今月の水辺 / 滝

NikonZ7
NIKKOR Z 24-70mm f/4 S
(撮影機材の話)
生き物の撮影の場合、レンズは単焦点レンズが楽しいと思う。一方で風景の撮影では、ズームレンズが楽しい。写真撮影のノーハウとしてしばしば「ズームに頼るな。レンズの焦点距離を固定して自分の方が動け」と言われる。これは言い方を変えると、まずは使用するレンズの焦点距離を決め、次にそのレンズに適したカメラの位置が決まるということになる。だが風景の場合は、まず第一にカメラの位置が決まることが多く、自分は動けない場合が多い。例えば崖から崖下の景色を見下ろして撮影する際には、前に出ることはできないし、下がると崖下の景色は見えなくなってしまう。自分の立ち位置が決まると、それに付随してレンズの焦点距離が決まり、その際には厳密なフレーミングができ、より正確に自分の意図を表現できるズームレンズが楽しい。


撮影後記 

 以前何度か撮影したことがある滝に、また行ってみた。前回はもう随分前のことになるが、晴れの日の滝つぼにかかった虹がとても印象的だった。
 そこで今回も、是非とも晴れの日にと好天が予報されている日を選んだら、なんと!季節による太陽の高さの違いで、この日は一日を通して滝つぼには光が当たらないことがわかった。太陽の直射光があたるのは、滝つぼから離れた崖の部分までだった。
 そうなると今度は、晴れの日を選んだことが仇になる。
 滝の全景を広く撮影しようとすると、肝心な滝つぼは日陰なのに、周囲の岩は日向になり、明暗が邪魔して画面がうまくまとまらないのだ。映画で言うなら主役が影になってばかりなのに、脇役にはバチッとスポットライトが当たっているような状況なのだ。
 しかたがないので、滝の全景を撮影するのを諦め、日陰になっている部分のみを切り取るように撮影して画面をまとめてみた。
 ところが帰宅後に撮影した画像を見てみると、一部の写真で、画面右上にほんの少しだけうっかり日向が写っていて、しかももその小さな日向が、写真に厚みを増しているように見える。
 つまり、うっかりによる失敗作の方が本命の写真よりも良いように見える。
 果たしてこれは喜ぶべきか、がっかりするべきか・・・。現場で気付くことができていれば、日向の箇所をもっと生かす試みができたかもしれない。
 まあ、そういうこともあるのか、と勉強になった。
 
 ともあれ、風景の撮影では、現場をあらかじめ見ることができるライブカメラがあれば、是非見ておきたいと思う。
 僕が見たいのは、まずは光の当たり方。それから水辺なら水量などは事前に分かっていたらありがたい。
 春の緑の状態なども、日当たりがいい場所なら同じくらいの標高の他の場所を見れば多少は推定できるが、影になる谷の場合は春が遅かったりもするし、行ってみなければわからないことが多い。
 イメージとしては衛星によるライブカメラであり、そんなものがあれば、カメラマンにとってはとても便利な世の中になるだろう。
 でも、もしもそんなことが可能な時代が来てしまったら、やっぱりつまらないかな。
 自然=人の意図ではないものとするならば、分かり切っているものやそれに近いものを撮影するのは、もはや自然写真ではないのかもしれない。
 自然物の撮影は、思い通りに行って欲しいと望みつつも上手くいかないところに面白さがあるし、思い通りにいかなかった時に何ができるかこそが、その人の写真の力量のような気もする。

 衛星によるライブカメラまではいかなくても、今は、以前よりも随分便利になった。
 そういう意味では、実はもうすでに、かなりつまらなくなっている可能性もある。
 便利さに惑わされてそれに気付いていないか、あるいは気付いていても、楽さがまるで麻薬のように作用している可能性も。
 果たして実際はどうなのかは、時間が経ってみなければわからないのだけど。
  
  
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2023年3月分


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