今月の水辺 / 小さな岩場

NikonZ7
NIKKOR Z 14-30mm f/4 S
NDフィルター
(撮影機材の話)
水辺の撮影と言えば偏光フィルターを思い浮かべる人が多く、偏光フィルターに関して聞かれることがある。だが、僕はほとんど偏光フィルターは使わない。一方で多用するのはNDフィルターだ。NDフィルターによって動いている水をぶらすことによって、動かないものを浮かび上がらせるような使い方が多い。フィルターには画質を損ねる面があるので、偏光フィルターにしてもNDフィルターにしても、購入する場合は、なるべくそれが少ない高品質な製品を選ぶことを勧める。僕の場合は、色の変化が小さな製品を選んでいる。


撮影後記 

 風光明媚な場所で絵葉書のような写真を撮るのではなく、生き物がたくさん住んでいる場所で、
「ここの景色は、何か生き物が住んでいそうだからいいね」
 と人から言われるような写真を撮りたい。
 僕は小さな生き物を撮るカメラマンの中では風景の撮影に多くの時間を費やすが、なぜ風景にこだわるのか?と言えば、そんな思惑がある。

 一方で、そんなことがそもそも可能なのだろうか?とも思う。
 そこに生き物が住んでいそうだから楽しいと感じるかどうかは、その人の知識や経験の有無に大きく左右され、誰でもが感じることではない。
 例えば、釣りの際に、
「あ、ここは魚が釣れそうでいい場所だ。」
 と誰かがワクワクしたとするならば、その人は釣りに関するたくさんの知識や経験を有している人であり、逆に言うと、知識や経験を持たない人にとっては、そこは、特別な場所ではないことになる。
 すでに知識がある人に対して、僕がさらに何かを言ってもしかたがない。
 一方で全く興味がない人に何かを言うのも意味がない。
 僕の仕事は、自然や生き物に興味があるけど、それに自分で気付いていない人たちのきっかけになることであり、潜在的なニーズの掘り起こしだ。
 その場合に、知識はそれを今必要としている人にとっては大切なものだけど、まだ必要としていない人にとってはどうでもいいものであり、知識で何かを語るやり方は通用しない。
 つまり、
「ここの景色は、何か生き物が住んでいそうだからいいね」
 と知識がない人に思ってもらうためには、知識以外にその人の感覚に働きかける何か必要になる。
 その何かは、キラキラした水のキラメキかもしれないし、木漏れ日かもしれないし、光に透けた葉っぱの緑かもしれないし、いろいろな何かが考えられ、カメラマンとしての引き出しの量が問われる。

 さて、長年自然写真の仕事をしていると、人に好まれやすい写真の傾向に気付かされる。
 例えば、画面全体が均一な写真よりも、ちょっとどこかに変化があるような写真が好まれる。
 恐らく人の目は、変化をしている箇所に、吸い寄せられやすいのだと思う。
 ただの海辺の写真よりも、ちょっと岩場があるとか、ちょっと波の流れに変化があるとか。
 カメラマンは、そうしたちょっとした何かを、「ポイントになるもの」などという言葉であらわし、ポイントになるものを探す。
 それと同じようなことが、生き物を探す時にもよくある。生き物は、ちょっとした変化がある場所を好む傾向になる。
 海辺の砂浜の中にポツンとある岩場には、貝の仲間やエビやカニや魚や・・・さまざまな生き物が住みついている。
 したがってちょっとした変化がある場所にレンズを向けると、その写真は、生き物の生息場所を見せる写真でもあり、同時に人が見て何か気になる写真になりやすい。
  
  
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2022年1月分


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