今月の水辺 / 清流

NikonZ7
NIKKOR Z 14-30mm f/4 S
NDフィルター
(撮影機材の話)
僕が滅多に使わない道具と言えば、レンズフードがあげられる。レンズフードは、小さな生き物の撮影に関して言うとストロボを使用する際に光を遮ってしまうことがあるし、風景の撮影の場合なら、レンズフードごときで有害な光がカットできるようなケースは滅多にない。現実的には写真の写りを左右するよりも、レンズの保護の役割の方が大きいように思う。その代わりに黒い板を持ち歩き、逆光でゴーストやフレアーが発生する状況では、有害な光をカットするように黒い板をかざす。


撮影後記 

 若い頃に、
「写真が上手い人なんて幾らでもいるよ。」
 と昆虫写真家の海野先生に聞いたことを、ときどき思い出す。
 当時は、上手い人はいるだろうけど、本当にそんなにたくさんいるの?、と内心思ったものだけど、SNSが普及してからは、なるほどなぁと感じるようになった。
 確かに、上手い人がゴロゴロいるのだ。
 SNSが普及する以前に海野先生はなぜそれを知っていたのだろうか?
 恐らくいろいろな人の写真を見ることができる立場にいたからだと思う。写真を見て欲しいと希望する若者がいたり、コンテストに応募される写真を見たり、出版社に持ち込まれた写真を見る機会があったり・・・・。
 海野先生ほどではなくても、自然写真業界が長くなるにつれて業界の知り合いが多くなり、僕だって、本来なら知りえないはずの情報を知るケースが増えてきた。まだ未発表の機材のことから誰かのプライバシーのことまで。
 それはともあれ、SNSに投稿される写真の中には、最高の景色を、最高の技術と最高の機材で撮影した、究極としか言いようがない、見事なまでに洗練された写真もある。
 芸術、あるいは漫画「おいしんぼ」の登場人物である海原雄山のような世界とでも書いておこうか。
 そうした世界を、うわぁ、すげーなと楽しませてもらうのだが、一方で、その手の写真を見たり添えられた記事を読むと、なんだかとてもきざというのか大げさというのか、自分の方が小恥ずかしくなったりもする。
 楽しませてもらっているくらいだから決して否定するつもりはないけど、自分が好きなのは、そんな世界ではないのだと改めて思う。
 僕が好きなのは、そこらの何でもないただの自然なのだ。
 写真撮影の際に芸術性はとても大切な要素だけど、僕の場合、芸術性は自然を伝えるためのすべであり、追求すべき目標ではない。

 さて、生き物仲間の西本晋也さんに声をかけてもらいトンボの撮影に出かけてみたら、川の流れが僕好みだったので、風景を撮影してみた。風景カメラマンが集まるような場所ではないけど、いろいろな生き物が住んでいそうでワクワクするし、楽しい気持ちになる。
 この場所の撮影に適した時間帯は、夕刻。ちょうどトンボが活発な時間帯でもあり、トンボが飛び交うと無性に追いかけたくなるのだが、その衝動をグッと押さえて水辺に落ちる光を追いかける。
 僕にとっての理想の撮影は、ある一枚の写真を撮ると、おのずと次に撮るべきものが決まるような形であり、写真を撮れば撮るほど撮りたいものが増えていく状況。そして、生き物の写真を撮る場合でも、最初に一枚、その場所のイメージをよく表した風景写真が撮れると、その一枚の風景写真が次の一枚の写真を撮る動機となり、理想の形になりやすい。
 今月の画像なら、次に、流れから頭を出した石の上に止まるコオニヤンマやオナガサナエを撮りたくなる。あるいは、両脇の草むらの中にすむクモやバッタの類なども。
 僕にとっての風景写真は絵ではなく、生き物たちのすみかの写真なのだ。
 
 
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2021年8月分


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