今月の水辺 / アキアカネのつがい

OM-D E-M1 Mark III
M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO
(撮影機材の話)
オリンパスのカメラに取り付けた300mmは、35ミリ判フルサイズセンサーのカメラに換算すると600mm相当になるが、まさか600mm相当のレンズで飛んでいるトンボを撮影する日がくるとは!近づこうと思えば近づける被写体を望遠レンズで遠くから撮影するのは、時に横着になってしまう場合もあるけど、生き物の撮影に関して言うと被写体を脅さないし、湿地での撮影なら、湿地に足を踏み入れることなく撮影でき環境を傷めない良さがある。カメラマンは何とかして被写体に近づこうとする気持ちを忘れてはならないと思う一方で、自然を脅したり傷めない手法も持っておく必要がある。


撮影後記 

 小学校の教科書に出てくるトンボと言えば、シオカラトンボかアキアカネ。つまり、誰でも見ることができる身近なトンボという位置づけだが、実は九州ではアキアカネは珍しく、僕の憧れのトンボの1種だ。
 そのアキアカネが見せてくれるシーンの中でも大好きなのが産卵シーン。
 刈り取りが終わった田んぼにたまった水たまりに連結したつがいがたくさんやってきて飛び交う景色は、延々と見ていたくなる。
 連結した2匹の後ろ側に位置するのがメスで、メスには茶色っぽいものから赤いものまで色に変異がある。
 以前、トンボ仲間の西本晋也さんにそれを聞いてみたところ、本当か嘘か分からないのだが、
「気合が入ってきたら赤くなってくるんですよ。」
 と話してくださり、それなら、どうせならメスが赤いつがいを撮影したいものだと思うようになった。
 余談になるが、そうした誰かの一言が、生き物の観察や撮影を各段に面白く、あるいは印象深くしてくれることが多々あり、会話が上手な人と一緒に自然観察に出かけるのは、とてもいい方法だと思う。
 ともあれ、 トンボの産卵はいくつかのパターンに分けられるが、アキアカネの場合は、オスメスが連結した状態で、湿った土にお尻の先端を突き刺して卵を産むことが多い。
 その際の、地面にお尻を突き刺してはまた舞い上がることを繰り返す、ヒョイ、ヒョイ、ヒョイという動きに、なぜか僕は妙に癒されるのだ。

 福岡県ではほぼほぼ見ることができないアキアカネだが、秋に関門海峡を渡って山口県〜広島県の標高が高い場所へ行くと、田んぼの水たまりに産卵にやってくる個体をたくさん見ることができる。
 秋になり気温が下がってくると昆虫の動きは天候に大きく左右されるから、アキアカネの産卵を撮影するのはいつも気温が上がり虫が活発になる晴れの日を選ぶ関係で、その撮影は日差しが暖かくてひたすらに心地いい思い出ばかり。
 また、暑くもなく寒くもなく、ちょうど車内泊で快適に過ごすことができる、取材全体が一年で最も快適な時期でもあり、もしも僕が死ぬ時にもう一度見てみたいなぁと懐かしく思い出すとするならば、アキアカネの産卵かなという気がする。
 もっとも、これは実際に死にそうになってみなければわからないし、案外思い出されるのは、雨の中、ずぶ濡れになってカタツムリを探した、究極にジメジメした取材の可能性もあるのだが・・・
 
 
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2020年10月分


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