今月の水辺 / 小さな沢の魅力

NikonZ7U
NIKKOR Z 24-120mm f/4 S
PL
(撮影機材の話)
僕は普段、水辺での撮影の定番アイテムである偏光フィルターをあまり使わない。理由は、偏光フィルターを使うと被写体の色はでるけど、光の反射が失われてしまうから。僕にとって水の撮影の面白さは反射の面白さであり、反射を排除したくないのだ。だが、落ち葉をテーマに選んだこの日は、偏光フィルターを付けっぱなしにした。落ち葉の色の数がなるべく多くなるように撮影してみた。

撮影後記 

 僕の渓流釣りの師匠は、渓流は渓流でも、大きな流れや場所を好んだ。大場所を好むのは、大きな場所の方が、一般に大きな魚が釣れるから。
 師匠は釣りの時には手を抜かない人だったが、大場所にルアーを投げ込むときはいつにも増して真剣になり、ギアーが上がる感じがした。
 中には魚の小ささを競うような釣りや数を競うような釣りもあるけど、一般に、本物の釣り好きは、大物を狙う。
 渓流でヤマメを釣る場合には、『尺物』という言葉がある。
 尺とは一尺のことで、30センチを超える大物のことを尺物という。
 ある時、熊本県の山奥で釣りを終えて帰宅しようと車を走らせている時に、ちょうど車に釣り道具をしまっていた釣り師の姿を見つけた師匠が、釣り人に声をかけたことがあった。
「どうでしたか?釣れた?」
 と。
 声を掛けられた釣り師は、とても嬉しそうだった。
 そして、
「尺物を釣りました。」
 と大きなヤマメを見せてくれた。
「ほう、これは立派な魚だ。そうだ、いい沢を教えてあげるから、急いで道具を車に積んで私の車の後ろについてきなさい。」
 と師匠は釣り人を誘った。
 そしてしばらく車を走らせて、
「この沢を釣ってごらん。釣れるから。」
 と一本の沢を紹介して釣り師と別れた。
 師匠が僕に、
「30センチ以上のヤマメのことを尺物というんよ。」
 と教えてくれた。
「でもあの魚は、尺はなかなったね。28センチくらいだったと思うよ。」
 というおまけつきで。
 師匠が嫉妬からそう言ったのか、あるいは本当に尺はなかったのかは、今となっては検証しようがないけど、
「尺物を釣りました。」
 という弾むような言葉は、僕の心に残った。
 ともあれ、僕は、本物の釣り好きではないなぁと思う。
 大きな魚を釣るよりも、沢に不随する要素の1つ1つを感じ取りたい気持ちが強い。
 それには、大きな流れよりも、小さな沢が適する。
 その好みは釣り竿をカメラに持ち替えても同じで、絵葉書のような大場所よりも、動植物の存在を感じやすい、小さな沢の流れに足が向く。
 
 さて、大きな渓流の場合、川幅が広いので光が差し込みやすく木が良く成長し、概して、周辺に生えている木は大きく、高い。
 したがって秋の落葉の頃、その高い位置から降ってくる落ち葉は広範囲に広がり、その結果、足元ではいろいろな木の落ち葉が混ざり合う。
 その点小さな沢では木が全体に低いので、落ち葉は広がる前に木の直下に近い場所に着地し、沢を歩くと、場所によって落ち葉の種類が異なり、それが楽しい。
 料理で言うなら、大きな渓流での撮影は、メイン料理がドーンと出てくるのに対して、小さな沢では、小鉢が次々と出てくるような楽しさがある。
  
  
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2024年11月分


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