今月の水辺 / 雨上がりの小道

NikonZ7U
NIKKOR Z 24-120mm f/4 S
(撮影機材の話)
訳あって風景の撮影ではなるべくワイドズームを使用するが、この日は120mmまでをカバーする標準ズームに近いレンズを選んだ。広角レンズでは写真に写り込むものが多くなり、何が主題なのかがわかりにくくなるので、それを防ぐために、いつもよりも長めの焦点距離のレンズを選んだ。ニコンZの24-120mmはカメラマンをワクワクさせるようなタイプのレンズではないけど、手堅い写りで安心して使用できる。

撮影後記 

 今年、小道の彼岸花が一番映えたのは、この日だった。
 ところが帰宅後に写真をチェックしてみたら、残念なことに若干詰めが甘くて、気に入らない箇所があった。ガスが出ていた関係で、いつもの感覚で撮影すると、遠景がややぼやけて見える写真になってしまった。
 普段よりも絞りを絞るべきだった。
 そこで翌日もう一度やり直しをしてみたら、今度は彼岸花はピークを過ぎていて、トータルとしてみると前日の写真の方が良かった。
 風景写真の場合、相手は逃げないだけに、より高い完成度の写真が求められるのがむずかしい。
 時々、写真の撮り直しを試みることがあるが、僕の場合、撮り直しが最も多いのが風景写真であり、撮り直しの撮り直しなどというケースもある。
  
 さて、この場所での撮影の主役は、画面右側に写っている石垣の住人達だ。石垣は、よく生き物が隠れている場所であり、生き物の観察の絶好のポイントの1つなのだ。
 ただし石垣だけがあっても、あまり生き物はやってこない。
 周囲に何があるかがとても大切。
 ここの場合、石垣の上にある公園は、生き物たちの供給源になっている。また、周囲の田んぼやくさむらからも、生き物がやってくる。
 写真には写っていないが、小道の左手には木が生えている場所もある。
 それらの木が影を落とす箇所にはコケや地衣が生えていて、コケや地衣が生えている区間にはカタツムリやナメクジが多い。
 カタツムリはウスカワマイマイやキュウシュウナミコギセルや外来のオオクビキレガイなど。
 ナメクジは、元々日本に住んでいたナメクジ、外来で庭などに多いチャコウラナメクジ、同じく外来のノハラナメクジの3種類。
 石垣で一番多く見かけるのナメクジは、日本産のナメクジだ。田畑の部分で見つかるのはノハラナメクジ。公園の建物などの周辺で見つかるのはチュコウラナメクジであり、ナメクジにも好みの違いがある点が面白い。
 
 多くの写真愛好家が求める「映え」があるわけではないので、ここで写真を撮る人に出会ったことはない。
 生き物に興味でもなければ、カメラマンにとっては、なんでもないただの場所だろう。
 近年、その何でもない場所を探すのが、むずかしくなってきた。
 田んぼは猛烈な勢いで住宅や運送業用の大型倉庫になりつつある。生き物が隠れる隙間を有する石垣や、石垣に限らず生き物の隠れ家になる場所は年々減りつつある。
 10年後、僕の主な仕事である身近な生き物の撮影は、どんな内容になっているのだろう?
 今とは、かなり違ってくるのではないかという気がする。
  
  
 
戻る≫
 

自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2024年10月分


のサイトに掲載されている文章・画像の無断転用を禁じます
Copyright Shinichi Takeda All rights reserved.
- since 2001/5/26 -

Top Page