今月の水辺 / 滝

NikonZ7
NIKKOR Z 24-70mm f/4 S
ND PLフィルター
(撮影機材の話)
風景の撮影に使うレンズと言えば、僕なら真っ先に広角レンズが思い浮かぶ。ニコンのカメラを使用する場合なら、NIKKOR Z 14-30mm f/4 Sが第一の候補になる。ところが意外に使い道が多いのが標準ズームであり、今回はNIKKOR Z 24-70mm f/4 Sを選択し、ズーム域の中でも50mmのあたりを使用した。より広く撮りたくなる気持ちをぐっと抑え、目の前の景色を写真で伝えるのに本当に必要な部分はどこなのかを追及してみた。


撮影後記 

 仕事でシダの写真を撮った。シダをちゃんと撮影するのは、実は初めてのことだった。
 そこらにたくさん生えていることになっている最も身近だとされるシダが、どうしても見つからなかった。さんざん探し回った挙句、結局、うちの近辺には、そのシダが分布しないことがわかった。
 分布しないのではないか?という感じは、割と早い段階からあった。というのは、北九州市内の、わけあって長い間手つかずになっていた広大な場所の植物のリストの中に、その名前がなかったから。或いは、北九州市内の別の地域の調査の報告書にも、名前はなかった。
 ただ、図鑑に「最も身近なシダ」と記されているものだから、うちの近所にもないわけがないと惑わされた。
 シダの次は身近なコケの写真を撮った。
 その身近なコケも、シダほどではないけど、すんなりとは撮影できなかった。
 ともあれ、目的の種類がなかなか見つからなかったおかげで、シダやコケの類をたくさん見る機会ができ、自然とその手の植物に目が行くようになった。
 特に、シダやコケがよく生えている岩場みたいな場所の緑が気になるようになった。

 さて、滝の写真を撮ろうと思ったら、岩場に生えている植物が気になって仕方がない。
 ならば今回は植物を主題に、滝を副題にした写真、つまり滝の撮影をやめて、植物の写真を撮ろうかとそんな構図を試みてみた。
 だがそうして撮った写真を客観的に眺めてみると、漠然としていて何が撮りたいのかがわからない。文章があれば、何を見せようとしているのか伝わるのだろうけど、写真だけを見てそれを感じ取ってもらうのは難しいだろう。
 結局、植物を主題にした撮影を、滝を主題にした撮影に戻した。
 そこに何が写っているのかが言葉による説明なしでわかるように撮るのは、写真撮影の基本なのだ。
 もちろん、生き物の記事を作る際に、常にそんな風に写真が撮れるわけではない。時には言葉による説明が不可欠な時もある。
 だがそうした写真は、例えば本一冊の中で1〜2枚とか、極一部におさまるようにしたい。そのためにも僕は、日頃から、とにかく説明なしで伝わる写真を撮る習慣を付けるように心掛けている。
 たとえその撮影が、仕事としての撮影ではなくても。

 一方で、あえて、パッと見て何が写っているのかが分からないように写真を撮るような世界もある。
 分からないことでいろいろな想像ができるし、それが楽しいというような。僕が今志している写真が、生き物のことを伝える手段としての写真なら、写真表現自体を楽しむような写真もある。
 もしもそんな写真を志すのなら、今の僕は、滝の岩場に生えた植物たちを主役にした写真を撮ってみたい。
  
  
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2022年5月分


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