今回撮影した場所はその砂が、まるで砂丘のように山をこしらえていた。
 地形が違うと、今度は、住んでいる生き物の種類が違ってくる。
 何年前だったか、渓流釣りの際に淵の岸辺の岩の上に大量のヤゴの抜け殻を見つけたことがあった。
 あたりの水の中は細かい砂地になっていたので、おそらく砂地を好むヤゴが住み着いていたのだと思う。
 その日は魚が全く釣れなかったこともあり、何とか一匹釣りたいと先を急いだ結果、素通りしてしまったけど、今にして思うと、抜け殻を持って帰ってトンボの種類を調べておけばよかった。
 魚釣りは、魚に見つからないように写真撮影とはまた異なるルートを歩くので、撮影の時には気付きにくい何かを見つけるきっかけになる可能性がある。
 2025年は、撮影に加えて釣りも楽しんでみようかと思う。
  
  
 
戻る≫
 

自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2024年12月分


のサイトに掲載されている文章・画像の無断転用を禁じます
Copyright Shinichi Takeda All rights reserved.
- since 2001/5/26 -

Top Page