今月の水辺 / 磯の小さな水流

NikonZ7U
NIKKOR Z 14-30mm f/4 S
(撮影機材の話)
ニコンのカメラZ8は、動体の撮影で使用すると威力を発揮する。一方で、少々大き過ぎるし、風景みたいな動かないシーンでは、機能が複雑過ぎる感じもする。その点、Z6やZ7のようなカメラが、僕の場合、風景の撮影には好みに合う。「カメラは多機能であるに越したことはない。不要な機能は使わなければいい」という意見がある。確かに頭で考えるとそうなるのだけど、実際に写真を撮ってみると、多機能なカメラはメニューが複雑になるし、うっかりどこかの設定が変わってしまったときにチェックしなければならない箇所が増えるしで、僕は不要な機能はない方がしっくりくる。

撮影後記 

 潮が引いた干潟でカブトガニの子供を採集して、白バック写真撮影用に持参した透明度の高い海水に入れる直前に、ふとためらった。
 海水は場所によって濃さが異なる。したがって、持参した海水とカブトガニを採集した場所の海水の濃さが大きく違っていた場合、カブトガニが死んでしまうのではないか?と心配になったのだ。
 干潟のカブトガニは、干潟を流れる「溝」程度の細い水流れの中に多く見られた。
 そしてそれらの水流はより上流側から流れてくるので、海よりも川に近いのではないかと思えた。
 だとするならば、干潟なのである程度塩分が混ざっているにしても、濃度は海水よりも薄い可能性がある。
 一方で僕が持参した海水はまぎれもない海で汲んだものであり、濃度はより濃いはず。
 果たして、ボーメ計で塩分濃度を測ってみたら、持参した海水でも十分許容範囲に入っていることが分かった。
 それはともあれ、海辺をうろうろしていると、時々、海水なのか淡水なのかがわからない細い水流に出くわす。
 細い水流は干潟に限った話ではなく砂浜や磯にもあって、今月の画像の場所にも、岩の上に溝のような水流がある。
 干潟のカブトガニが水流のまわりでよく見つかるように、磯でも、岩の上の細い水流の中には貝やその他、多くの生き物が集中する。
 いわゆる潮間帯と呼ばれる場所に住む生き物は、干潮時に陸になるような位置に住んでいるくせに、干潮時でも多少水がある場所を好むのだ。
 ところがそうした細い流れは、人の社会では粗末に扱われがちだ。道路や人の暮らしと被る場所では、当たり前のように埋められる。
 人にとっては取るに足らなくても、生き物たちにとって案外重要な小さな流れ。そんな小さな流れを主役にした本を作ることができたらなぁと思う。
 一方で、僕が思い描く企画は、通用しないだろうなとも思う。
 なぜならそれは、時に人の手でためらいもなく埋められてしまうような場所だからだ。そもそも人の関心が向いてない場所であり、取り上げたところで本が売れるわけがない。
 いやいや諦めてはいかん。それを魅力的に表現できるのがプロの腕前ではないかなどと自らを鼓舞してみたりもする。
 すると、ぱっと思いつくのは、そこで出会えるさまざまな生き物たちを見せるやり方だ。でもそれでは、ごく普通の磯の生き物たちが主役の本になってしまう。
 何かいいアイディアを絞りだして、僕が引退する日までに、2〜3冊くらいはその手の本を作ってみたいと思う。
 2〜3冊?まずは一冊だろうという気もする。そして一冊なら、どこかの出版社が意気に感じて、あるいはお情けで作ってくれるかもしれない。
 でも僕が作りたいのはそんな由来の本ではない。きちんと確立された本だ。
 なぜなら、人からみればちょっとした流れや小さな流れが実はとても大切だということがある程度以上知られ、僕が属している社会ができる限りそれに配慮する社会であって欲しいから。
 
 
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2024年7月分


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