今月の水辺 / ダイセンニシキマイマイ

NikonZ7
NIKKOR Z 24-70mm f/4 S
(撮影機材の話)
同じ被写体を撮影する場合でも、使用するカメラのセンサーサイズによって、写真の撮り方は若干違ってくる。35mm判フルサイズセンサーのカメラの場合は丸みの描写が優れているので、カタツムリの場合であれば殻の丸さがきれいに描写されるような撮り方を心掛ける。空の反射を殻に写り込ませてそのグラデーションで殻の丸みが表現されるようになど。一方でマイクロフォーサーズなどより小さなセンサーのカメラの場合は線の描写が優れているので、輪郭がきれいに写るような撮り方をする。


撮影後記 

 渓流の撮影中に、え?今僕はどこにいるんだっけ?と一瞬自分の居場所が分からなくなった。
 岩に生えた地衣類かあるいは付近に生えている珪藻を食べていた、普段僕が見かけない一匹のカタツムリが原因だった。
 11月の気温が低い冷たい雨の日であり、カタツムリとの出会いを予想していなかったこともあり、背中に太いラインが入る大型のカタツムリと言えば、関西のニシキマイマイが思い浮かんだ。が、そんなに遠くまで出かけたつもりはない。
 え?何だっけ、このカタツムリ。
 そうかそうか、ニシキマイマイの亜種のダイセンニシキマイマイだ。
 ダイセンニシキマイマイと言えば、鳥取県や岡山県など中国地方の東の方のイメージがあったが、そこは山口県と広島県の県境付近。
 へぇ、ダイセンニシキマイマイって、こんなに西側まで分布するんだ! 
 帰宅後に調べてみたら、山口県の東部にもダイセンニシキマイマイが分布することが分かった。ただ、分布の西の果てであり、数は非常に少ないのだそうだ。
 ともあれ、山口県の東側から広島・島根、岡山・鳥取、兵庫県西部がダイセンニシキマイマイの分布域になるが、トンボのように長い距離を飛んで移動できる生き物ならともかく、移動能力が低いカタツムリがどこかで最初に発生したのち、非常に長い時間をかけて西は山口県、東は兵庫県まで分布を広げたことは、自分がカタツムリになってつもりで想像するとなかなかロマンがある。
 山口県では数が非常に少ないということは、何らかの要因があって、ダイセンニシキマイマイがそれ以上西側へと分布を広げられないのだろうか。
 仮にそうなら、その要因は何なのだろう?
 あるいはこれから数千年くらいのスケールの時間をかけて、もっともっと西へと進出するまだ途中だという可能性もある
 一つ言えるのは、仮にダイセンニシキマイマイが山口県の西の果てまでやってきたとしても、その前に僕は確実に死んでしまうから、結果を知ることはできないということ。
 
 近年は、生き物を人が放すことによる分布の乱れが問題になるようになった。
 僕も、野生生物を愛する人間の一人として、分布の乱れは非常に気になるところだし、時に目をそむけたくなったり、気分が悪くなることもある。
 一方で、生き物の分布の話は少なくとも数百年とか数千年のスケールの話であり、そんな長い期間人の影響を排除し続けるのは、まさに人類が絶滅しない限り不可能であり、分布の乱れが気になるなどという僕の懸念は、焼け石に水以下ではないか?という気もする。
 仮に1000年だとすると、今から1000年前は平安時代であり、人の意思でどうのこうのできる期間ではないことは明らかだ。
 つまり、人の活動に伴う生き物の分布の乱れは、運命としか言いようがない既定路線ではないか?という気もして、人の手による生き物の分布の乱れも自然の一部という人がいるのも、それなりに理解ができる。
 
 
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2020年11月分


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