今月の水辺 / オオヘビガイ

NikonZ7
NIKKOR Z 14-30mm f/4 S
(撮影機材の話)
写真用のレンズは、遠くがよく写るように設計すると近くの描写が悪く、近くがよく写るように設計すれば遠くの描写が悪くなり、どの距離でもよく写るレンズは存在しないのだが、ニコンのミラーレスカメラ用のレンズ・NIKKOR Z 14-30mm f/4 Sは、従来の一眼レフ用のワイドズームよりも全体に性能がアップ。35ミリ判フルサイズセンサーを搭載したカメラ用のレンズで、至近距離でここまで手前がよく写り、逆光でこれほど色が出るレンズは、僕は初めての体験だ。


撮影後記 

 オオヘビガイを見ると、
「おいおい、おまえ大丈夫か?」
 といつも心配になる。
 殻が岩にくっ付いていて移動ができないのに、干潮になると陸になってしまうような場所でも見つかり、何かがほんのちょっとずれただけで干上がりかねない際どい暮らしをしているように感じられるから。
 でも、僕の心配をよそに、潮の満ち引きには休日も祭日もなく、潮は定期的に必ず満ちてくる。具合が悪いから今日はお休みとか、電気が止まったからそれができないなどということもない。
 むしろ、誰かがそれを止めようと思っても、人の力では絶対に止めることはできない。
 巨大地震で地盤がポンと数十センチくらい隆起でもしない限り、淡水の浅い水辺と違って、磯のオオヘビガイのすみかは簡単に干上がることはない。
 僕の目には一見際どそうに映ったとしても、干潮で陸になっている時間帯さえやり過ごすことができれば、イメージとは逆に非常に安定した場所に住んでいるとも言える。
 一方で、干潮の際に陸になってしまうような場所では、強いあごを持ちオオヘビガイを食べてしまいかねない大型の魚などは住み着きにくい。
 長い時間をかけて、生き物が環境に合わせた暮らし方を獲得する適応という現象は、非常に面白いし尊いと思う。
 
 磯には膨大な量の岩にくっ付いている生き物がいて、場所によっては踏まずに歩くことができないくらいだし、その手の生き物は生き物という感じがしないからか、あまり人気がない。
 だが同じ場所に何度も何度も通うと、毎回同一の個体を目にすることになるので、今度は、特別な思いが生じてくる。
 オオヘビガイの場合は、潮が満ちてくると粘液をクモの糸のように放出し、糸で食べ物をからめとるなどの芸当も見せてくれる。
 小さな個体なら、長い時間をかけて同一個体の成長の過程を追うこともできるし、貝は死んでも貝殻という跡が残るので、死〜死んだ後の様子まで追いかけることができる。
 磯の小石をひっくり返して隠れている生き物たちを見つけ出すのも楽しいけど、毎回同じ場所にいる生き物を何度も何度も見るような見方も、磯の楽しさの1つとして広められたらなぁと思う。
 
 
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2020年12月分


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