今月の水辺 / 夜の田んぼにて

NikonZ7
Z 24-70mm f/4 S
(撮影機材の話)
僕が風景の撮影に使うレンズはほとんどの場合、広角ズームだ。今ならZ14-30of4が多い。生き物の写真の場合、どうしても望遠レンズやマクロレンズの使用が多くなるので、一冊の本を作る際に望遠レンズに偏らないようにするために、風景はワイドで撮影する。だが、たまに標準ズームを使用してみると、景色の中のいいところだけを残して残りを捨ててしまう引き算が広角レンズよりも簡単で、これはこれでいいなとも思う。今月の画像は、データを確認してみると40oと記されていた。


撮影後記 

 僕は元々、私有地である田んぼの撮影にはあまり熱心ではなかった。
 だが最近ちょっと、田んぼをしっかり撮影してみたいなという気持ちになってきた。
 というのは、いよいよ近いうちに、生き物が住む場所としての田んぼを撮影することが難しくなるような気がするから。
 まずは、田んぼの周辺が切り開かれ、田んぼの中の生き物が減っていること。
 それから、そもそも田んぼそのものが急激になくなってきていること。
 印象としては、以前生き物がたくさん見られていた田んぼほど、休耕田になっている割合が高い感じがする。
 生き物がたくさん見られた田んぼは、実は後継者が存在せず、あまり手入れをしていない田んぼだった可能性が高い。
 おや?と思うのは、耕されてはいるものの、稲が植えられない田んぼもあることだ。
 恐らくは、耕さなければ虫や獣の住処になり、周辺のまだ農業を続けておられるみなさんに悪影響があるからではなかろうか。
 一方で、後継者がいて今でもしっかり稲は作られている田んぼには、獣対策の柵が厳重に張り巡らされ、田んぼに近づくことができにくくなっている場所が多い。
 ともあれ、先に書いた「いよいよ近いうちに」は、いったいどれくらい先のことかと言えば、10年後にはかなり大きな変化があるのではないかという気がする。
 そこで、探りを入れるというわけではないけど、撮影中に田んぼの持ち主の方に話を聞いてみたりもする。
 すると、,今月の場所の場合は、まずイノシシの侵入の被害があるという。
「ほら、田んぼの周りに銀色のテープが張ってあるやろう。イノシシ対策なんよ。それから、向こう側の電気がついている箇所もそう。イノシシがいったん田んぼに入ってからじゃ遅いんよ。あとから対策しても、いったん田んぼに入るようになったイノシシは平気で入ってくるから。」
 と。 
 がしかし、そんなもんじゃ、イノシシの対策にならんでしょうと内心思う。一方で、引退間近の年配の方が、今更新しいことを勉強してしっかり対策するのも難しいだろうとも思う。
「今年からね、イノシシが一度でも入った田んぼの米は、農協が買わんっていうんよ。」
「イノシシが入ったら米にどんな変化がありますか?」
「臭くなるっていうんやけど、わしには分からん。正直、気分的なものと思うんやけどね。」
 
 僕がよく撮影する生き物では、タニシは激減し、代わりにジャンボタニシと呼ばれるスクミリンゴガイが増えた。
 またアマガエルが減り、代わりにヌマガエルが増えているように感じる。
 つい先日も、10年前なら、撮影用のアマガエルが何匹でも確保できた田んぼに行ってみたら今ではひどく数が減っていて、これだけしかいないのならもうここで採集するのはやめようと場所替えをしたばかりだった。
 場所替えをしたまた別の田んぼでは、アマガエルはたくさんいたものの、産卵にやってくるアマガエルがみな小さいことが気にかかった。
 そうした変化が人の社会に何をもたらすかは、僕には、全く分からない。
 身近な生き物がいなくなるということは、やがて魚介が取れなくなり、漁業に大打撃を与えるのは十分あり得ることだと思う。が、それによって日本の社会に、多くの人がしまったと感じるようなダメージがあるかどうかは、想像もつかない。
 いずれにしても、起きることを、自分の目で見てみたいと思うのだ。
  
  
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2023年6月分


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