今月の水辺 / 落ち葉

NikonZ7
NIKKOR Z 17-28mm f/2.8
(撮影機材の話)
今僕がニコンのカメラで使用している広角ズームは、NIKKOR Z 14-30mm f/4 SとNIKKOR Z 17-28mm f/2.8の2本。焦点距離が被る印象を受ける方がおられるだろうから使い分けを言えば、 17-28mm の方が最短撮影距離が短いので、物に迫るような撮り方をする際に使う。一方で風景など遠くの被写体を撮影する場合は、ズームの幅が広い14-30mmを選ぶ。最短撮影距離以外では構造が異なり、前者は、沈胴式になっていて使用しない時にはコンパクトになるのに対して、後者はレンズの全長は一定で変わらない。沈胴式はカメラバッグの中で小さくなる良さがあり、全長が変わらないレンズは、撮影時にごくわずかなグラつきもない安心感がある。


撮影後記 

 毎年冬になると、渓流で、水に沈んだ落ち葉にレンズを向ける。今年は水中撮影の機材を一部新調したこともあり、その撮影がとても楽しみだった。
 ところが沢を歩いてみると、例年よりも水中の落ち葉の量が少ない。
 重たい道具を背負ってきたのだから何か撮りたいと思うのだが、僕がよく歩く沢では、写真撮影ができるような場所がほとんどなかった。
 そういえば今年は、葉が落ちる時期に強風が吹かなかった。
 その結果、秋に木の枝に葉がたくさん残っていて、紅葉や黄葉がカラフルだった。
 ああ、今年、木の定点撮影の仕事があったら良かったのになぁ、と感じた。
 木を定点撮影する仕事は過去に何度も経験があるが、どの季節が怖いかといえば、秋だ。
 気温が下がり葉が色づき始めたタイミングで強風が吹けば、大部分の葉が飛ばされてしまい、撮影はそこで THE END になるから。
 春〜夏にかけて丁寧に丁寧に進めてきた撮影が、わずか一日の強風の結果継続できなくなり、すでに撮影した写真が使えなくなってしまったことも、過去にはあった。
 そうして撮った写真が無駄にならないようにする唯一の対策は、定点撮影を秋から始めることだ。
 ところが困ったことに、日本の自然関連の書籍は普通春から始まる。
 その流れからすると、春に撮影を開始し、新緑、濃い緑、紅葉や黄葉と進み、最後に葉が落ちたシーンがあり、同時に、春から冬にかけて少しずつ木が大きくなる様子も見せることができれば、理想だと言える。
 その点、秋から定点撮影を始めると、春、夏、秋、冬と写真を並べたときに、秋の写真の木の枝が若干小さくなる。
 木のサイズが違うと言ってもわずか一年でしょう?と感じられる方もおられるだろう。
 が、きちんと写真を撮れば撮るほど、その一年の木の大きさの違いが写る。
 ではどうするか?といえば、保険をかける意味でまずは秋から撮影をはじめ、冬、春、夏と撮り進めて、もう一度秋を撮影する。
 それはともあれ、秋に強風の日がなければ、葉は長い間木にくっついたままになり、見栄えのする紅葉や黄葉の景色になる。
 その後、葉はハラリと静かに落ちて、木の周辺に積もる。
 一方で落葉の時期に強風の日があると、葉は枝から強制的に離陸させられしばらく宙を舞い、その後地上を駆け回り、やがて一部が、渓谷では沢の流れにつかまる。
 流れにつかまった葉はもはや水から抜け出すことはできなくなり、勢ぞろいして沢を下り始め、水流が巻き返しになっているような箇所に積もる。
 強風の時には、流れてくる落ち葉が水中カメラのレンズ部分に積り、頻繁に落ち葉を取り除かなければ撮影ができないような日もある。
 自然写真に打ち込むと、ある日のある一瞬の景色にさまざまな要素が絡んでいる、つまり自然はつながっていることを強く強く実感させられる。
 そして、自然がつながっているのは、撮影がうまくいかなくて考えなければならないときに実感させられることが多い。
 そういう意味では、うまくいかない撮影を経験することも大切だと思う。
 ただ、ギャラをもらう撮影が上手くいかないのは、なかなか辛い。その点、この今月の水辺は仕事ではないので、うまくいかない撮影を楽しむのに適する。
 
 
 
戻る≫
 

自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2023年12月分


のサイトに掲載されている文章・画像の無断転用を禁じます
Copyright Shinichi Takeda All rights reserved.
- since 2001/5/26 -

Top Page