今月の水辺 / 卵

NikonZ7
Ai AF-S Nikkor ED 300mm F4D(IF)+顕微鏡用レンズ
深度合成
(撮影機材の話)
300mmレンズの先端にアダプターを介して顕微鏡用の対物レンズを取り付けると、高倍率なマクロレンズになる。アダプターと言ってもただネジが切られた金属のリングなので、写真用のレンズの前に顕微鏡用のレンズが置いてあると理解してもらえばいい。このやり方のいいところは、300mmレンズがAFでさらにカメラ側にフォーカスシフト機能が備わっていれば、深度合成用のピントずらし画像をカメラ任せで得られることだ。


撮影後記 

 最後にシオカラトンボの卵を撮影したのは2005年なので、なんと約15年ぶり。そんなに時間が経ったかな。こんな勢いで月日が流れるのなら、あっという間にご臨終の日がきそうだ。
 今月の画像は、シオカラトンボの産みたての卵。
 メスのお尻の先端を水に浸けると産卵を始める性質を利用して、アオミドロの中に卵を産ませ、スタジオで撮影したものだ。
 お尻を水につけてしばらくすると、まるで砂時計の中の砂のように、たくさんの卵が静かにハラハラとこぼれ落ちてくる。
 そうすれば産卵が始まると分かっていても、目の当たりにすると、神秘的でワクワクさせられる。
 15年前に撮影した際には、キヤノンの拡大用のマクロレンズ、MP-E65mm F2.8 1-5×マクロフォトを使用したのだが、今回は顕微鏡用のレンズを使った。
 顕微鏡用のレンズを使用すると、小さな小さなシオカラトンボの卵を、キヤノンの拡大マクロレンズで撮影よりも大きく撮影できる。
 ただし顕微鏡用のレンズには絞りがないので、被写界深度をコントロールできない。そこで深度合成と呼ばれる手法を駆使し、被写界深度をコントロールする。
 そうした手法は、前回撮影した15年前に撮影した際にはまだ普及していなかった。

 カメラがフィルムからデジタルへと移行し、撮影は間違いなく楽にはなったのだが、意外に、今まで撮れなかったシーンが撮影できるようになったというケースは少ないように思う。
 その点、今月の画像のような拡大撮影はその数少ないケースに該当し、デジタル化によって、あるいはカメラのミレーレス化によって格段に進歩した分野だと言える。
 ただ、だからと言って前回よりも気に入った写真が撮れたのか?と言えば、必ずしもそうは言えないところが写真の面白いところではなかろうか。
 特に水の中の物体の場合、水槽のガラス面との位置関係が写真の画質にとても大きな影響を与え、たまたまアオミドロに付着したトンボの卵が、ものがよく写る向きになっていなければ、撮影が始められないのだ。
 そして偶然にも撮影に適した位置や向きになる卵は、トンボに卵を産ませても産ませても、なかなか見当たらなくて、卵を産ませては、いいモデルはないか?と探すことを何度も何度も繰り返すことになる。
 ついには、何匹か採集しておいたトンボのメスのすべてが卵を産み尽くし、また捕虫網を手に、トンボの採集に向かうはめになる。
 そう言えば15年前にも、何度も何度もトンボのメスを補充したっけ。
 機材に不足がある代わりに、撮影に適したいい状況を作り出すために、当たり前のように粘りに粘り、当時我ながらよく頑張っていたことに気付かされた。
 キャリアを積めば積むほど、どうしても効率よくスマートに撮影したくなるのだが、ただ何度も繰り返すとか、辛抱するとか、泥臭い撮影もやっぱり大切なのでしょうね。
 昔の自分の写真に、今改めて、そう教えられる気がした。 
 
 
 
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自然写真家・武田晋一のHP「水の贈り物」 毎月の撮影結果を紹介する今月の水辺 2020年6月分


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